↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お薬飲もうね─ 父の狂った愛と、優しい彼の本音─  作者: ことりおと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

94/95

94 もっと……


 寝る前、ベッドの中で私たちは唇を重ね合っていた。深いキスを……。お互いに向かい合って横になっていた。

 

 暗い部屋には、私たちの息遣いだけが響いていた。


 呼吸が早くなる。


 胸が苦しくなる。


 薫くんは離れると、私の頭を撫でた。


「おやすみ」


 隣からそんな声が聞こえてきた。


 ……もっと……したい……。


 私は薫くんの服を握り込んだ。


 すると、薫くんが動く気配がし、部屋の中が少し明るくなった。そのあとその明かりは、最小限まで落とされた。ベッドサイドに置かれていた照明だ。


 なんで電気をつけたんだろう。


 私は恥ずかしくなり、タオルケットを手繰り寄せると、それで顔を隠した。


「なんで電気をつけたの?」

「葵ちゃんの顔が見たくなったから」


 そう言われて、私は少しだけタオルケットをずらすと、目だけを出した。


「ちゃんと見せて?」


 薫くんは少し切ないながらも、優しい顔をしていた。


 恥ずかしい。


 だけど私は、言われた通りにした。


「まだ寝たくなかったの?」


 私は頷いて答えた。


 すると薫くんは私に覆いかぶさり、また唇が重なった。


 私たちは長いこと、そうやって深いキスをしていた。


 もうだめ……。


 ちゃんと呼吸はしているものの、苦しくなってしまい、薫くんの胸を押し返した。


 静かに呼吸を整えていると、薫くんは、私のことを見下ろしていた。恥ずかしくて目を逸らせたかったけど、それはできなかった。なんだかその目に、吸い込まれるように感じたから。


「……かわいい」

「……」


 薫くんは、私の左頬に触れると、親指で下唇をなぞった。


「もう少しだけ、いい?」


 私はまた、頷いて答えた。





 スーパーで正式に雇ってもらってから1ヶ月が経った。


「あんたトロいな」


 そう言ってきたのは東さんだった。


「……すみません」


 開店前の品出しをしているところだった。


 私は丁寧に補充をしていたつもりだったから、少し落ち込んでしまった。


「ははっ。そんなに真に受けんなよ」


 だって……


 私は商品棚の下段の補充を、しゃがみながらしていた。そんな私の隣に、東さんもしゃがんだ。


「思ったんだけどさー、藤崎さんて、温室育ちなの?」


 温室育ち?


 なにそれ。


「すぐに人のことを信じそうだし、冗談も真に受けそう。それに簡単に傷つきそう」

「……だとしたら、何なんですか?」

「別に?ただそう見えたから」


 バカにされてる……?


 すると東さんは立ち上がり、私の頭を手でぽんぽんとした。


「少し遅いけど、いつも綺麗に並べてるよ。そのまま頑張って」


 ……褒めてるの?貶してるの?


 東さんはよくわからない。


 少しだけ気持ちが乱れてしまったから、ポケットに忍ばせておいた、アトマイザーを手に取った。キャップを外し、香水の匂いを嗅ぐと、自分の気持ちを落ち着かせた。



 

 休みの日に、私は電車に乗り、ひとりで買い物に来ていた。自分の下着と、それから薫くんに、刺繍をしたハンカチをプレゼントしたかった。もちろん、自分の稼いだお金で。

 

 初めてあげるプレゼントだったから、ただ買っただけのものではなく、想いも込めたかった。


 刺繍はまだまだだけど、それなりに思い通りにはできるようになっていた。

 

 喜んでくれるかな?


 ……たかがハンカチで、男の人は喜ぶのかな……?


 そんな不安を抱えながらも、街に着くと早速、薫くんにプレゼントをするタオルハンカチを探した。


 色々と見て、悩みながら決めた。


 家に帰ると、早速ハンカチに刺繍をし始めた。


 薫くんのイニシャルの“K”と、薫くんが好きなアニメ映画のキャラクター。魔女と一緒にいる黒猫を刺繍することに決めていた。


 喜んでくれるかな……と不安になりつつも、“いつもありがとう”、“好きです”……そんな気持ちを込めて、ひと針ひと針、進めていった。


 後日、刺繍が完成すると、簡単にラッピングをし、帰ってきた薫くんに早速手渡した。


「薫くん、これハンカチなんだけど、開けてみて?」

「ハンカチ?」

「うん」


 薫くんは袋を開けると、ハンカチを手に取り、見ていた。


「……これ、もしかして、葵ちゃんが刺繍したの?」

「うん。どうかな?」


 男の人はやっぱり、刺繍なんて嬉しくないかな。


 薫くんは、ずっとハンカチを眺めていた。


 それから私のことを抱きしめてくれた。


「すごく嬉しい。僕のためにありがとう。大切にするよ」

「ふふっ。よかったぁ。不安だったから」

「不安?」


 薫くんは私から離れると、顔を見ながらそう聞いてきた。だから私はさっき思っていたことを、正直に話した。


「そんな……こんな素敵なプレゼントを喜ばないわけないじゃん。葵ちゃんの気持ちがすごく伝わってきたよ?」


 そこまで言われると、照れてしまう。


 薫くんは私の顎に手を添え、上を向かせると、軽く唇を重ねた。


「本当にありがとう」

「やっと、私も薫くんにプレゼントを渡すことができた」

「今までも、たくさんもらってきてたよ?美味しい料理に、ケーキに……」


 今度は左頬に、手を添えられた。


「葵ちゃんの笑顔」

「……」

「そんなのプレゼントじゃないよ」

「いいの。僕はそうやって、色々と葵ちゃんからもらってるから。葵ちゃんの笑顔を見ると元気がでるの。やる気がでるの」


 私は、薫くんのストレートな言葉を聞いて恥ずかしくなり、思わず抱きついた。


 その夜、私たちいつも通り暗い部屋の中、ベッドの上で唇を重ねていた。するとまた、薫くんがほんの少しだけ、明かりをつけた。「顔が見たい」と言いながら……。


 それからまた深いキスをしていると、私の気持ちが爆発してしまいそうになった。


 もっと触れたい……。


 女の人が、そう思うのは普通なのかな?


 そんなことを言ったら、引かれちゃうかな……?


 薫くんは唇を離すと、私の頭を撫で、「おやすみ」と言ってきた。


 私はそんな薫くんに抱きついた。


「もっと……」

「ん?もう少しキスする?」

「……ううん。もっと薫くんに触れたい……」


 その時、薫くんが短く息を吸い込み、少しの間、時間が止まったように感じた。


 やっぱり変だった?


 引かれちゃった?


 薫くんは力強く抱きしめてきた。


「……葵ちゃん……」

「はい……」

「これ以上のことをすると、もう僕は我慢ができない」

「……」

「この意味わかる?」


 それはつまり……


 薫くんは、今度は長く息を吐いていた。


「最後まで……ってこと」


 最後まで……


 私はその時、以前、雫ちゃんから見せられた動画を思い出していた。


 あれを……するってこと……?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。