71 買ったもの
薫くんのお言葉に甘えて、私は化粧品を見に行き、プチプラなものを数点購入すると、次に下着屋さんに向かい、下着を3セット購入した。
購入する前に、店員さんにサイズを測ってもらうことにした。なんだか手持ちのが、少しキツく感じていたからだ。測ってもらうと、サイズが上がっていた。
……たぶん……食べたものを戻してないからだ。最近、ずっと体調がいいから、食欲も前よりは増えた。
前はめまいがすると気持ち悪くなってしまって、食欲も落ちていた。
だから前よりも……
なんだか健康的になっている気がして、とても嬉しかった。
……。
本当に買っちゃった……。
さっきまでは少し浮かれていたけど、罪悪感を覚えた。私はこれから、どうやってお返しをしていけばいいだろう。
ガヤガヤとしている街中を歩きながら、私はそんなことを考えていた。
バイト……したいな。
私はさっき買い物をした時に、レジをしてくれたお姉さんのことを思い出していた。テキパキと話しながら、笑顔を絶やさない接客。私にも、それができるのかな。いや……接客業は……私にはハードルが高いな。
だったら何ができる?漠然と、ただバイトがしたいとずっと思っていたけど、具体的なことまでは考えていなかった。
私にできること……
そんなことが、本当にあるのかな。
お給料を頂くような仕事が、私にはできるのだろうか。
学校へもろくに行かず、きっと勉強だって人よりはできない。そんな私に、一体何ができるんだろう。
「昨日さ、バイト先でうざい客が来てぇ──」
そんな声が聞こえ、チラリとそちらを見てみると、部活の帰りなのか、ジャージを着た高校生が、そんなことを話していた。
高校生だってバイトをしてるんだ。私にだってできるはず。
だけど私は……
こんな感じで、私の頭の中はぐるぐるとしてしまった。
あ……薫くんに連絡しないと。
連絡をし終えると、私は薫くんとの待ち合わせ場所へと向かった。
「はい。どうぞ」
薫くんから、プラカップに入った飲み物を受け取った。
「黒糖ミルクティーだよ。確か前に、葵ちゃん好きだって言ってたよね」
「うん。ありがとう」
ストローに口をつけると、ミルクティーを飲んだ。
甘い……美味しい……。
今度お家でも作ろう。
「おっ。本当に美味しいね。初めて飲んだけど、これいい」
薫くんは自分のものを飲みながらそう言っていた。薫くんて、甘いものが好きなんだな。たまにアイスクリームを買ってきては、二人でシェアしながら食べていた。
「買い物できたんだね。よかった。もしかしたら葵ちゃんは、僕に遠慮をして、結局何も買わないんじゃないかと心配してたんだ」
「甘えさせてもらっちゃった」
「全然いいんだよ?」
「あ、これお釣り」
私は残ったお金を手渡した。
「え?こんなに余ったの?全部使っちゃってよかったのに」
「ううん。十分足りたから」
「じゃあ残りは葵ちゃんがそのまま持ってて?そのお金は自由に使っていいから」
「そんな……」
さっき渡したお金が、また私の手の中に戻ってきた。
どうしよう……本当にいいのに。
「ほら、早くしまって?」
外でお金のやり取りをするのもなんだと思い、私はそのお金を財布にしまった。
「普段、美味しいごはんを作ってくれてるし、家事も葵ちゃんに任せきりだからね」
「私にできるのは、それくらいだから」
「僕はすごく助かってるし、葵ちゃんの料理を食べると、頑張るぞーってなるんだよ?」
それを聞いて、とても嬉しくなった。思わず口元が緩んでしまった。
「ふふっ。かわいい」
こんな人が多いところで……
私は咄嗟に後ろを向いた。顔から火が出そうだった。
薫くんはそんなのはお構いなしに、私の手を握ると歩き始めた。
「薫くん」
「ん?」
「ありがとう。買い物をさせてくれて」
「だからいいんだってば」
「まだお礼を言ってなかったから」
薫くんは、ふっと優しく微笑むと、何も言わずに、握った手をぎゅっとしてくれた。
もしかしたら薫くんは、私に気を遣って“僕も買い物したいものがあるから”と言ったのかと思ってたけど、ちゃんと薫くんの左手には、紙袋が握られていた。
よかった。本当に買い物がしたかったんだな。私に気を遣っていたわけじゃなかったんだ。そう思うと安心した。
このあとは、二人でクレープを食べたり、商店街で美味しそうなお惣菜を買ってから帰った。
買ってきたお惣菜を温めると、それをテーブルに並べて二人で食べた。
「これ美味しいね」
「本当だ。どうやって作ってるんだろう。また食べたいな……」
「そうしたら、今度また、遊びに行った時にでも買って帰ろうか」
「うんっ」
そんな会話をしながら夜ごはんを楽しみ、それも終わると薫くんは、今日買い物をした紙袋の中を見ていた。
「はい。これ」
そう言って手渡されたものは、大きめのポーチだった。
「ポーチ?」
「うん。葵ちゃん最近さ、公園で刺繍してるって言ってたでしょ?このポーチ、丸枠が入る大きさだと思ったんだ」
本当だ。ちょうどいい大きさかもしれない。
私は刺繍に必要なものを、コンビニ袋に入れて持ち歩いていた。そのことは薫くんも知っている。だからきっと薫くんはこれを……。
「ありがとう」
早速私はそのポーチを手に取ると、刺繍関係一式を、コンビニ袋から入れ替えた。すごい……ぴったりだ。
「あとこれ」
次に手渡されたものは、Tシャツやスウェットズボンだった。
「……」
「部屋着」
部屋着……
そういえば、私はここに来る時、適当な服はほとんど置いてきていた。持ってきたのは下着、パジャマ、洋服……
そればかりだった。
ラフな服は2着ほど持ってきていたけど、それだけだった。
それを見てきっと薫くんは……
「……ありがとう」
「あとこれ」
次に手渡されたのは水筒だった。
「水分補給は大事だからね。公園に行く時は、必ず水とかお茶とか持って行ってね。それから──」
薫くんが紙袋から出すものは、全て私へのものだった。
「薫くんのは?」
「え?」
「薫くんのお買い物は?」
「これだけど?」
「今見せてくれたもの全部、私のものだよ?」
私がそう言うと、薫くんは少しポカンとしたあとこう言った。
「ははっ。本当だ。葵ちゃんのものばかりだね」
「こんなにいいのに……」
「違う違う。気にしないで?無意識に葵ちゃんのものばかり買っちゃってたんだね。ごめんごめん」
そんなふうに言われたら、私……。




