5 もういや……
自分のベッドじゃないからか、夜中に目を覚ましてしまった。
私はあのあとすぐに眠ってしまい、いつパパが隣に来たのかも気がつかなかった。パパは隣でぐっすりと眠っている。
いつもお仕事頑張ってるもんな。私ももっとパパの役に立ちたいのに。負担かけたくないのに……。
枕元に置いているスマホを手にすると、頭まで布団を被り、スマホをタッチした。
まだ午前2時か……。
あ……
メッセージがきてる……。
早速アプリを立ち上げてみると、結城さんからだった。3時間前に届いていた。
布団の中だと息苦しいな……。
そう思いながらも、そんな息苦しさとは裏腹に、私の心は簡単に躍りだした。
『お疲れさま。もう寝ちゃったかな?今日は忙しくて疲れちゃった。葵ちゃんはどんな1日だった?また明日連絡するね。おやすみ』
……こんな何気ないメッセージなのに、とても嬉しかった。
明日も連絡してくれるんだ……。
また胸がトクンとした。
本当はすぐにでも返信をしたかったけど、起こしてしまってはいけないと思い、やめておいた。
布団から顔を出し、新鮮な空気を思い切り吸い込む。
明日は……体調がいいといいな……。
「葵」
パパのそんな声で目が覚めた。
「具合はどう?」
「……わかんない……まだ怠い」
「何か食べられそう?それとも缶詰のみかんか桃でも食べる?」
今はきっと、そのくらいしか食べられない。だから私はそう伝えた。パパはすぐに準備すると、ベッドまでそれを持ってきてくれた。私はそれを受け取り、ゆっくりと食べ進めた。
「はい。お薬」
みかんを食べられるだけ食べると、パパから薬を渡され、それを飲んだ。
「それじゃあパパはもう行ってくるからね。具合が悪くなったら、すぐに連絡するんだよ?」
「うん。いってらっしゃい」
私はベッドからパパを見送ると、すぐに眠りについた。
お昼頃に目を覚ますも、私の体調は悪化していた。
スマホを手に取り画面を見る。メッセージがきていた。きっと結城さんだ……。昨日のメッセージもまだ返してない。返信したい……。
だけど……
画面を見ると目がまわる。
少し吐き気もする。
胃が動いているのを感じた。
吐きそうになり、私はベッドから下りるも、転んでしまった。
どうしよう……起き上がれない……。
フローリングに打ちつけた膝が痛い。
結城さん……
パパ……
「葵っ」
その時、慌てたパパの声が聞こえた。パパは走って私に駆け寄ってくれた。
「葵、大丈夫?めまい?トイレに行きたいの?」
私はもう我慢ができず、その場で戻してしまった。
「……ごめんパパ……」
「いいんだよ。気にしないで?少しは楽になった?」
私は頷いて返事をした。
パパは私の汚れた口元を濡れタオルで拭くと、水を飲ませてくれた。
「トイレ行く?」
「大丈夫」
なんで急に……こんなに……。
ここまでなることはここ最近、何年もなかった。
パパは私を抱き上げると、ベッドに寝かせてくれた。それからパパは、私が戻したものを掃除していた。次に缶詰の桃を私に食べさせると、また病院へと戻っていった。
情けなくて涙が出てきた。
パパはきっと、朝の私の体調を見て、休憩時間中に様子を見にきてくれたんだ。調子が悪いと、パパはいつもそうしてくれる。
もうやだ……。
気持ち悪さは、さっきよりは楽になっていた。だから結城さんに返事をしないとと思ったけど、今の私は、そんな気分にはなれなかった。
それから2日ほど私は寝込んだ。
徐々に気分も良くなり、5日目には気持ちの方も回復しつつあった。
ここ最近、スマホの文字を目で追うだけで、視界が揺れていた。だから私はスマホも見ていなかった。
でも今日はそんなスマホを久々に手に取り見てみた。
大丈夫だ。もう目は回らない。
メッセージを確認すると、結城さんからたくさんのメッセージが届いていた。
『どうしたの?体調崩しちゃった?』
『そうなんだよね?どんなふうに具合が悪いの?』
『返事もできないくらいなんだね』
『元気になったら必ず連絡してね』
そんな感じのメッセージが、何通も届いていた。
それを見て、私は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
私は……周りに心配ばかりかけている……。
こんなに心配させちゃうんだったら、結城さんと連絡先の交換なんてしなければよかった。
この前パパに迷惑をかけてしまってから、私はずっと、罪悪感を抱えていた。それも薄まったはずだったのに、また心の中はそんな気持ちでいっぱいになってしまった。
元々叶わない恋なんだ。こんな中途半端な関係を続けるくらいなら、もうやめてしまった方がいいかもしれない。
誰にも……心配をかけたくない。
『少し体調を崩していましたが、もう大丈夫です。心配かけてしまってすみません。でも、また今後もこういうことがあるかもしれないので、結城さんとのやり取りを、控えさせていただきます』
私はそう返事をした。
するとすぐに……
『なんで?なんでそうなるの?』
そう返ってきた。
『心配されるのが嫌だからです』
私はひと言、そう返した。
今度はスマホから着信音が流れてきた。
結城さんからだ。
私はそれに出なかった。
「それで?好きな人とはどう?」
雫ちゃんが勉強の休憩中にそう聞いてきた。
季節は梅雨になっていた。家の中にいるのに、雨が激しくアスファルトを打ちつける音が聞こえてくる。
まるで私の心を表しているようだった。
「そもそも好きな人なんていないよ」
「あれ?だってこの前は──」
「そんな人、元々いないっ。雫ちゃんが勘違いしただけっ」
あー……
私……最低だ……。




