↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お薬飲もうね─ 父の狂った愛と、優しい彼の本音─  作者: ことりおと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/93

57 パパがいない朝


 次の日、薫くんに起こされ目が覚めた。


「葵ちゃん、朝ごはんは食べるタイプ?」


 薫くんだ……。


 そうだ……私、薫くんの部屋にいるんだ……。


 寝起きのぼーっとする頭で、そんなことを考えていた。


「もう少し寝る?」

「ううん。起きる」


 私は洗面所に向かうと、朝の用事を済ませ、リビングへと向かった。


 薫くんはソファに座っていた。


「あのあとはゆっくりと眠れた?」

「うん」

「変な夢は見なかった?」

「大丈夫」


 たぶん、薫くんが隣にいてくれたからだ。だから、私は安心して眠れた……と、思う。


 目の前のテーブルには、コンビニ袋が置かれていた。


「コンビニに行ってきたの?」

「うん。うちには何も食べ物がないから」

「薫くんは、朝食べる人?」

「食べるけど、だいたい通勤中にコンビニで買って、病院で食べることが多いかな」


 それじゃあ私のために、今日はわざわざ買ってきてくれたんだ…。


「ありがとう」

「気にしないで?僕もこうやって、葵ちゃんと朝ごはんが食べたかったし」


 やっぱり薫くんは優しいな。私はコンビニ袋を手に取ると、中を見てみた。おにぎり、サンドイッチ、フルーツゼリー……。


「薫くんは何食べる?」

「僕は何でもいいよ」

「私も何でもいいよ?」


 私がそう言うと、薫くんは「それじゃあ……」と言い、おにぎりを手に取った。私はサンドイッチを手に取ると、袋を開けて食べ始めた。


 食べ終わると、薫くんは昨日と同じ薬を手渡してきた。


「はい。お薬飲もうね」

「うん。ありがとう」


 それを飲み終えると、洗濯機の使い方を教えてくれ、掃除機の場所なんかも教えてくれた。


「ま、ひと通りこんな感じだけど、別に何もしなくてもいいから。今はとにかく、心を休めて欲しい」

「何もしてないと、頭がぐるぐるしちゃいそうだから……」


 私がそう言うと、薫くんは苦しそうな顔をした。


「うん。それなら、葵ちゃんが好きなように過ごして?あと、ひとつだけ約束して欲しいことがある」

「はい」

「ちゃんと暖房をつけること」

「はい」

「それから食欲がなくても、必ず何か食べること」

「はい」

「あと、元の家に戻らないこと」

「はい」

「葵ちゃんのスマホの電源を入れないこと」

「はい」

「……」


 あれ……?薫くんは黙ってしまった。


「ふふっ。ごめん。全然“ひとつ”じゃなかったね。でも、僕が今言ったこと、全部守ってくれる?」

「うん。守る。約束する」


 薫くんは優しく微笑んで、私の頭を撫でた。


「それじゃあ、そろそろ行ってくるね。またお昼に連絡するから」

「うん……あの……」

「ん?」

「本当に何から何までありがとう」

「僕にできることなら何でもするよ。葵ちゃんには、もう一人で抱え込んでほしくないから」


 それを聞いて、胸の奥がトクンとした。


 私も、私ができることをしたい。


「ありがとう」

「うん。それじゃ、本当にもう行くね」


 そう言う薫くんを、玄関で見送った。


 早速洗濯機を回すと、次に調理器具の確認をした。


 フライパン、片手鍋……鍋類はこの二つ。まな板、包丁、菜箸、ザル……薫くんのキッチンには、これしかなかった。あとはレンジと炊飯器。


 フライ返しやトング、お玉やおろし金、キッチンバサミなんかも欲しいな。


 次に食器を見てみた。


 平皿、どんぶり、お茶碗……それからお箸、スプーンが全てひとつずつ。


 ……これしかないんだ……。


 薫くんは買い足していいって言ってたけど、本当にいいのかな?2〜3ヶ月後には、私はシェルターに行くかもしれないのに、本当に買ってもいいのかな?


 今度は冷蔵庫の中を確認した。うちにあるのとは違って、ツードアの小さい冷蔵庫だった。


 調味料は……マヨネーズ……だけ?食材はほぼなし。あとはお茶のペットボトル、缶コーヒー、栄養ドリンク。


 冷凍庫には、チャーハンやパスタなど、食事系の冷凍食品が入っていた。


 こんなのばかり食べてるのかな?


 今度はキッチン下の棚の中を見てみた。塩コショウ、醤油、お茶や水のペットボトル、それだけだった。


 みりんや料理酒、ソースやケチャップ、ハーブ類なんかは何もなくて驚いた。料理をしない人のキッチンって、こんな感じなんだ。私からしたら、とても不思議だった。


 足りないものばかりだ。


 お昼になったら薫くんに、調味料や調理器具を買い足していいか、一応確認してみよう。フライ返しやお玉なんかは、100円ショップで買えるし、あと食器なんかも。


 私は薫くんから借りているスマホを手にすると、メモ帳に買いたいものを次々と入力していった。

 

 今私の手元には、昨日薫くんから預かった1万円札と、パパが前にくれた現金の、残りの3千円がある。これで……足りるかな……?食材まで買えるかな?とりあえず、必要最低限のものだけを厳選して……


 そんなことを考えていると、洗濯が終わった合図が聞こえてきた。


 寒いのには変わりないけど、今日は雲ひとつない青空だ。これなら洗濯物も、ちゃんと乾きそう。


 私は乾燥機は使わず、洗濯物を取り出すと、次々とベランダに干していった。昨日薫くんが着ていた服と、私の服。それらからは、同じ柔軟剤の香りがした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。