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お薬飲もうね─ 父の狂った愛と、優しい彼の本音─  作者: ことりおと


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63 お荷物


 検査が終わると、私たちはすぐに家へと帰った。結果は後日、薫くんから教えられることになっていた。


 家に着き、私はソファに座ってボーっとしていた。


 私……これからどうしたらいいんだろう……。


 自然と、静かに涙が流れていた。


「葵ちゃん……怖い?」

 

 心配そうな薫くんが、私の顔を覗き込むようにした。


「……大丈夫……」

「嘘。本音を教えて?」

「大丈夫」

「じゃあなんで泣いてるの?」

「……わからない……」


 そのまま、また静かな時間が流れた。


 私はずっと、このままここにはいられない。


 シェルターのことはこの前調べた。


 自由に外出はできないようだった。


 そうなったら……今までみたいに、薫くんと会えなくなる。


 だったらパパのところに戻った方が……。


「葵ちゃんっ」


 眉間に皺を寄せた薫くんが、私の両肩を掴みそう言った。


「……はい……」

「何を考えてるの?」

「……何も……」


 私がそう言うと、薫くんは苦しそうな顔をした。


「嘘……つかないでよ……」


 薫くんはそう言いながら、私のことを抱きしめた。


 もういやだ……。


 諦めることばかりのこの人生が嫌だ……。


 泣くのも嫌。


 こんなの薫くんに心配かけちゃう。


「大丈夫。ごめんなさい。心配かけちゃって」

「……無理しないで?」


 薫くんの声は、真剣だった。


「シェルターに行く」

「まだ約束の3ヶ月は迎えてないよ?」


 私は雫ちゃんが言っていた、ある言葉を思い出していた。


 “葵ちゃんの病気は治るかもわからないんだし、もしこの先、恋人ができたとしても、その人に迷惑をかけるだけになるよ?お荷物になるだけ。わかる?”


 本当にそうだと思った。


 薫くんは恋人ではないけど……


「私は“お荷物”だから」

「そんなことない。僕はそう思わない。そう思ったことなんて、一度もない」

「……」

「ここにいて?」

「……」

「僕がそうして欲しい」

「だけど……」

「ここにいて」


 私も……ここにいたい……。


 私は……私のことを抱きしめてくれている薫くんのことを、そっと抱きしめた。


「もしかして、あの家に戻ろうだなんて思ってないよね?」

「……」

「それは絶対にだめだからね?」

「……」

「……僕は本気で言ってるんだよ?」


 私は薫くんから離れ、顔を見た。


 とても心配そうな顔をしていた。


「ごめんなさい」

「なにが?」

「先のことを考えると、ついつい悪いことばかりが頭に浮かんじゃって、その度にこうやって、薫くんのことを困らせちゃう」


 薫くんは、そっと手を握ってくれた。


「僕は別に困ってないよ?それに葵ちゃんが我慢して不安を溜め込むよりも、こうやって話してくれる方が僕は嬉しい」

「……この先……私はひとりで生きていけるかな?」

「必ず、何か方法はあるはずだよ?一緒に考えていこう?」

「もし……何もなかったら?」


 パパのところに戻るしかない?


「大丈夫。必ずある」

「……」

「必ずあるから」


 薫くんはもう一度そう言った。


 もう……何も考えたくない。


「夜ごはんの準備をするね」

「……今日は別に──」


 薫くんが何か言っていた気がしたけど、その言葉は耳に入ってこなかった。


 とにかく検査結果が出てから、考えることにしよう。


 パパの元に戻るだなんて、どうかしてた。戻ったら私はパパの妻にならないといけないのに。そんなのは絶対に嫌なのに。


 薫くんに迷惑を……負担をかけていると思うと、苦しくなる。


 こんなすぐに弱気になってしまう自分が、大嫌いだ。


 それにしても、今日は疲れた。検査に時間がかかったし、ずっと不安だったから……。


 キッチンに来たのはいいものの、私は何も手につかず、突っ立ったままでいた。そんな私のことを、薫くんはまた抱きしめてくれた。後ろから抱きしめられていたから、背中に薫くんの体温を感じた。


「今日は何かデリバリーでも頼もう?検査で疲れちゃったでしょ?」

「……うん。ありがとう」

「おいで」


 薫くんはそう言うと、私の手を引きソファへと連れて行った。


「さっきの話の続きをしてもいい?」

「……」

「正直に話して?お父さんのところに戻ろうと思った?」


 なんでわかったんだろう……


「……一瞬だけ……」

「そんなことをしたら──」

「わかってる」

「だったら二度とそんなことは考えないで」

「だけど、シェルターに行ったら、自由に外出ができないみたい」

「さっきも言ったでしょ?ここにいればいい。そんなにシェルターに行きたいの?」


 行きたくない。


「正直に教えて?」

「……ずっとここにはいられないでしょ?いつかは出て行かないといけないでしょ?」

「だから何度も僕言ってるよね?二人で考えようって」


 ……そうだ……。


 薫くんはいつだってそう言ってくれる。パパへの言い訳が思いつかなかった時も、一緒に考えようと言ってくれたんだ。


 薫くんは私の手をそっと握った。


「大丈夫だから。葵ちゃんはひとりじゃないから」

「……うん」

「落ち着いた?」

「いつもありがとう」


 私がそう言うと、薫くんは優しく微笑んだ。


 本当に薫くんってすごいな。


 完全に不安が拭えたわけじゃない。だけど、薫くんからそう言われると、なんとかなりそうな気がしてくるから不思議だ。


「明日はSIMカードを買いに行って、そのままどこかに出かけようか。買い物でもする?洋服とか、そんなに持ってきてないでしょ?」

「……持ってきた分だけで大丈夫。普段、スーパーくらいしか行かないし」

「でも気分転換になるよ?」


 お金ないし。


「ね?」


 そう言う薫くんは、やっぱり優しい顔をしていた。


 あー……やっぱり好きだな……。


 そのあとは、デリバリーで夜ごはんを頼み、それが届くと二人で食べた。


 寝る時間になりベッドに向かうと、薫くんも一緒に寝室へときた。


 勉強とか、いいのかな?


「どうしたの?」

「ううん」


 二人でベッドに潜り込むと、薫くんの方に体を向け……たら……薫くんが抱きしめてくれた。


 今までにも何度も抱きしめてもらい、安心していたけど……今はドキドキとしていた。一緒に寝てもらうようになってから、こういうふうにされたのは初めてだった。いつも私が近づいていたから……。


「葵ちゃん」

「……はい」

「明日楽しみだね」

「うん」

「美味しいもの食べようね」

「うん」


 薫くんはこんな感じで、明日のことを色々と話していた。


 さっきまでの不安な気持ちが、どんどんと落ち着いてきた。


 優しい薫くんの声を、近くで感じる。


 だんだんと……瞼が重くなってきた……。


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