第42話 騎士団長…教場
4月の中旬、俺は支給された新品の金モールが付いた警察官の礼服に制帽を被り、これでもか~というぐらい人生一番のような幸せな笑顔をしたおばあさんと並びながら同室になった少し太めの井上君からおばあさんのスマホで記念写真を取ってもらっていた。
入校してから教官達から敬礼などの基本的な動作を学び椅子に着座した状態から起立したり、誰かがスピーチするたびに行う敬礼だったり、そういった動作が全員揃うまで鬼のような罵声を浴びながら何度も何度も練習させられて全員がシンクロした動作ができるようになった時、警視庁のお偉方がそろってやってきて挨拶を聞いたりして無事に警察学校の入学式が終了した。
それが終わるとこうして父兄や同期の仲間達と記念写真をとっていたのである。
「ああ~あなたの両親にもこんな立派になったユーちゃんの制服姿を見せてあげたかったわ~」とおばあさんはハンカチで目頭を押さえていた。
「おばあちゃん今までありがとう~これからはりっぱな警察官になっておばあちゃんの面倒をみるから~安心して‥‥」
”まあ、この世界にきてず~と面倒みてもらっていたからな~長生きしろよ、ばあさん‥‥”と思っていた団長だった。
高校を卒業して、春から東京都府中市にある警視庁警察学校に無事に入学することができた。まあ、筆記試験は電脳エーアイのおかげで何の苦労もしなかったが‥‥
警視庁警察学校に入校した450人のうち女性警察官は160人で北海道から鹿児島までの出身者のほか、自衛官や消防官、など社会人からの転職者もいた。大卒相当の入校者は短期課程(6カ月)と高卒・短大卒相当の者は長期課程(10カ月)研修が待っていた。
4月1日入校の為に着替えなどを入れたバックをもって府中市の警視庁警察学校の門をくぐると警察官募集のポスターのようなさわやかな笑顔の教官が待っていると思っていたら大まちがいである。
その目つきはにらみ付けると言っていいほど明らかに鋭いもので俺達を値踏みするかのようにしてそれは、犯罪者をみる目つきだった。
受付に並んでいると前では「声が小さ~い!」「もう一度言え~!」という教官の罵声が響いている。
”凄いですね~ご主人様‥すぐになまいきな教官を殴ったりしてやめないでくださいね~”
”ああ~大丈夫だ、騎士団の新人を鍛えている時はこんなもんじゃなかったからな~、なんでも大声をだしてキビキビと動いていればいいんだよ~”
そう言いながら自分の番が来たら、周りが驚くような大声で自分の名前いう団長、第八教場がこれからいろいろと授業を受ける教室ということでそこに行くように指示された。
40名程の専門学校を卒業した者や転職組などが同じクラスだった。
そこの担任教官の名前は勝沼道隆警部補(41歳)バリバリの体育会系の教官で、ここでは勝沼教場と呼ばれこの警視庁警察学校、最悪のハズレくじを引いてしまったのである。
担任教官はクラス全体の指揮権を持ち、学生の成績・性格・適性・倫理観を評価し学生にとって絶対的な上司であり、規律と服従の精神を養う役割をになっていた。
助教は佐久間和幸巡査部長(28歳)担任教官を補佐し、日常の点呼、寮生活、身だしなみチェックなどを通じて学生を徹底的に指導する教官である。
指導学生との年齢が近いため、より実践的で細やかな指導することが彼の役回りだった。
【警視庁に採用されて入学すると階級は一番下の巡査である、この警察官の階級は巡査から始まり、巡査長、巡査部長、警部補、警部、警視、警視正、警視長、警視監、警視総監の階級が基本であるまあ階級をあげていくには難しい試験と勤務状況が査定される。
ノンキャリアの場合には、人によって出世の度合いが異なってくるが、平均的には警部補前後で退職する者がほとんどである。
巡査の階級で採用された生徒たちはここで警察官としての基本を学びながら大卒の初任給は30万円、短大や専門学校それに高卒の初任給は26万円が毎月支給された。】
寮の寝泊りする場所を居室と呼び6名一部屋が割り当てられこの6人が班として団体行動での最小のグループでもあった。
同室の同い年は三名、それに専門学校を卒業している二人が同室になった。
今までは時間になれば親に起こされ昼は学校で友人達と馬鹿な話しで盛り上がり、夜も好きな時間で寝て自由気ままな生活をしていた連中はその日からガラリと変わった。
朝6時に起床して分単位での行動が求められ夜の11時に消灯の規則正しい生活である。
警察学校の1日のスケジュール
6:00 起床 14:20 4時限目
6:30 点呼 15:55 5時限目
7:00 朝食 17:15 終業
8:30 ホームルーム 18:00 夕食
8:50 1時限目 19:00 入浴
10:25 2時限目 22:30 点呼
11:45 昼食・休憩 23:00 消灯
12:45 3時限目
最初に覚えなければいけ警察官の敬礼は「警察礼式」によって規定されており、上官に対して敬礼を行い、上官はこれに答礼することが原則でまた、同級者同士でも互いに敬礼を交換することが定められていた。
他にも廊下を歩いていて他の教官や職員に「帽子が曲がっている」「ネクタイがゆるい」「敬礼の角度が悪い」等々指摘を受けることは日常茶飯事だが、それについても一つ一つ「○○巡査は○○教官に○○について○○とのご指導を頂きました。申し訳ありません!」ときちんと礼を言わなければならない。
このようにただ廊下を移動するだけでも、いつ何時何言われるかわからないので、ありとあらゆる瞬間気を張っていなければならない。
このような事についていけないと思うものは無理してここにいる必要がないそうだ、いつ辞めてもらっても構わないと教官達は思っている。
つまり、警察人としての規則の順守と上司への気遣いや縦社会を「ボケ!」「カス!」とか「もう辞めろ!」と厳しい罵倒をされて体に覚えさせるために徹底した教育をしているのでる。
まるでカルチャーショック、親や先生からも言われた事のないような厳しい罵倒によって今までの緩んだ生活から一変するのだった。
朝や夕方のトレーニングに騎士団の厳しい縦社会にいた俺にとっては何の苦もない生活だった。
”ご主人様、向こうから教官が来ますよ…敬礼の準備してください‥‥3,2,1今です!”とまあ~俺の場合はこいつがいつも気を使ってくれるので問題はなかった。
”ダメですよ、この書類はそのまま出さないでください、印が必要です。ふちが欠けた印はやり直しですから気をつけて下さい‥‥ああ~ダメですよ朱肉でふちがにじんで少し汚れていますよ~”
”えっ!、こんくらい大丈夫だろう~”
”な、なにを言ってんですか~警察学校もののTVドラマではそれで、がっちり怒られていましたよ~‥もう一度書き直してください!‥‥”
こうして俺には教官よりもうるさい監視役がいたのであまり怒られずに済んだ
また一番気をつかうのは「教場当番」だ、これは出席番号順に二人ずつ回る教場全体の雑務をこなす当番である。
メインとなる仕事は「授業連絡」であり、常に二人のうち片方は教官室に待機していなければならない。
”ご主人様いいですか、あの黄色いテープから向こうには無断で入ってはいけませんよ、気をつけてください”
”こうして指示をまっているあいだはボ~としてはいけません…掃除をするふりをしてください”
”え~いつまでこんなとこ掃除してなくちゃいけね~だよ‥‥”
”おっと~勝沼教官のコーヒーカップが空になりましたよ~‥‥お代わりを聞いてください”
”チェッ!”と団長は舌打ちをしながら‥‥
「勝沼教官、おかわりはよろしいでしょうか!」
「えっ!、あ~頼む!」そういって渡されたカップ‥‥
”あの教官の好みはコーヒースプーン2杯に砂糖1ケとミルク少々ですよ……”
”ゲッ!、なんで、そんなこと知ってるんだよ~”
”グフフフ~ここにいる職員の好みはすべて、防犯カメラ映像から調べております。好みを知っておかなければまた文句を言われますから気をつけてください。”
そして一人一人に「お飲み物はいかがですか」とお伺いを立てて次々と職員のお茶のお代わりやコーヒーを多数の教官たちの好み(お茶やコーヒー、その濃さや砂糖は必要か)
他の学生達は怒られながら身につける気配りだったが、団長だけは怒られないでうまく立ちまわり教務室でも要領のいい奴と思われていた。
そして授業10分前に必要な持ち物や場所をホワイトボードに教官が書くと全速力で教場に戻り、それを全体に伝えたり、授業用資料を運んだりしければならない雑用仕事が「教場当番」だった。
つづく、、、、




