第25話 騎士団長…ひき逃げ事件‥その2
佐山信二(67歳)
私は長年、八神家の専属運転手として勤めていた。八神家は先代からの政治家の一族で車の後部座席では人には言えないような政治の裏話がなされてきた。
その会話については聞かない事に徹する事が、専属運転手の使命でそのような秘密守秘の為の上乗せされた給金が毎月支給されていた。
お陰で学のない私でも生まれてきた二人の娘を無事に大学までだすことができて、今ではその娘たちも結婚して孫も三人できた。
だが長女の五歳の娘で、孫の結衣が心室中隔欠損症と言う心臓病だということがわかり近くの大学病院に入院している。この治療は非常に難しくお金もかかるそうだ。
私はつい勤め先の主人、八神先生にこの話をもらしてしまった。先生も真剣に聞いてくれて「それは、大変だな~」と同情してくれていた。
それからしばらくたって夜遅く、八神家に呼ばれた私はお手伝いさんに案内され応接室はいると、八神先生と御長男の博隆坊ちゃんそれに影山弁護士さんがソファーに座っていた。
それから八神先生から私が呼ばれた事情を聞かされた‥‥‥
御長男の博隆坊ちゃんは泣きながら土下座して私に身代わりをお願いしてきた。
八神先生は孫の結衣の為に”日本一の心臓病治療の実績をもつ関西の大学病院の先生に治療をしてもらい、その費用も全額面倒を見るので何とか助けてくれ”と私に頭を下げてきた。
孫の病気を関西の日本一の先生に診てもらい治療費まで………すぐに私は決断した。
長年こんな学のない私を高額な給与で雇ってくれていた、八神家への最後の恩返しだと思い、私は承諾した。
家に帰り妻にその事を話すと妻は泣いて反対していたが‥‥「もうろくした、先の短い私よりもかわいい孫の命が一番だ。」と説得した。
そして、私は翌日、警察に出頭する前に”勤め先の八神先生が結衣の心臓病を治療してくれる、関西の小児心臓外科の腕のいいお医者様を紹介してもらう事になりました。治療費の心配もありません、全て八神先生が面倒みてくれます。”と携帯から娘に最後のメールをいれたのである。
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警視庁は東京都の警察組織であるが、その主要課長および部長級以上の幹部の多くが、国家公務員採用I種試験に合格し『警察庁』に警察官として採用されたいわゆる「キャリア組」によって占められる。
この「キャリア組」はこの『警察庁』からの”出向者”であり、その絶対数は日本の警察本部の中でも首都警察である警視庁が最多である。
【『警察庁』とは、日本の国家公安委員会の特別機関として全国の警察組織を統括・指揮する内閣府の下にある一つの中央省庁の行政機関です。】
彼ら上級階級のキャリア達、警視庁の主要な要職も含めて、関東ではトップの国立帝都大学法学部を筆頭に関東南大学、筑波成北大学が東の御三家と呼ばれこの御三家の大学を卒業したメンバーがグループを組んで桜花会と言う親睦会を立ち上げていた。
それに対抗して関西ではトップとなる国立京都平安大学法学部が筆頭となり、浪速大学、神戸六甲大学が西の御三家として菊花会という親睦会をつくり警視庁には二大派閥が構成されていた。
都内の23区の各警察署長もどちらかの派閥の人材がついており、それ以外の地方などの大学法学部出身のキャリア組は外様と呼ばれ、それ以外の東京都の市町村の署長枠として配属されていた。
外様組はどんなに優秀でも警視庁の花形要職にはつくことがなかったのである
目黒東署の署長、貝沼誠一警視正(43歳)は国立帝都大学法学部の出身のキャリアであった。
女子高生のひき逃げ事件の翌日の朝早く貝沼署長が署長室で書類に目を通して印を押していたら、携帯電話がなって画面を見ると自由民政党の幹事長の八神辰巳の第一秘書成瀬信介からの電話だった。
八神辰巳は国立帝都大学の出身で警視庁、桜花会の有力な支援者でもあって、桜花会の会合では第一秘書が先生の代わりに参加して名刺交換をしていたのである。
いきなり雲の上のような派閥関係者からの電話で緊張してでると‥‥‥
「はい、貝沼ですが‥‥‥」
「忙しいときに申し訳ない、私は自由民政党の八神辰巳だが、君は目黒東署の貝沼署長さんでいいのかな?」
「はい!、そうであります!八神先生!!」とダッシュで座席から起立して頭を下げ、うわづった声で答える貝沼誠一警視正だった。
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毎日、トレーニングを朝と晩に繰り返し祖母が作る、この世界のカロリーが高い食事を二人分も食べていた団長は、前は58kgのひょろひょろな体だったが、今では筋肉もついて70kを越して立派な体になっていた。
着ていた学校の制服もパッツパッツとなり、競馬の稼いだ金で祖母が入院中に他の私服やデニムなどといっしょにサイズのデカいものに替えていた。
他には鍛錬用の10kgの鉄のバーベルを背中にしょって土手道を走っていたが、それは20kgのものに替わり200m程は全力で走れる体力と持久力がついていた
以前の剣技も体が覚えていて、すでに玲亜とは対等に相手になることができて、体術も師匠には3回に1回は勝てるようになった。
顔つきもだいぶ変わりこの世界に順応してきた事によって、急激にそれは少年から大人の青年へと変わっていたのである。
もともとは甘い顔立ちの永瀬優紀だったが、今では少し大人のワイルドな顔だちに変わってきて、道ですれ違う他校の女子生徒達はハートのような目で団長をちらちら見てくるのだった。
ただ向こうの世界での騎士団長として命のやり取りの修羅場をきりぬけて、身につけていた風格がこの体にも影響して、少しずつ目つきや外見にただようオ~ラには気軽には声をかけづらい雰囲気をだしていた。
エーアイが天城達也にひき逃げ犯の情報を送ってから二日がたったが、ニュースではその真犯人の話題はこれぽっちもでなかった。
”おい、エーアイなんであの女子高校生のひき逃げ事件の犯人があの偉そうにしている政治家の息子だ!というニュースが流れね~んだよ!”
朝の鍛錬も終えて朝食も食べて学校へ向かう途中に、団長はエーアイに聞いてみた。
”そうなんですよね~、確実にあのPCから玲亜様のお父様の携帯に前回と同じように情報を入れたんですけど‥‥‥”
”なんかあったんじゃねいか~、向こうでも悪い貴族や権力のある貴族は手をまわして、俺達もよく上からの命令でこれ以上の調査をするなとか言われていたからな~”
”玲亜のパパの携帯に侵入して見ろよ、なんかわかるかも知れね~な…”
”ラジャー!”
すぐに天城達也の携帯に入って情報を探るエーアイ‥‥
”やはり、ご主人様の思っていたようです。天城達也様は事件の起きた目黒東署にはあの情報は入れておりません、かわりに知り合いの週刊誌の記者に『またムカつく真実がある。』と言って翌日にはそのデータを送っておりますから、週刊誌の記事にでもだそうと思ったんでしょうか?”
”えっ!…そうなんだ、やはりこの世界の警察もおなじだ~、貴族の偉いやつらと同じようにこの国の偉い政治家にはケンカは売れねのか~”
”それで、その記者からはなんか返事はきているのか‥‥”
”これは!?‥‥ウッ!、ウウウウ~‥‥許せません!記者からは、『すみません、アイツは怪物、だれも手がだせません‥‥神様からの天罰を待つしかありません』と言う返信が入っております。”
”なに!!~~マスコミもビビるほどそんな化け物みたいな権力があるのかよ”
”許せねな~街で暴れる魔物や化け物それに怪物退治なんてのは王国騎士団の仕事だ!”
”よ~しわかった!‥‥エーアイこのひき逃げ犯には天罰を与えるぞ!”
”フフフフ、、そうでなくちゃご主人様、了解しました~まずはあのひき逃げにあった女子高校生がどうなったか調べてみます。”
”オオ~そうだ、そうだったぜ!、いきなり車がぶつかってきたんだ、すぐにどこの病院にいるか調べてくれ、急いであの女神のポーションを飲ませて助けてあげないと”
”今日は学校はずる休みだ~、病院が分かったらすぐにいくぞ‥‥”
”いや~それはまずいので、ワタクシがおばあ様の声で『熱があって休みます~~』と連絡しておきますよ‥‥”
”さすがエーアイ、グジョブ!”
団長はこうして学校へは行かずに駅へと向かうのだった。
つづく、、、




