↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お薬飲もうね─ 父の狂った愛と、優しい彼の本音─  作者: ことりおと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

89/92

89 暴れる心臓


 なんだか……今日で一気に、薫くんに近づけたような気がした。


 今は二人でベッドの中にいる。


 私は薫くんに抱きしめられ、背中を撫でられていた。


「今日はありがとう」

「もう……何回も聞いたよ……」

「何回でも言いたくなっちゃう。それくらい嬉しかったから」


 薫くんは、いつもの優しいだけの声ではなかった。優しいながらも、しっとりとしていて、なんだか艶っぽく感じた。それがまた、私をドキドキとさせていた。


 ふいに私の背中から、薫くんの手が離れたと思ったら、顎を掴まれた。


 少し上を向くようにされると、唇が重なった。

 

 暗くて薫くんの表情はわからない。だけど、今キスをされていることはわかった。

 

 しばらくすると唇は離れ、また私は抱きしめられた。


「おやすみ」

「……おやすみなさい」


 こんなんじゃ……眠れないよ……。


 私は、大暴れをしている心臓が落ち着くのを、ひたすら待っていた。


 何分くらい経っただろう。


 たぶん……30分くらい?


 しばらくすると、薫くんはそっと私から離れ、反対側を向いたようだった。


 なんだか少し寂しくなり、私は薫くんの背中にそっと寄り添うようにした。


「まだ起きてたの?」

「……うん」

「……そんなに可愛いことしないで……?」

「え……?」


 どういうこと?


 薫くんは、またこちらに向き直ったようだった。


「……我慢できなくなっちゃうから」


 我慢……


 すると薫くんの手が私の左頬に触れ、また唇が重なった。少し離れてはまた重なり……それが何回か繰り返された。

 

 私はそのたびに胸の鼓動が速くなり、呼吸の仕方さえわからなくなっていた。それから薫くんは、唇を離すとぎゅっと私のことを抱きしめた。


「ね?こんな感じに我慢ができなくなる」

「……」

「葵ちゃん、反対側向いてくれる?」


 私は言われた通りにした。


 薫くんは後ろから抱きしめてくれた。


「葵ちゃんがこっちを向いてると、僕、キスばかりしちゃうから」


 もう……本当に今日は、心臓が大忙しだ。


 さっき落ち着いてきたはずの、胸のドキドキが、また暴れていた。


「……葵ちゃん?」

「はい……」

「幻滅しちゃった?僕のこと」


 なんで?


「してないよ?どういうこと?」

「……ん?大丈夫ならいいんだ」


 会話はそこで終わった。


 ゆっくりとまぶたを閉じ、眠くなるのをひたすら待っていた。

 

 だけど、頭の中は今日のことばかり……。


 キスのことばかりで、すぐに眠れそうにはなかった。



 次の日。


 目を覚ますと、薫くんはまだ眠っていた。


 結局私は、あまり眠ることができなかった。本当はまだ起きる時間ではなかったけど、もう眠れそうになかったから、そのまま起きることにした。


 今日も……お弁当、作っちゃおっかな。


 昨日あんなに喜んでくれたから。


 朝の支度を済ませると、早速キッチンに立ち、朝ごはんの準備を進めながら、お弁当の用意をし始めた。


 起きてから40分ほど経つと、薫くんが起きてきた。


「おはよう。今日は早いね。もしかして眠れなかった?」


 薫くんの顔を見ただけで、昨日のキスを思い出し、恥ずかしくて下を向いた。


「……おはよう。ちょっと早く目が覚めちゃっただけ」

「そっか」


 薫くんが洗面所へ向かうと、私はテーブルに朝ごはんを並べた。全部並べ終え、立ち上がろうとしたら、薫くんが後ろから抱きしめてきた。


「今日は少し遅くなるかもしれない。もし湯船に浸かるなら、早めに出てね?」

「……はい」


 薫くんはなかなか離れなかった。


「薫くん?」

「本当は早く帰りたい」

「うん……」

「葵ちゃんは今日、料理教室だったよね?」

「うん。いつもと同じ時間から」

「楽しんできてね」


 そこまで言うと、薫くんはいつものところに座った。


 朝ごはんと言っても、簡単なものだ。二人で横並びになり、一緒に食べ始めた。


 私はやっぱり恥ずかしくて、あまり話すことができなかった。


 出勤する薫くんを見送ろうと、玄関まで行った。靴を履き終えた薫くんはこちらに向くと、私の左頬に手を触れた。その先のことを考えると、顔が熱くなった。


 薫くんは私を見つめ、ふっと微笑んだ。


 それから私のおでこにキスをした。


「いってきます」

「……いってらっしゃい」


 外に出ていく薫くんの姿を、私は見つめていた。


 今日は雨だ。


 ドアを開けた瞬間に、雨の匂いが鼻に届いた。


 雨なのに、やっぱり私の心は温かかった。


 時間を気にしながら家で過ごし、支度を済ませると、料理教室へと向かった。


 今日は優しいタナカさんと同じグループになった。苦手なホンダさんは、来ていなかった。


「今日は一緒だね。よろしくね、藤崎さん」

「はい。タナカさんと一緒になれて嬉しいです」


 タナカさんもホンダさんと同じくらいの年齢に見えた。たぶん、40代くらいだと思う。


 今日は心が乱れるようなことはなく、楽しくレッスンを終えることができた。

 

 家に帰ると、すぐにお風呂の準備をした。外がジメジメとしていて、ベタつく汗が気持ち悪かったから、まだ夕方にもならない時間だったけど、シャワーを浴びたかった。


 全身の汗を流すと、湯船に浸かり、スキマバイトのアプリをダウンロードした。いろいろと登録をし終えると、早速どんなバイトがあるのか見てみた。


 荷物を運ぶ系は……無理だな。力も体力も私にはない。コンビニ……は、経験者のみか。


 こうやって見ると、私にできそうなバイトは、なかなか見つからなかった。

 お皿洗いとか、そういうのから始めたい。いきなり接客は、きっと私には無理。それに怖い。なにか、黙々とできる仕事の方が、私には合っている気がする。


 あ……


 もう出ないと。


 ひとりの時に、のぼせたら大変だ。


 私が初めて、この家で戻してしまって以来、常に補水液がストックされている。薫くんが用意してくれたものだ。万が一、“また戻してしまったり、のぼせたりしたら、必ず飲んでね”と言われていた。


 薫くん……。


 そう考えていると、昨日のキスのことを思い出し、また顔が熱くなるのを感じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。