187話:委託増産です
今日も教会に来ている私は、スライムに効く呪文から効果を特定して作った薬を洗濯槽に仕込むために来ています。
すでに基本の魔法陣は別に作ってあるし、洗濯槽も職人さんたちが総出で他の仕事を後に回して作ってくれている。
私は誰でも使える量産できるそんなお薬を作るだけ…………のはずだったんだけど。
「え、本当にこれですか? 私が作ったものより危険度増してますけど?」
「少々人間にかかっても死にはしない。粘膜に触れれば大参事だが、そこはそれ。冒険者などやっている者ならば自衛ができて当たり前。できぬというならば辞めてしまえという話だ」
薬屋さんが横暴なことを言う。
私はスライムに対する毒としてサンプルを複数渡した。
その試作品からオリガさんたちから選ばれた薬と仕様書を見比べて思わず声を上げたんだ。
そして話を聞いていたトビアスが不安そうな顔をして手を上げた。
「待ってくれ。いったい教会で使う洗濯槽に何を?」
「毒とは聞いてますが、人体に無害だという話だったのでは?」
ワンダも薬屋さん相手ということで確認をしてくる。
「うーん、血の汚れとかは落としやすくなるかも。ただ布も傷みそう」
「いいのか悪いのかわからないな」
私の心許ないフォローに、ダニエルも困り顔だ。
今日は司祭さんが不在。
議会へ行って話をしている。
もちろん議題はスタンピード関連です。
「そういえばこれ、議会に報告はしました?」
私が聞くと、薬屋さんはあからさまに明後日の方向を見る。
元から髪で隠れて目元は見えないけど、目を盛大に逸らされたのは嫌でもわかった。
「待て、今議会はスタンピードの告知に関して忙しい。問題を増やさないほうがいいんじゃないか?」
あえて言わないこともありだというダニエルに、トビアスは大きく首を横に振る。
「だからって作ってしまって危険となったら、問題は結局増えるだけだ。後回しにすべきじゃないだろう」
「けれど手に入りやすい素材しか使わないなら、毒と言っても危険性は少ない可能性もありますし、まずはエイダさんの見解を聞きましょう」
ワンダに促されて、私は薬屋さんが薬に手を入れた仕様書と合わせて説明をすることになった。
「えーと、まず私がやったのは塩を大量に使って触媒にして作る、害虫駆除剤をスライム用に転用したやつ。これは基本的に水分量の多い魔物ならなんでも効きます」
だいたい水棲の魔物に効く駆除剤になるはずだった。
注意事項としては薬をかけてちょっと待たないといけないくらい。
スライムはもちろん元がナメクジ駆除だからその手の虫系に効く。
あとは魚系とかかな?
「で、そこに新たに酢を大量に使って触媒にした溶かす系の毒を合わせるという、私が考えたのとはもう別物の毒の作り方がここにあるんだよね」
それも提供した試作の一つなんだけど、仕様書にはその二つを上手く合わせてさらに強力な毒にするよう書いてある。
「確かにこれなら強い融解の作用になるよ。けど、たぶん人間の指を浸けたら表面が溶けるんだよね」
誰だろう、この魔法考えたの?
理論的にはありだし、魔女の術としてもありだ。
人体への危険性もすぐに水で洗い流せば対処可能ではあるし、薬屋さんが言うとおり致命傷にはならない。
薬屋さんは魔法が使えないけど薬は専門で、そこに魔法の知識を合わせたのは…………ヘクセアさん?
「痛みが出て長く浸かってることなどできん。少々火傷のような症状が出るくらいだ。いくらでも治療のしようはある。…………粘膜でなければな」
「あ、これ目に入ると失明するじゃないですか」
「危なすぎるだろ!?」
薬屋さんの念の押しように気づいて言うと、聞いたトビアスが声を上げた。
「この程度職人通りに行けば同じような危険な薬品いくらでもある」
薬屋さんはこともなげに言ってのける。
だからこそワンダは試すように聞いた。
「ではすでにあるものを使うべきでは?」
「これ、スライムの核片も使うから、スライムに良く効くって性質を持ってるんだよ」
だから既製品よりずっと効く。
あと魔法で水を薬品に変化させるから量産が可能だ。
既製品を使うよりずっと利点はある。
「うーんと、これなら触媒入れる箇所を何処か別に据えないと調整大変ですよね」
「端に壷でも設置しろとヘクセアが言っていた」
薬屋さんがアドバイスをくれる。
そしてやっぱりヘクセアさんが噛んでた。
うん、洗濯槽として使うなら手を加えよう。
触媒を揃えないと動かないような設定にしたほうがいいよね。
誤作動したら布が痛むし、下手に手を入れるとトビアスたちが危険だ。
「もう洗濯槽作り出してるから後付けできるなら都合はいいだろう」
ダニエルは無茶な訓練でよく怪我をするせいか、ちょっとした火傷程度なら気にならないようだ。
「そこはお風呂屋さんの洗濯槽に後付すること前提で考えたからね」
基本は洗濯槽として流水を作る魔法が必要になる。
その流れで円ができるのを利用して、そこに魔法陣を半端に描いた板を設置。
流水と板でようやく魔法陣は完成。
そして触媒を別に投入する壷を据えて、これで誤作動で毒が作られることはないだろう。
「うーん、一度試すしかないか。材料は」
「持ってきた。器はこれで水を半分入れろ」
薬屋さんが準備よく、塩と酢、必要な小さな器を出す。
複数の器とそれに入る水の量を想定して塩と酢を計る。
あとスライムの核片だ。
器は仕様書に書かれた魔法陣にぴったりの大きさだったのでこのまま作れる。
「え、そんなに塩…………うわ、真っ白」
トビアスが私の指示に従って塩を加えると、水は白濁。
別の器に酢を加えたら臭いをかいでしまったワンダが鼻を押さえて天を仰いでいた。
そしてダニエルが器にスライムの核片を投入。
それぞれが違う駆除剤として変化する。
「これを混ぜて新たな薬として統合できれば…………はい、できた」
眼鏡ずらして様子を見ると、判定は飲んだら普通に毒。
炎症が起きます。
「飲まなければいいのかな? あとは想定よりも効果強そうかも。あ、薄めればスライム避けになるね。この辺りは害虫駆除剤と同じか。けど目や口、鼻に入らないよう対策は必要だなぁ」
「この臭い、下手なものをこれで溶かすと毒ガスが発生しそうだな。ふむ、それはそれで興味深い。ことが終わった後にでも研究してみよう」
私と同じ魔眼でもないのに薬屋さんが不穏なことを言い出す。
もう教会の三人は覗き込むのもやめて距離を取ってた。
「大丈夫、薬屋さんが言うようにすぐに人間が死ぬような毒じゃないみたい」
「問題はアシッドスライムに効くかどうかだが、持ち帰って研究所で確かめる」
器を回収した薬屋さんは、蓋のできる瓶に移す。
そう言えばあそこ、放し飼いのアシッドスライムいたな。
スライムだから効くけれど、融解する毒を持つアシッドスライムには他よりも効きが悪いかもしれない。
そうなった場合、アシッドスライムでできた群体部分が不測の事態を起こす可能性もある。
「思ったより考えてたんだな」
ダニエルが誰も言わないことを呟いた
「そういえばこれの毒性を心配をしていたな。どれ、死にはしないことは保証しよう。指を入れてどれくらいで溶けるか実証してみせようじゃないか」
「俺の指を掴んで入れようとするな!」
薬屋さんが素早く指を掴むとダニエルは慌てて抵抗する。
そんなことをしてたら人がやって来た。
「お、いたいた。やぁ、ちょっと予定変更だ」
「オリガさん? それにソフィアさんも。どうしたんですか?」
「南の城砦から反応がありました。しかも姫君自身から伯爵家への返答です。エイダさん、ことの当事者として明日、同行を願います」
「ほう、直接文句を言うチャンスだな」
私が絶句してると薬屋さんがとんでもないことを言って笑う。
けど待ってほしい、同行ってまさか南の城砦ですか?
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