第14話 超遅刻 蒼井汀
「言わずとも僕には分かる」第6話です。
お読みいただきありがとうございます。
「やばいやばい!
1—B、1—B!
B組の教室は二番目だよね?」
気忙しい調子なのにさっぱりとして柔らかい声が聞こえる。
直ぐに勢いよくドアが開いてその声の主が入って来た。
「すみませーん!
道に迷って遅刻しました!」
現れたのは肩で息をしているギャルだった。
でも、全然ケバくは無い。
というかはっきり言って斑鳩さんのそれとはまた異質ではあるものの彼女も“とびっきり”であることは一目瞭然だった。
一言でいうなら燦然と輝くサファイアのような“動”の印象。
最初に目立つのは肌の色だ。
褐色で弾けるような張りのある肌に一つも装飾の無いすっきりとした首元はギラつくと言うよりむしろフレッシュさを感じさせる。
一番綺麗なのは目元。
優しい弧を描いている眉にまるで南国の海を閉じ込めたように透き通った瞳をしている。
髪色は白、耳を出してるタイプのショートボブだ。
サイドバングに伝う汗が髪の色合いと相まって銀色に淡く輝いていたが、それが彼女のスポーティな雰囲気と良く馴染んでいた。
どう見ても改造されているブレザーはウエストが規定のモノより絞られていて彼女のスラリとしたスタイルを余すことなくシルエットに反映している。
対称的にシャツはボタンを外していて上辺からでも確かな存在感のある胸元が軽くめくれる緩い着こなしになっていて、そのギャップが全身に華やかな色気を纏わせていた。
「登校初日から遅刻でしかもその服…。
まあ、良いでしょう。
ちょうど今斑鳩さんに自己紹介してもらっていたの。
さ、蒼井さんもこのタイミングでやっちゃってもらえる?」
「はい!」
再びどよめく教室の空気の中、先生の声かけに応じて彼女も檀上へ登る。
歩く時も腕を大振りに動かしているわけでもないのに斑鳩さんとは違った奥ゆかしさがある。
育ちの良さというより雰囲気がはつらつとしているからこそ控えめな振る舞いが引き立つという。
狙ってやっているのだとしたら恐ろしさすら感じるが、とにかく動きの淀みの無さから作為を感じることは出来なかった。
斑鳩さんの隣まで来る。
並んでみると二人はほとんど背丈が一緒だった。
彼女はその場で黒板の方にチラっと目をやると何故かニヤっと笑った。
そして息を深く吸う——。
「やいやいやい!
聞いて驚け!」
突風のような口上に全員が面を食らった。
彼女は変わって大きなアクションで腰に手を当てる。
空いた手でビシッとこちらに指を指す。
そして勇ましく笑った。
見た目からのイメージはあったがもう一段階アゲアゲな感じの物言いに皆驚くと同時に目を輝かせた。
「水無瀬は北、うちは清峰女学院から来た皆のアイドル!
趣味は映画観るのとスケートボード!
鎖骨が綺麗なのと手が小さめなのがチャームポイント!
特技は一回転!」
すると彼女は教室の縁を向いて半歩で助走をつけ華麗なサイドフリップで教壇を降りて見せた。
バネのような跳躍に見事な身の縮め方だったが、男は全員空中でめくれた腰元に全集中していた。
スタッと着地した後も息つく間もなくこちらへアッカンベーという感じに可愛らしく舌を突き出した。
両手を耳の後ろにつけてわさわさと揺らす小悪魔的な挑発の披露にギャラリーの盛り上がりは今日最高潮になった。(少なくともボリューム的には)
「なんちって」とごまかして彼女は自分の名を口にする。
「蒼・井・汀です!ヨロシクっ!」
《です!》とまで黒板に書ききって蒼井さんのステージは完成した。
「かっこよくて素敵…!」
「かっこいい上に可愛いし無敵か?」
「ノリ良っ!」
「さっきのバク転よりすごいんじゃないか?」
「またすごい子が来たぞ!」
「今日奇跡起こりすぎだろ!」
斑鳩さんの時と同じかそれ以上の人だかりが押し寄せた。
「蒼井さんってどっかで見た事あるんだよな…。」
人だかりの中である女子がそう呟いた。
「ねえ、蒼井さんってmelって名前のミンスタのアカウント知ってる?」
「ねえ、蒼井さんって水無瀬放送のアシタノ原石に出てた?」
その女子が蒼井さんに聞いたのと同時に他の男子も同じトーンでお伺いを立てた。
蒼井さんは一瞬目をパチクリした後少しはにかんでその質問に答える。
「あー、それ両方共うち。」
「えええ!」と盛り上がる。
「おい、それ何なんだよ!?」と周囲は質問した男子に釈明を求めた。
「ミンスタの方は知らないけどアシタノ原石はスポーツの金の卵紹介みたいな番組で水泳のトップ選手として蒼井さんが出てるのを見たことがあったような気がして。
しかも確か中学で全国大会で決勝まで行ってるって…!」
「負けちゃったけどね(笑)
一応百メートルは五四・七五だよ!」
今度はミンスタのことを言及した女子が声を発する。
「逆にそれ知らなかったけどmelって私が好きなミンスタのモデルで…。
かっこいいストリート系で売ってる子…。」
「それも知っててくれてる人いたんだ!
嬉しいな。
趣味でやってたボードの写真アップしてたらなんかメッセージ来て。
それから大きくはないけどストリートブランドのモデルもやってるの!」
「モデルでもあるのかよ…!」
「キャラ強すぎるだろ!」
「ね、斑鳩さんも何かSNSやってたりするの?」
「え、私は…一応やってはいますけど…。」
一旦脇に控えていた斑鳩さんも巻き込んで二人への質問や友好アピールが矢継ぎ早に続く。
教壇周りの人口密度はすごいことになっていた。
よく見ると、いつの間にか僕の前の席の奴も蒼井さんの取り巻きの中に混じっていた。
そいつは喧噪の中で大きく口を開いた。
「みんな待て!
有象無象の質問を止めろ!
大事な質問がある。」
その大声で少し教室がシンとした。
「お二人に、彼氏はいますか…?」
男子だけでなく女子も皆が唾を飲んでその答えを待った。
「いません。」
「いないよっ。女子高だったし。」
二人とも朗らかに答えた。
教室はますますヒートアップした。
「ていうか蒼井さんも清峰なんですね。
二人は仲良いんですか?」
熱気の中でその質問が飛び出た瞬間、蒼井さんは顔を曇らせた。
「いや、斑鳩さんとは話したことないや。」
「ええ、そうですね。」
二人の間に微妙な空気が流れて質問の波が堰き止まった瞬間を先生は見逃さなかった。
「ほら、下がった下がった。
やれやれ。」
そう言ってついにギャラリーを突き放すとわざとらしく咳払いした。
「新しいクラスメイトも大事ですが、他にも大事なことがありますよ。
夏休みの宿題集めます。
さっ、順に前のかごに入れて。
終わったら各教科の係が担当の教員に提出するように。
もう時間がだいぶ押してます。
出欠はこれで確認するのでこれでホームルームは終わりです。」
「数学の応用問題やった?
あれ意味分かんないよね。」
「あーもういいわ。
どうせ五とか取れるわけ無いし。」
「テストがんばりゃ良いっしょ。」
「あ、化学の宿題全部忘れたっ!やらかした~。」
「諦めただけだろ?」
話題が変わると1-Bは少しだけいつもの風景に戻った。
が、それも束の間でホームルームが終わり小休憩となるとまた転校生二人の元に人だかりができた。
しかも他クラスの奴も集まって来て大所帯になっている。
だが、僕は変わらず教室の隅にいた。
「同じ学校に転校する同級生なのにお互い面識ないなんてあるんだな~。
清峰って結構殺伐としてるのかもしれねえな。」
福島がこちらへ何かごちゃごちゃ言っているが僕は全くの上の空だった。
最後までお読みいただきありがとうございました。
もしよろしければ、ブックマーク・評価いただけると励みになります。




