第4章 「優勢」
その日の夕方、この混乱した街では、まるで戦場の只中でよく聞こえるような音が響き渡っていた。
手榴弾が爆発する音、銃火器の発砲音が反響し、そして魂も肉体も傷ついた人々の悲鳴やうめき声が混じり合う。
先ほどから避難するよう命じられていた青年は、今もただ黒いアスファルトを見つめながら、その場にしゃがみ込んでいた。
まるで心がすでに体から抜け落ちてしまったかのように。
「隊長、あの子を見てください。今にも震え上がってるみたいですよ。」と若い警官が嘲るように言った。
「じゃあ、お前が慰めてこい。」と年配の警官がぶっきらぼうに返す。
「えぇ……やだよ、めんどくさい。」と若い警官は答えた。
「おい、新入り!」
突然、遠くから別の警官が若い警官に向かって呼びかけてきた。
「なんだよ!?」と若い警官は苛立った声で返す。
「お前さっきから何を撃ってるんだよ、そんなちっこい銃で? こっち見てみろよ、俺たち全員が使ってるこの銃を! お前のそのオモチャみたいなのは、壁を這うトカゲでも撃つのがお似合いだぞ! ワハハハハ! まったく、腰抜け銃の使い手が!」
攻撃的な笑い声とともに、遠くの警官は自分のアサルトライフルを誇らしげに掲げた。
「はぁ!? なんでみんなそんな銃持ってんだよ!? 俺も隊長も今あるのは、このボロいリボルバーだけなんだぞ。なぁ、隊長?」
若い警官は横に立つ年配の警官を見上げながら言った。
だが、その瞬間、若い警官の視線と隊長の瞳が合ったとき——
隊長は即座に若い警官を切り捨てた。
「隊長って誰のことだ? ここにいる誰がそんな小さくて腰抜けみたいなリボルバーを使ってるって?」
サングラスをかけた年配の警官は、見下すような声音で言い放った。
そして若い警官は気づいていなかった。
その年配の警官もまた、部下と同じ型の長い銃身を持つライフルで、巨大な怪物を撃ち続けていたことに。
——例外は、若い警官ただ一人だけだった。
「はぁ!? なんでだよ!? どういうこと!? じゃあ俺はどうすりゃいいんだよ! もしかして、この場でリボルバーなんて使ってるの、俺だけってことか!?」
若い警官はそう叫びながら、リボルバーをパトカーのボンネットに置き、撃ち続けて痺れた両手のひらをぶらぶらと揺らした。
「ワハハハハハハハ!」
二人の持つトランシーバーから嘲る笑い声が響き渡る。
「だから昨日言っただろ。話はちゃんと聞けって。すぐ車を取りに行くんじゃない。ほら、後部座席に置いてあるライフルを取ってこい。弾も全部、もう積んでおいたから。」
と年配の警官が説明した。
「ウワァッ! ありがとうございます隊長! やっと、人生で初めて、市街地でライフルを撃てますよ! よっしゃあ! 警官になってよかったぁ!」
若い警官は大喜びし、用意されていた弾を装填しながらアサルトライフルを構えた。
「いいか、弾は無駄遣いするなよ! あいつの注意をそらすためだけに使うんだからな。」
と警官長が釘を刺す。
「はいはい、任せてくださいよ! 最高ランクの俺の腕前ってやつを見せてあげますよ!」
若い警官は得意げに返した。
…………..
………
….
五分が過ぎ、太陽はゆっくりと沈み始めていた。
そして、それまで両手で身を守っていたあの怪物が、
銃撃やロケット砲、さらには兵士たちの投げ込む手榴弾すら意に介さず、
ゆっくりと立ち上がり始めた。
その怪物は、今まさに沈もうとしている夕日をじっと見つめ、
次に鋭い眼光で兵士たちの方へ視線を向けた。
「グロォォォォォアアアアアッ!!」
怪物は突然、信じられないほどの速度で兵士たちの軍用車両へ突進した。
顔面に向けて砲撃やロケットランチャーが浴びせられているにもかかわらず、
まるで痛みなど感じていないかのように一切怯むことなく突き進み、
ついには鍛え上げられた巨体をそのまま車両群へ叩きつけた。
「ボォォォォンッ!!」
次の瞬間、轟音とともに巨大な爆発が起き、
怪物が突っ込んだ軍用車両は一瞬で粉々に吹き飛ばされた。
炎に包まれ、あたり一面の破壊を覆い隠すように燃え盛る爆発の中から、
人間の悲鳴と、金属が引き裂かれ砕けていく凄惨な音が聞こえてきた。
「クラック! クラック!」
「アアアアアァァァ!! た、助けてくれぇ!!」
炎の渦中で、兵士のひとりが絶叫する。
「ボオオオオオムッ!!」
再び爆発が起こり、燃え上がる炎の中で軍用車両の鋼鉄が四方へと吹き飛ばされる。
「掩護に入れ!」
老いた警官が部下たちに叫んだ。
指示を受けた警官たちは、すぐに頭を低くしてパトカーの裏へと身を潜めた。
「こ、これは……これは夢だろ……?
ミシカルビーストが強いのは知ってるけど、まさかここまでとは……!
隊長、俺たち、一体どうすればいいんですか!?」
遠くから若い警官が叫ぶ。
年配の警官は手際よく無線のチャンネルを切り替え、呼びかけた。
「アルファ隊、アルファ隊、こちら聞こえるか、応答しろ。」
「ジッ……ジリッ……ジジジ……」
アルファ隊からは何の反応も返ってこない。
「アルファ隊、アルファ隊、聞こえるか、応答しろ!」
「ジッ……ジッ……こちらアルファワン……
隊長は……戦死した……ジジッ……
見ての通り、俺たちの部隊も……もう終わりだ……ジジジ……
俺はプトラっていう……ジッ……
どうか……子どもと妻に……愛していると……伝えてくれ……
それと……一緒に過ごせなかったことを……謝っていると……
ジッ……ああ、神よ……許してくれ……ジジ……」
そして通信は、終わりのないノイズだけを残して途切れた。
「……」
「……安心しろ。必ず伝える。」
老警官は静かに呟いた。
「どうしてだ……たった一撃で軍の部隊が全滅だと!?
隊長! 本部に聞いてください、あとどれくらいこの化け物を足止めすればいいんですか!
クソッ、あの女、何してるんだよ!
この時間ならもう到着しててもおかしくないだろ!
まさか俺たちを見捨てる気か!?
チクショウ……俺にもスターダストがあれば……ああもう、クソッ!!」
若い警官は怒鳴りながら、パトカーのボディを何度も叩きつけた。
老警官は静かに周囲を見渡した。
視界にあるのは、燃え盛る巨大な炎、恐怖に震える部下たち──
そして、ただ黙ってうつむき続ける一人の青年。
「……俺じゃなきゃ、誰がやる……?」
老警官は小さく呟いた。
そして彼は勇敢に立ち上がり、恐怖も危険も振り払うように、
大きく、力強く息を吸い込んだ。
「残っている全員に告ぐ!
負傷者を見つけたらすぐに救助しろ!
俺たちは撃ち続ける!
何があっても撃ち続けろ!
俺たちは警察だ!
市民を守るために、この身も、この命も捧げる覚悟がある!
さあ、最後の一滴まで戦い抜くぞ!
俺たちは──!!」
勇ましい隊長の姿を見て、
警官たちの心に再び炎が灯った。
その掛け声は、もはや恐怖を知らぬ軍隊の咆哮のように力強く響き渡った。
イニシャルR:「やあ、僕は主人公だ。だが、作者が愚かで約束から逃げ出したせいで、
今では肩書きだけの主人公にすぎない。僕も赤座あかりと同じ運命を辿るのだろうか。
赤座あかりは、いつもタイトルコールに応えていたのに、
結局主人公になることはできなかった……。」
はぁ……。
この物語を読んでくれてありがとう。そしてどうか、僕が再び主人公に戻れるように、
応援と祈りをお願いしたい。




