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188話:城砦へ向かいます

 予定変更で、スライムの巨大変異種に効く毒がアシッドスライムに効くことをその日の内に確かめた。

 教会に戻って用意してた魔法陣なんかを設置し、壷も別で作って簡単に調整を行い、同じことを風呂屋さんでも。

 一日行ったり来たりを繰り返して関係者に使い方の説明も行った。


 翌日には馬車に乗せられ伯爵家に連行される。


「え、着替え?」


 できれば杖も見栄えのいい物をって言われたから、三叉の杖を持ってきたけど。

 そしたらさらに服もいい物に着替えるようにと指示された。


 朝から迎えの馬車を寄越されたのは、私の身支度のためもあったしい。


「まぁ、ドレスを着ろとは言わないよ。あれ苦しいし重いし。けど最低限体裁整えないと、無礼者! って話さえ聞いてもらえないからね」


 そういうオリガさんはパッと見ドレスに見える服装に着替え済み。

 けど魔眼で見るとスカート部分が着脱可能になってるし、足元もしっかりしたブーツだ。


 私はソフィアさんのだという服を借りることになった。

 繊細なフリルがついたシャツに刺繍の施されたベスト。

 布がいくらか重ねられてスカートのように膨らんだ裾のコートだ。


「スカートはこの部分の留め具を外せば、前が取れます」


 ソフィアさんの説明で、コートの前部分をスカートに見せる寄せ布が着脱式だと知る。


「あの、あからさまに動きやすい工夫がされてるって、まるで逃亡前提のような?」

「まぁ、あっちもすごい騒ぎだったからね」


 着替えのための衝立に囲まれた私に、新手の声がかけられた。

 いつの間にかトリィが室内にいたようだ。


「城塞のお姫さまの寝室まで手紙を届ける手伝いをしたのよ」


 フューエの声もする。


「直接ベッドに放り込んだ」


 ノインが何やら不穏なことをやり切ったらしい。


 どうやらお姫さまから反応があったのは、三人が姿を誤魔化して忍び込み、手紙を届けたから。

 病身のお姫さまを煩わせるわけにはいかないと、城砦責任者とか、騎士団とか、使用人のまとめ役みたいな人たちが読ませていなかったのだとか。

 そして聞けば、このまま隠れて同行すると言う。

 私たちの護衛も兼ねるんだって。


「え、私たちだけで行くの?」


 お姫さまからあったのは伯爵さまへの返事。

 けど行くのは代理のソフィアさんで、そこは伯爵家のご令嬢だから大丈夫。


 けど同行はパーティメンバーのオリガさんと薬屋さん、そして私。

 あとは隠れて盗賊三人って、何このメンバー?


「不穏な予感しかしなんですが?」

「そりゃ、希少で高価で手間のかかる薬を強盗同然に奪われた文句を言いに行くんだ。穏便に済ませることなんてできないだろう?」

「おやおや、学者先生が不穏ね。お姫さま周りの騎士、フル装備じゃなければ痺れさせて動き鈍らせることできるけど? あ、もちろん別料金で」


 なんだか好戦的なオリガさんにトリィがもっと不穏なことを提案する。


 ソフィアさんは笑顔で手を打つ。


「こちらに危害を加えるようならお願いしましょう」

「前払い。ことが起きなくても返金不可」


 ノインが念を押すとソフィアさんは頷く。


 壁際で黙っていた使用人のひとが他に指示を出してお金を用意し始めた。


「すごく、私、場違いなんじゃ?」

「ラスペンケルの魔女なんて上流階級お得意さまのはずでしょ。って、あなたに言っても違うんだっけ」


 フューエの中のラスペンケルへの印象も偏りぎみだとは思うけどね。


 ただ世間一般の魔女のイメージを私に適用しないでほしい。

 まずお客なんて山村の人間だけだし、しかも日常生活の補助ばっかり。


「私、こんな金貨の数見たことないよ」


 綺麗に磨かれた金属プレートに乗せられた十二枚の金貨。

 それを当たり前の顔をして受け取るトリィ。


「貴族相手からはぼったくるけど、今回は実費とこっちも逃走資金、怪我や装備の破損に供えての保険でこの料金よ」


 つまり良心的だと?


 そう言えば騎士は貴族の下だけど平民より上。

 そんな相手に危害を加える契約となると安いくらいなんだろう。


「…………私、行かなきゃいけません?」

「エイダさんにはベルトの様子を確かめてほしいんです。姫が着用しているとは思いますが、それで害があっては後々面倒が起こる可能性もありますから」


 ソフィアさんが言うこともわかる。

 けど場違い感がどんどん増してる。


 ちなみに薬屋さんは男性なので、一人別室で着替え中だ。

 ここにいたら…………過激なことしか言わなさそうだ。


「やれやれ面倒ごとだぞ」


 そう思ってたら着替えてやって来た薬屋さんがぼやくように言って入って来た。

 裾の長いコートで質はいいけど、黒いこともあって全体的に地味だ。


「衛兵のほうからの急報があったとかで伯爵は議会へ向かった。内容をこっちにも回せとお遣いを頼まれたのだがね」


 言って、どうやら衛兵の急報を端的に書いたメモを差し出して来た。


「鳴動あり?」


 読む私に、トリィたちもわからない様子だ。

 けどオリガさんは鼻眼鏡の位置を直して難しい顔をした。


「どうやら崩落の中生きていたようだね」

「まさか、巨大変異種ですか?」


 鳴動は炎熱地帯地下でのことだろう。

 あそこはスライムの群体が営巣したことで他の魔物がいない。

 そこで鳴動と呼ばれるほどの動きがあったなら、スライムの群体が健在だということになる。


「まだ衛兵は営巣地点に行きついてないらしい」


 薬屋さんは口頭で伝えられた補足情報を加える。

 つまり私たちが魔法で穴をあけた巨大変異種がどうなってるかは不明。

 けれど地下を鳴動させるだけの大質量は健在。


「長々文句を言っている暇もありませんね」


 ソフィアさんは真剣な表情で出発の準備を使用人にいいつける。


 けれどそこにフューエが意見を上げた。


「逆にもうエイダはそっちの対応にかかりきりにさせたほうがいいんじゃない? 防具はどうなったの?」

「そこはベルトなしの状態で完成してるよ。ベルト取り戻せたら、魔法的に結び付けることはできるように調整も済んでる」


 私としてはベルトなしで使ってほしくないところ。

 けれどないならないで爆裂術式を使いそうな人もいるので、防具は地道に完成させた。


 色んな人が手伝ってくれて、クライスが設定した術も機能してる。

 その上で確実に守れると言えないのが悔しい。


「毒で削り切る方向に持って行きたいけど」


 昨日の時点ですでに洗濯槽をフル回転させて作り置きを用意し始めていた。

 巨大変異種を倒すためには相応の量が必要だからだ。


「…………いざとなったら魔女の本領」

「ノイン、それって魔女が自分の作った魔法関係の品を破棄できること知ってて言ってる?」


 聞いたら頷かれたけど、オリガさんが首を横に振った。


「やりたい気持ちはわかるけど、やめたほうがいいかな。そういうこと魔女ができるって知られてるし、ばれる可能性が高い。エイダが姫を害したと罪人にされかねないよ」

「どうせなら時と共に壊れるくらいが言い訳もできるだろうにな。今からでも後付けで自壊させることができないかやらせてみるか?」

「なるほど、奪った上に壊したとなれば、こちらから攻めることができますね。騎士の横暴がいかに暴力的であったかの証明にもできそうです」


 研究家パーティが怖い!


「しないよ! 私そんな詐欺みたいなことしないからね!?」

「なに、先に手を出したのは向こうだ。自衛の範囲だよ」

「もちろんやるからには証拠を残さないことが肝になるがな」

「万が一の備えと思ってくださればいいんです」


 しないったら!

 って思ったら三人とも目が笑ってる。

 これ、からかわれたな。


 けど疑いの目を向けてくるトリィたちに、私は必死に首を横に振ったのだった。


隔日更新

次回:城砦に乗り込みます

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