第13話 弱者の正論
「言わずとも僕には分かる」第13話です。
お読みいただきありがとうございます。
際限なく高まる熱気を見かねて先生が斑鳩さんの前に割って入った。
「ちょっと静かにしなさい!
確かに前の高校は凄いかもしれないけど、今は緑丘高校1年B組の斑鳩さんよ。
みんな平等です。」
斑鳩さんの周りにできた人だかりは注意されてついにのろのろと各々の自席へ下がっていく。
「出身校聞いたか?」
僕の前に座っている奴がこそこそとその隣に話しかけている。
「聞いた聞いた。
清峰女学院ってなんかすごそうな名前だよな。」
「バカ、お前知らないのか?
限られた上級国民コミュニティの御令嬢しか入れないという筋金入りのお嬢さま学校だよ。」
「…!
どっかで聞いたことがあるかもしれない。」
「ここからそう遠く無い。
なんせ緑丘どころか県全体で特に目立つ観光地とか名物の無い水無瀬の数少ないシンボルだからな。」
「確かに。
名産って言っても和紙って言うんじゃパッとしないもんな。」
「そんなのはどうでも良いんだよ。
やばいのはそこにいる面子だ。
誰でも知ってる大企業の役員、大病院の院長、政治家、大手銀行の頭取、外交官とか界隈の大御所の娘が軒並み寄り集まってる中高一貫校。
もはやそこに子供を入れることが特権階級の仲間入りを認められるステータスにすらなっているという超名門なんだぞ。
稀に必死に勉強しただけの一般人も入学するみたいだが、まあ彼女の雰囲気を見るとほとんど間違いなく俺たちとは別世界の住人だろう。
オーラだけで言ったらその中でも上澄みかもしれない。
国会議員の娘か?それとも有名な大学の学長か?」
「ちょっと次元が違い過ぎるな…。
ていうかなんでそんなに詳しい?」
「お前がモノを知らな過ぎるんだよ。
自分の住んでる所のことくらい知っておけよな?」
僕も知らなかった。
そうなのか…。
僕の前の奴は話を続ける。
「ていうかそれより、なんで顔立ちも雰囲気も箱入り娘って感じの完璧なお嬢様がこんな辺鄙な学校に転校なんか?」
「さあ?
下界のことも知っておかないと立派な大人になれないぞ、とか言われて見学しに来たんじゃね(笑)?」
「真面目にその線も無くは無いよな…。
っておい、あっち見ろ!」
「え?
校長いるやん(笑)」
前の奴が顎をしゃくって指し示した方向に僕は目を向ける。
教室後ろのドアの向こう側に教卓の方をすごい目で睨んでいる校長が居た。
「え、校長先生!?」
小林先生もその存在に気付くとドアを開けて廊下にいる校長先生に駆け寄った。
「校長先生、いかがなさいましたか?」
そう尋ねられても答える言葉も無く校長はじっと斑鳩さんの方を見張っている。
よく見ると壁についた手が小刻みに震えていた。
少し間があった後、校長はようやく沈黙を破る。
「斑鳩さんは清峰女学院でも学年一位の成績をずっとキープされていたお方です。
中学の全国模試でも上位十名の中には常に入っていた。
それに清峰の中でも特に家柄が良い所の御令嬢だという噂もあります。
そんな方が何の前触れも無くなぜ緑丘に!?
なぜ九月から急に!?」
「…はあ」と漏らして固唾を飲む校長。
「ウチは編入試験にも面接が適用されます。
言ってもほとんど形だけですが…。
斑鳩さんは当然満点で筆記試験を終えて合格自体は実質決まったのですが、後日実施した面接では前の学校のことはおろか志望理由もまともに答えない。
しかしあまり深く踏み込む勇気も無く、結局私は歓迎の言葉を述べるしかなかった。
元清峰の生徒の家庭が抱えるご事情なんて私の身の丈を大きく超えた事であるに違いないから。
知ったら後戻りはできないかもしれない。
なら無関係な弱者であり続けた方が良いに決まっているんです!
しかし、清峰で横領やカンニングの主導とか何かしらの問題を起こしてこちらに逃れて来ていて私には腹の内の本性を隠していたとしたら、やんちゃなだけの青い坊主や小娘なんて比にならない大問題を緑丘で起こすきっかけになるかもしれない…!
転校間際に休みが多かったという調査書の記述も引っかかる。
何が狙いなのか。
恐ろしい。
胸騒ぎがして仕方ないんだっ!」
「はあ、さようですか。
ですが今は生徒を下手に刺激するより様子を見るほか無いのでは無いでしょうか?
何より特別扱いは誰のためにもなりません。」
「あなたはキャリアが無いからそういうことを…!」
なんて僕がギリギリ聞き取れる音量のひそひそ話が廊下の外では続いていた。
「おいおい、スゲー転校生だな」
と福島がこちらに薄笑いを向けてきたが僕は何も返事しなかった。
僕は無表情で固まっていた。
「…?
どうした?
お前があんな顔が良い女子に無反応なんて…。」
他ならない斑鳩さんは先生同士が話す間少し俯いていた。
僕の勘違いかもしれないが初めて余裕の無さそうな顔を覗かせている。
でも、その表情は釈然としているわけでもなく、苛立っているわけでもなく、狼狽えているわけでもない。
少し眉を下げて気を揉んでいるように僕には見えた。
「蒼井さんはまだ来てないんですか?」
といつの間にか教室に戻った小林先生が僕らに向けて言った。
先生は少し教室を見渡してお目当ての誰かが居ないと知ると首を傾げた。
「初日から遅刻ですか?
まあいいです。」
先生の言葉を受けて「もう一人いるの!?」等とまた空気がざわつく。
「斑鳩さん、席についてですが視力的には何か希望ありますか?」
と言いながら先生は教室の前へ出た。
「いえ、どこでも大丈夫です。」
「助かります。
でしたらそこの空いてる机を使ってもらっても大丈夫ですか?」
「はい。」
「キャー!
斑鳩さんここ来るって!」
先生が指を指した机の周辺が賑わう。
斑鳩さんが教壇を降りようとしたその時だった。
ドタバタと階段を誰かが駆け上がる音が廊下の方から響いた。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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