58 早く会いたい
お昼になると、すぐに薫くんから電話がきた。今までは、“電話していい?”のワンクッションがあってからの電話だったから、何だか嬉しくなってしまった。電話に出ると、すぐに薫くんは……
『体調はどう?大丈夫?』
そうやって私のことを気遣ってくれた。
「うん。調子いいよ」
『ならよかった』
「……あのね?」
そう言って、話を切り出した。料理をするにあたって、色々と買い足したいと。
『ごめん。お金足りる?料理をするのに、そんなに色々と必要だなんて知らなかったから』
「今日は計算しながら買うから大丈夫だよ。それに調理器具は100円ショップで買うし、調味料も一度揃えちゃえば、すぐにはなくならないし……」
そんなことをしばらく話していると、薫くんは思い出したかのように、それから申し訳なさそうにこう言った。
『今日さ、帰りが遅くなっちゃうと思う。だからごはんは作らなくていいよ』
「何時くらい?」
『んー…たぶん23時頃にはなっちゃうと思う』
そんなに……?
本当に忙しいんだな。
「何か作っておこうか?」
『ううん。食べられる時に食べる形になるだろうから、本当にいらないよ。葵ちゃんは先に眠ってていいからね?』
あ……薬……どうしよう。
『あ、薬は、本棚のところに置いてあるカゴに入ってるから。今確認してみて?ピルケースにまとめてあるから』
心の声、聞こえたのかな?
私は言われた通りに確認してみると、1週間分の薬が小分けに入れられるピルケースを見つけた。その中には、私が今朝飲んだ薬と、同じものが入っていた。
「ありがとう」
『夜ごはんを食べたら、ちゃんと、お薬飲むんだよ?』
「わかった」
そのあとは少しだけ雑談を楽しんだ。最後に薫くんは、“とにかく今は自分のことだけを考えて”と言ってから、通話は終了した。
私は自分のリュックの中身を全て空にすると、早速買い物に出掛けた。
外ではスマホが使えないから、家にいる時にマップを確認しスクショした。それを頼りに、まずは100円ショップに向かうと、スマホにメモした物の中から、すぐに必要そうなものだけを選んでカゴに入れた。
その時……お弁当箱が目に入った。
お弁当を作ったら、薫くんは持って行ってくれるかな……?100円だし、買っちゃおっかな……。
……いや、やめておこう。
その代わり、タッパーを何種類か選んだ。
大きめのトートバッグもカゴに入れ、お会計を済ませると、そのトートバッグに買ったものを詰め込んだ。
次にスーパーへと向かい、必要な調味料を次々とカゴに入れた。初めてのスーパーだったから、色々とじっくりとみて回った。
あ……みかんと桃の缶詰……。
私は念のため、それもカゴに入れた。
お会計を済ませると、それらをリュックに詰め込み、それが終わると背負い込んだ。
やっぱり、調味料が多いと重いな。リュックを持ってきて正解だった。
私はゆっくりと歩きながら、薫くんの家へと帰った。
「ふぅ……」
買い物をしただけなのに、少し疲れてしまった。やっぱり、体力ないな。しばらくの間は、この辺りを把握するために、毎日お散歩でもしてみようかな。
ひと休みをすると、今度は買ってきたものを棚にしまったり、冷蔵庫にしまったりした。
それからご飯を炊き、作り置きができる料理を3品ほど作ると、タッパーに移し、冷蔵庫へと入れた。それからお肉と野菜に味付けをしたものなども、ジップ袋に入れ、そのまま冷凍した。ご飯が炊き上がると、それも小分けにして、冷凍庫へと入れた。
時間を確認すると、16時30分。
洗濯物を取り込むと、それを畳み、ソファの上に置いておいた。自分のものは、バッグにしまった。
はぁ……薫くんは、帰りが遅いのか……。
早く会いたいな。
私はテレビをつけると、それをただ何となく見ていた。
あ……お昼食べるの忘れてた。薫くんから、ちゃんと食べるように言われてたのに……
また時間を確認すると、18時になろうとしていた。
冷蔵庫からタッパーを取り出すと、3種類のおかず……というよりは副菜をお皿に少しずつ乗せ、ラップをかけて温めた。それから漬物を用意すると、それでご飯を食べ、そのあとに薬を飲んだ。
パパは……まだ診察をしてるはず。
私のスマホは、今どうなってるんだろう。
パパは……私がいなくなって、昨日はどう過ごしたんだろう。
ううん。だめ。考えちゃだめ。
私はテレビに集中した。
しばらくしてからシャワーを浴びると、髪を乾かし、またテレビを見ていた。
……寂しい……。
薫くんから貰ったぬいぐるみに香水を吹きかけると、それを思い切り抱きしめた。
早く帰ってこないかな。
時間を確認すると、21時40分。あと1時間ちょっと……。
会いたい。
先に寝てていいと言われていたけど、薫くんの顔を見てから眠りにつきたい。
またテレビを見ていると、鍵が開く音が聞こえた。時間は22時30分だった。聞いていた時間よりも早く薫くんは帰ってきた。
すぐに玄関に向かうと、優しい顔をした薫くんが、「ただいま」と言った。私もそれに答えるように、「おかえりなさい」と言った。
会いたかった……。
私は何も考えずに、靴を脱いだ薫くんの胸に飛び込んだ。




