↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お薬飲もうね─ 父の狂った愛と、優しい彼の本音─  作者: ことりおと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

81/93

81 意識しちゃう


 ずっと……ふわふわとした気持ちだった。


 薫くんと恋人同士になった次の日、私は全く家事ができなかった。


 本当にもう、それは文字通りに。


 掃除機を手にしても、同じところをただ往復するだけ。洗濯にしても、ただ洗濯機を稼働させ、干すのを忘れてしまう始末。スーパーに行っても、家にある食材と同じものを買ってきてしまう……。


 今日の私は、ずっとそんな感じだった。


 私が……薫くんと恋人同士……?


 私は……薫くんの彼女……?


 信じられないという感情と、これは現実なんだという事実が、私を混乱させていた。


 私……恋人ができたんだ……。


 今まで“無理”だと諦めていた“彼氏”。


 それが今……叶ったんだ……。


 嬉しい。


 初恋の人と結ばれるだなんて……。


 今後、キス……とかもするようになるのかな?


 そう考えると、顔が熱くなるのを感じた。


 やだもう……何を考えてるんだろう。


 だけど……そういうことだよね?


 私は今後のことを考えると、期待と、恥ずかしさと、ほんの少しの不安を胸に抱えた。


 “不安”は、私が今まで付き合ったことがなかったから。


 彼女って、なにをすればいいんだろう。


 ああ……私、まだ動揺してるな。薫くんは“今まで通り”と言っていたんだから、特別に何かをする必要はない……んだよね?


 だけど……もしも私が、また体調を崩すような日々が戻ってきてしまったら、薫くんはそんな私のことを煩わしく思ったりしないかな?

 

 今はたまたま調子がいいけど、またあんな状態になってしまったら、薫くんは私と別れたいと思うのかな……。


 そうなったら、私はどこへ行けばいいの?

 

 もしそうなってしまったら、私は今後、誰に相談をすればいいの……?


 だめだめ。


 今はそんなことを考えたらだめ。


 それにもしかしたら、別れないかもしれないじゃん。


 ……でもそうなったら……結婚……?


 もしかしたら、“結城葵”になる日がくるかもしれない……ってこと……?


 また顔が熱くなってきた。


 あーもう……私、本当に何を考えてるの?


 今日はこんな感じで、ずっとひとりで浮かれたり、不安になったりを繰り返していた。


 夜になり、薫くんが帰ってきた。


 シャワーを浴び終えた薫くんは、テーブルの上の料理を見て、「ふふっ」と笑っていた。


「なに?」

「全部、僕の好物だ」


 私……無意識に……。


「嬉しい。ありがとね」

「美味しいといいけど」

「いつも美味しいよ」


 今朝もそうだったけど、やっぱり照れてしまう。

 

 それに無意識に、薫くんの好物ばかりを作ってしまったことも、なんだか恥ずかしかった。


 今日はあまり、私から話すことができなかった。いつもだったら、スーパーで何々が安かったとか、刺繍の話とか、何気ない日常の出来事を話している。


 だけど今日は無理だった。


 胸がいっぱいで、ごはんもあまり食べられなかった。そんな私のことを、薫くんは心配してくれたけど、“お昼に食べ過ぎたから”と、嘘をついた。


 薫くんはそのあとも、何度か「本当に大丈夫?」と聞いてくれた。


 ごはんを食べ終わると、食器を二人でシンクに下げた。今日は私が食器洗いをしていた。


 すると……不意に背中から抱きしめられた。


 驚いて、洗っていたお茶碗を、シンクの上に落としてしまった。すぐにそのお茶碗を確認してみる。


 よかった……割れてない。


「ごめんね。驚かせちゃったね」

「……ううん」


 そう言いながらも、私の意識は背中に集中していた。


 何度も思ったけど、やっぱりパパの時とは全然違う。そういえば、薫くんは以前、親子同士でそんな間違いが起きないよにと、遺伝子が近いもの同士は……なんて話をしていたな。


 背中に薫くんの体温を感じ、そこがなんだか熱く感じた。


 だめだ……やっぱり意識しちゃうよ。


 前まではドキドキもしていたけど、“安心”もしていた。もちろん今もそうだ。


 だけど……私たちの関係はもう変わったのだから、ハグの意味が今までとは少し変わったように感じた。


 愛情表現の一種になる。


 私の考え過ぎかな?


 意識し過ぎかな?


 食器を洗い終えると、私は手を拭いた。そのタイミングで、薫くんは腕を離した。

 

 だけど、薫くんが離れる気配は感じなかった。私は薫くんの方を向くと、すぐにまた抱きしめられた。


「今日は口数が少ないね」


 私もそっと、薫くんの背中に腕を回す。


「まだ……慣れなくて。今まで誰かと付き合ったことなんてなかったから。気持ちが……安定しない……」

「ははっ。大丈夫だよ。今までと何も変わらないから。ただ……前よりも少し近づいただけ。これから時間をかけて、もっともっと、お互いを知っていって、近づいていくだけ。その繰り返し」


 近づく……。


 お互いのことを知って……。


 そうだよね。急に彼女らしく……だとかそんなんじゃないんだよね?

 

 ゆっくり、時間をかけて。


 やっぱり……そんな薫くんのことが大好きだ。


 まだ“好き”の言葉は、口からスッとは出せない。でもいつか、そう思ったときは、素直に伝えられるようになったらいいな。


「ソファに行こう?それで一緒に何か見ようか。アニメでもいいし、テレビでもいいし」


 私は薫くんに手を引かれながら、ソファへと移動した。


 隣に座る薫くんの距離は、前よりも近くなっていた。


 少しずつ…。


 少しずつ……。


 こうやって近づいていくんだ……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。