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お薬飲もうね─ 父の狂った愛と、優しい彼の本音─  作者: ことりおと


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62 検査


 暇を持て余す日々が続いていた。


 体調に変化はなし。


 2月も終わり、3月になっていた。


 寒さが徐々に和らぎ、晴れた日の日中は、過ごしやすいことが増えてきた。だから体力作りのために、散歩をすることが多くなっていた。




「ただいま」

「おかえりなさい。お疲れさまです」


 コンビニ袋を手に下げた薫くんは、すぐにキッチンへと向かい、冷凍庫を開けた。今日は早く帰ってきた。


「たくさん入ってる」


 ……しまった。やりすぎたかな?冷凍庫、占拠しすぎたかな?


 私は食材なんかを、色々と冷凍庫に詰め込んでいた。


 謝らないと。そう思っていると……


「ふふっ。なんかいいな、こういうの」


 薫くんはそう言っていた。


「え?」

「僕さ、ずっと一人暮らしだったから、こんなにパンパンな冷凍庫、見たことがなかったんだ。この部屋の前は、ボロアパートで、冷蔵庫なんか備え付けの小っちゃいやつだったし」

「……迷惑じゃない?」

「うん。なんか嬉しい。ホッとする」


 ホッとする?


「冷蔵庫も、食材や作り置きがあって、なんだか温かい気持ちになるよ」

「……」

「あ、アイス買ってきたから、今度休みの時にでも一緒に食べよう?僕ね、あったかい部屋で食べるアイスが好きなんだ」


 かわいい……。


 薫くん、そんな一面もあるんだ…。


「バニラとチョコ、どっちが好き?」

「……どっちも」

「じゃあまた、シェアして食べよっか」

「うん」


 本当に薫くんは、温かい人だ。


 冷凍庫にアイスをしまうと、薫くんは次にキッチン下の棚を開けて見ていた。


「おお、調味料がこんなに揃ってる」

「……買いすぎちゃったかな?」

「ううん。そのおかげで、僕は毎日美味しい料理にありつけてるから気にしないで?いつもありがとうね。あ、みかんと桃の缶詰もある」

「あ……それは──」


 私は説明をした。それは自分用だと。めまいを起こし、気持ち悪くなった時のために買ったものだと。


「……そっか……普通の食事や、お粥なんかも食べられなくなっちゃうんだね……」

「うん。そういう時に、缶詰のフルーツをよく食べてたの」

「……」


 薫くんは、何か考え込んでいるようだった。


 どうしたんだろう……


「ごはんはさ、いつも葵ちゃんが作ってたの?」

「ううん。半々かな?朝はパパが作ることが多かった。たまにお昼も作り置きしてくれて……」

「具合が悪くなるのは朝、昼、夜、いつが多かった?」

「……特に決まってない……と、思う」

「そっか。変なことを聞いてごめんね」


 薫くんはそう言うと、シャワーを浴びに行った。


 私はその間にごはんの準備をすると、薫くんがシャワーを浴び終えるのを待っていた。いつも通り、料理をテーブルに並べていると、薫くんがリビングに来た。


「わぁ……美味しそう」


 今日は薫くんが早く帰ってきたから、いつもより時間がある。私はそれが、すごく嬉しかった。


「食べよう?」

「うん。さっきからお腹がぐーぐー鳴ってる」


 薫くんは照れながらそう言っていた。


 二人でご飯を食べていると、薫くんは“検査”のことを話し始めた。


「今週の土曜日ね、午後は休めそうなんだ。だから葵ちゃん、検査しに行こう?」


 検査……この前薫くんが言っていたことだ。


「うん……」

「怖い?」


 怖い……。


「大丈夫」

「……僕も行くから」

「うん」


 今この薬で、症状が治ってるならそれでいい。


「おっ、これ美味しい」

「本当?」

「うん。美味しい。お昼もこういうのが食べられるといいんだけどな。いつもコンビニて済ませちゃうから」

 

 ……本当に?


「……お弁当、作ろうか?」

「あっ、ごめんっ。なんだか催促してるみたいな言い方しちゃったよね」

 

 そんなことない。嬉しい。作りたい。


 私には、そんなことくらいしかできないから……。


「ううん。前からずっと、作りたいって思ってたの」

「……いいの?」

「うん」

「だったら、おにぎりがいいな」

「おにぎり……」

「うん。作業しながらでも食べられるし」


 そんなに忙しいんだ。お昼は割と、電話することができてたから知らなかった。


 あ……でもこの前、電話の最中に呼び出されてたな。それに毎日電話ができていたわけではない。きっとそんな時は、薫くんはいつも忙しくしてたんだ……。


 そのことに気がつくと、今までの薫くんの優しいさを実感し、感謝の気持ちでいっぱいになった。


「何おにぎりがいい?」

「おまかせで。それを毎日の楽しみにするから」


 薫くんは、嬉しそうにそう言っていた。


 私は次の日から、色々なおにぎりを作った。


 シャケやたらこなどの定番なおにぎりと、変わりダネのおにぎりの2種類。


 変わりダネは、唐揚げやのり弁ふう、きんぴらなど……。


 薫くんはどれも美味しいと言ってくれた。


 私は……いつの間にか、おにぎり作りが生き甲斐になっていた。


 



 検査の日が来た。


 午前の仕事が終わった薫くんに連れられ、車に乗り込むと病院へ向かった。


 ……怖い……。


 私が不安を抱えているのを察したのか、薫くんは手を握ってくれた。


「……大丈夫だから」

「うん……」

「痛いことはしない。ただ検査をするだけ」

「……その……検査結果が怖い……」

「うん。そうだね。だけど、僕はどんな結果でも諦めないから」


 薫くんはいつも前向きだ。


 私は車窓から景色を眺めていた。


 きっと結果はいつもと同じだ。


 そう思うと、ズンと気持ちが沈んだ。


 パパが何年も診てきたんだから。


 その結果はいつも同じ。


 原因不明の病気。


「葵ちゃん?大丈夫だからね?」

「……なにが」


 私は思わずそう返してしまった。


「僕がいる。葵ちゃんはひとりじゃない。それだけじゃ励みにならない?」


 ……そんなことない。


 薫くんはいつでも私を、明るい方へと導いてくれる。


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