↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お薬飲もうね─ 父の狂った愛と、優しい彼の本音─  作者: ことりおと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

67/95

67 ごめんなさい


 私はその日、一日中気持ちが悪かった。


 めまいを起こしたのはお昼過ぎ。薫くんはずっと、私の看病をしてくれていた。


「葵ちゃん。みかんと桃、どっち食べたい?」


 心配そうな薫くんが、そう聞いてきた。


「……どっちもいらない」

「だめだよ。何か食べないと」

「食べたくない」

「……こういう時、お父さんはどうしてたの?」

「……点滴……病院に点滴を取りに行ってた」


 私がそう言うと、薫くんは怒ったような表情をしていた。


 なんで……。


「ちょっと待ってて。今買い物してくるから」


 そう言う薫くんは、やっぱり怒っているように見えた。


「……なんで怒ってるの」


 私は不安になりそう聞いた。


 でも……私がそう言うと、薫くんはふっと柔らかい表情になった。


「怒ってないよ。少し考え事をしてただけ。ごめんね?不安にさせちゃった?」

「……どこにも行かないで」


 さっきは“部屋から出て行って”って言ったのに……私……矛盾したことを言ってる……。


「行かないよ」

「……でも買い物に行くって……」

「すぐに帰るから」

「……すぐ……?」

「うん。このままじゃ葵ちゃん、脱水症状を起こしちゃう。僕は点滴を用意することができないから、その代わりに経口補水液を用意しないと……」

「……わかった」


 私は薫くんの服を掴んでいた手を放した。


「すぐに帰るから」

「うん」


 薫くんが家を出ていく音を確認すると、私はすぐにゴミ箱に吐いた。それからそのゴミ箱を手にすると、すぐに戻したものをトイレに流した。


 ……目の前がクラクラとする……。


 私はトイレの前に座り込んだ。


 こんなんで本当に、自立なんてできるのかな……。

 

 私は情けなくて、涙が出てきてしまった。


 もう……泣きたくないのに……。


 すると薫くんが帰ってきた。


「葵ちゃんっ」


 薫くんは、私のそばに駆け寄りしゃがむと、座ったまま、すぐに私を抱きかかえた。


「飲んで」


 買ってきた経口補水液のペットボトルを、私の口元に寄せ、飲ませてくれた。


 だけど、戻しそうになり、私はトイレに這って行き、便器に顔を向けた。


 薫くんは背中を撫でてくれた。


「大丈夫だから……ひとりにして……」


 私がそう言っても、薫くんはずっと私の背中を撫で続けていた。


 もう吐くのもなくなると、薫くんは私のことを立ち上がらせてくれた。すぐに口をすすぎ、口元も洗った。


 めまいが酷い……。


 薫くんは私を抱き上げると、ベッドまで運んでくれた。それからまた、経口補水液を私に飲ませると、薫くんは手を握ってくれた。その表情は悲しそうにしていた。


「……少しは楽になった?」

「……うん」

「今日は何も考えずに、ゆっくり休んでね」

「ごめんなさい……」


 私がそう呟くと、薫くんはさっきよりも悲しそうな顔をした。


「……具合が悪くなるたびに、いつもそうやって謝ってたの?」

「……」

「何も心配することはないよ?自分を責めないで?」


 こんなふうに、心配をかけたくなかった。迷惑かけたくなかった。


 私は自分の顔を隠すように、布団を頭まで被った。


「葵ちゃん……」


 ごめんなさい。


 ごめんなさい。


 ごめんなさい……。


 目をつむっていても、目が回っている感覚だった。


 急にこんな酷いのがくるだなんて……。


 最近、ずっと調子が良かったのに。


「葵ちゃん、頭まで布団を被ったら、息苦しくなっちゃうでしょ?顔を出して」

「……」

「布団、めくるからね?」


 薫くんはそう言いながら、そっと布団をめくった。


「……泣かないで?大丈夫だから」

「……」

「次に起きたら、少し楽になってるだろうから、みかんか桃の缶詰を食べようか」

「……うん」


 薫くんの表情はさっきと違い、優しいものになっていた。


「ひとりで寝るの怖い?」


 寂しいけど、これ以上は迷惑かけられない。


「……大丈夫」

「ちょっと待ってて」


 寝室から出ていった薫くんは、すぐに戻ってきて、枕の位置を調整し、それを背もたれにして、寝ている私の隣に座った。薫くんはノートPCや医療関係の教科書のようなものを持ってきていた。


「なるべく静かにするから」

「ううん。なにか音がする方が安心する」

「本当?」

「うん」


 私は目をつむり、ページをめくる音や、何かを書き込む音を聞きながら眠りについた。


 次に目が覚めると、夕方だった。


 目の前には薫くんがいて、私は抱き寄せられていた。


 寝起きで頭がぼーっとする……。


 少し上を向いてみると、薫くんは眠っていた。私はそっと、薫くんの体に腕を回した。


 めまいはだいぶ治っていた。


 薫くんの体温が心地いい。


「……起きた?」

「……うん」

「どう?まだ気持ち悪い?」

「ううん」

「お腹は?空いてる?」


 私は腕に力を入れ、薫くんのことをぎゅっと抱きしめた。


「どうしたの?」

「……ありがとう」

「うん」

 

 薫くんも、抱きしめ返してくれた。


「それで、お腹は空いてる?」

「うん」

「缶詰は?食べられそう?」


 雑炊とかでも食べられそうだな。


「うん。自分で雑炊作るから大丈夫」

「玉子雑炊とかだったら、僕にも作れそうだったから、ちょっと挑戦してみるよ」

「……え?」

「実は葵ちゃんが寝たあと、雑炊のレシピを色々と見てたんだ。幸い、葵ちゃんが調味料を揃えてくれてたし、食材もあるから、僕が作ってみるよ」

「そこまでしなくていいよ?自分で作れるから。もうめまいもしないし」

「作らせて?僕も料理を覚えたいから」


 何の音もしない静かな部屋の中に、優しい薫くんの声と、優しい言葉が響いた。


 その時、この前買い物に行った時に聞いた、女の子たちの会話を思い出した。


 “紳士的で優しい彼氏”


 彼氏ではないけど、本当にそうだと思った。


 今まで私の身近にいた男性は、パパしかいなかった。小さい頃からパパはずっと優しくて、いつの間にか、それを普通だと思っていた。


 だけど、世の中には子どもに関心を持たず、冷たく接する父親がいることを、少し大きくなった頃に知った。


 自分の子どもに対して、そんな態度を取る父親がいる中、薫くんは他人の私にもこんなに優しい。


 世の中の男性が、どんな感じかなんて知らないけど、あの子たちがそう言うってことは、薫くんみたいな人は、あまりいないのかもしれない。


「僕が作るの心配?」

「ううん。そんなことないよ?」

「じゃあ、もう少ししたら作ってみるね」

「うん。ありがとう」


 甘えちゃっても……いいよね?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。