第16話 我慢できないバハムート
「言わずとも僕には分かる」第15話です。
お読みいただきありがとうございます。
体育館で始業式を終えた。
檀上に立つ校長は案の定、ずっとチラチラと斑鳩さんのほうへ目をやっている。
生きた心地がしないとばかりに噛み噛みだった。
何を言っているのか全然分からない。
だがどうせまともに聞く価値の無いいつもの退屈な話なのだからこのくらいパニクっている方が滑稽で僕としては面白かった。
周りもクスクス笑っていたし。
今は二時間目が始まるまでの休憩。
始業式が早めに終わったので少し長めの小休止だ。
僕はいつもなら机に突っ伏して狸寝入りしている。
だが今日はそういうわけにはいかない。
僕はあえて教室から一番遠い体育館のトイレに向かっていた。
こうやって足を動かして考え事をしているのだ。
あの転校生二人。
今は彼氏がいないと分かったのは大きかった。
ナイスだ、前の席の奴。
だが、知れたのは今はいないという情報までだ。
恋愛スタンス、つまり彼氏を作ることに対して意欲的なことかどうかまでは分からない。
そもそもあの二人を学校中の男は放っておかないことは分かりきっている。
それに加えて積極タイプなのだとしたら今日にでも無謀特攻した誰かと、なんてことも全然ある。
できるだけ早めに行動をとらなければならない。
だが焦るな。
焦っておじゃんにするのは今回だけは避けなければ。
今日は一回オーラルフィールドを使ってしまった。
一応予備の缶はあるが準備は万端じゃない。
総合的に考えて今日は作戦を立てることに終始すべきだ。
完璧なやつをな。
だから今は頭をクリアにしたいんだが…。
「なあ、僕に付いてくるのをやめろよ。」
「いやいや、俺だってこっちに用があるだけだし。」
福島がずっとくっ付いてくるのだ。
「体育館のトイレにか?
絶対に嘘だろ。」
「俺だってめんどくさいけどどうしてもこいつがそういう気分だって…。
な?俺のバハムート。
《ああ、我の小便は強酸性だから体育館の厚めの便器以外では耐えることができんのだ。》
ほらこう言ってるからしょうがねえだろ?」
福島は自分の股間に手を添えておどけた声でアテレコした。
「バカか?」
「おい、何てこと言うんだ!
バハムート、気を悪くしないでくれ。
こいつは少し無礼だけどいい奴なんだ。
《こちらこそ済まない。
だが、我が朝飲んだインスタントコーヒーのカフェインで世界を滅ぼすわけにはいかないんだ。》
お前ってやつは…!」
福島は熱い目頭を指で押さえる仕草をとった。
僕はツッコむ気も無くして黙り込んだ。
なんなんだこいつは。
いくらかまちょだからと言って宮沢先輩の件から今日はしつこすぎる。
そもそもこいつはクラスに友達一杯いるんだから僕に付きまとう必要ないだろ。
本当呆れる。
こいつに今構っている余裕はない。
僕は黙殺し続けて頭に考えを巡らせた。
だが、結局何も良い作戦が思いつかない。
こいつがうるさすぎるから。
教室近くに戻ってくるまで福島は自分の股間と会話劇を続けた。
僕までノイローゼになりそうだった。
「聞いた?
今日B組に転校した斑鳩さんの噂。」
分かった、僕が悪かった、と福島に降伏宣言をしそうになった瞬間の事だった。
廊下ですれ違い様の二人組の女子の内一人がそう語り出したのに僕はビビっと来た。
これかもしれない。
僕は気付かれないようにユーターンして後ろで会話の盗み聞きを試みた。
「あー、あの清峰から来たっていうお嬢様?」と右隣の女子が答える。
「そう。」
「本当、緑丘に来たのがあり得ないくらい空気違うよね。」
「でも、この学校って意外と外面は悪くないのかもよ?
部活だって強豪は無いけど公立にしてはかなり気合入ってるし。」
「そんなのここに来る理由になってないじゃん。」
「まあね…。」
「で、なんなの?
その噂ってのは。」
「そんな身を屈めたりコソコソしなくていいよ。
本人が喋っていいって言うから私もあみっぺから又聞きしたし。」
「あみっぺ?
あー、遥がいつも話してるあのB組の子ね。」
「そう、人の話によく首突っ込んでくる(笑)」
「ハハ。
あの子も悪いよね~。」
黙って聞いていたが全然本題に入らず僕は苛立ちを募らせていた。
ちょい!
早く話せよ!
もう二時間目のチャイム鳴りそうなこと知らないのか?
斑鳩さんの周りにいる人が居なくなるタイミングが分かる情報とかが欲しいのに!
例えば推理モノの作家が好きで小説読む時は一人で没頭するとかさ。
仮にそうなら図書室とかが狙い時にできる。
左にいる遥という女子が話を続ける。
「まあ、言っても良いって言うのは本当だと思う。」
「ふーん。
本人が良いって言ってた噂ね~。」
右隣の女子は顎に手を当てて少し考える仕草を取った。
「実は兄弟が緑丘にいるとか?」
「違いまーす。」
「あの感じで休日はめっちゃアウトドア派で緑丘の山も海も大好き、みたいな?」
「もう全く見当違い。」
「えーじゃあ、実は未来からタイムリープしてウチにいる将来の運命の人のピンチを救いに来たとか?(笑)」
「仮にそうだとして自分でそれ言うと思ってるの?」
「えー、分かんない!
ヒント頂戴よ~。」
「勝手にクイズ形式にしたのは凛子じゃん。」
「すぐ分かったら面白くないし~。」
いいんだよ!
すぐ分かって!
そこに楽しみ要らない!
無事に情報を仕入れることが大事なの!
あーもう一分しかない!
せめてもう少しまともなこと答えろよ!
なんだよタイムリープって!
僕の隣の奴と同じくらいのアホか!?
ボケとしてもイマイチだし!
あり得るかあ!
「じゃあヒントは~。」
「ヒントは彼女の髪から香るいつもと違う匂い~謎解きは紅茶と共に~」
遥が手掛かりをほのめかそうとした時、僕の隣にいた福島がその子に急に歩み寄って訳の分からないことを口にした。
「え?
渉君?」
「知らない?
ヒントは彼女の髪から香るいつもと違う匂い~謎解きは紅茶と共に~」
「え、知らない。」と凛子。
「俺の兄貴が書いてるエロ漫画の名前なんだけど。」
「いや、知るか!
ていうかその名前でエロ漫画なのかい(笑)」
と凛子がノリツッコミした。
福島?
どうした急に。
しかも漫画家の兄なんか居たのか?
聞いたことないが…。
「いや、本当は俺が好きな昔のドラマのタイトル。」
なんだこいつ!
適当過ぎんだろ!
「ハハハ。
相変わらず渉君面白いね(笑)
どうしたの?」
遥が福島に聞き返した。
「いや、ちょっと話聞こえちゃってさ。
俺もその噂知りたくなって。」
「あー、斑鳩さんのね。
まあ言っちゃうと斑鳩さんって仮転校なんだって。」
「仮転校?」
「うん。
本当は海外に本命の転校先があったんだけどなんかトラブルがあって一旦緑丘に来ただけみたい。
でも上手いこと行けば明日にでもそこにいっちゃうかもしれないんだって。」
ここで二時間目の開始を知らせるチャイムが鳴った。
「そういう事かー!
確かに的外れだったー(笑)
でも冷静に考えればそうよね。
ここに居続ける方が不自然感あるわ。」
「凛子、もう戻らなきゃ。」
「じゃあね、渉君!」
福島は爽やかにC組に戻る二人を見送りつつも話に面を食らったからか何故か少し動きが鈍かった。
当然僕の衝撃の大きさは福島の比ではない。
今日中に決着をつけないといけなくなったのだ。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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