↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お薬飲もうね─ 父の狂った愛と、優しい彼の本音─  作者: ことりおと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/94

49 そっくりだよ


 パパ……?何を言ってるの…?


 パパはゆっくりと私に近づくと、箱の中身を取り出し、私の左手の薬指にそれをはめた。


「あれ?このサイズで大丈夫だと思ったのにな。少し大きいね。葵の指は、ママよりも細いんだね。今度休みの日にでもサイズ直しに行こうね。安心してね?ちゃんと、葵にピッタリなサイズにしてもらうから」


 箱の中身は指輪だった。


「なにこの指輪……」

「何って、結婚指輪だよ?」

「……私……誰と結婚するの?」

「ははっ。葵はおかしいことを言うね。さっき言ったでしょ?葵はパパの妻になるんだよ」


 え……?


 私がパパの妻?


 わからない。


 パパが何を言っているのか、全然理解ができない。


 ありえない。


 そんなのありえない。


 クリスマスの時と同様に、私の耳には、ただただ楽しげな音楽が耳に届いていた。


 パパは指輪を箱の中に戻し、いつもの席に座り直した。


「親子で……結婚なんてできないでしょ?」


 そうだよね?


 私間違ってないよね?


 胸の中が、ずっとザワザワとして気持ちが悪かった。


 ネックレスがパパに見つかった時のように、寒さと暑さを同時に感じ、ずっと背中がゾワゾワとしていた。


 全身が……細かく震える。


「そうだね。法律上は無理だよ」

「だったら──」

「でもね?葵。葵は知らないだろうけど、世の中にはそんな親子もいるんだよ?」

「……」

「愛し合ってる親子が」


 ……愛し合う?


 パパが今言ってるのは、今までの私たちのことを言ってるんじゃないんだよね?


 それはつまり……男女の……?


「そんなのおかしいよ」

「おかしくない。お互いに愛があれば、形なんて関係ないんだよ?」


 私が……世間知らずなだけ……?


 だけどそんな話、聞いたことがない。


 怖い……


 気持ち悪い……


 さっきから、ゾクゾクとした感覚がずっと拭えない。


「葵……驚いちゃった?泣かないで?今まで通り、何も変わらないよ?ただ葵が、娘からパパの妻になるってだけの話」

「……愛し合うって……なに……?」

「……それは葵もわかってるでしょ?」


 わからない。


「少しずつ、慣れていこうね」


 何に……


「葵は初めてだもんね」


 何が……


「大丈夫。パパ優しくするから」


 何んのこと……


 私は席を立つと、すぐにトイレに向かい、さっき食べたものを吐き出した。


 気持ち悪い……。


 パパはすぐに私に駆け寄り、背中を撫でていた。


 気持ち悪い……触らないで……。


「食べ過ぎちゃったのかな?葵、いつもより食べてたもんね」


 薫くん……。


「今日の料理、美味しかったもんね」


 薫くん……。


「ちょっとはしゃぎ過ぎちゃったかな?」


 ひと通り吐き終わると、私は口をすすぎ、顔を洗った。


「今日は……色々と混乱してるから、ひとりで寝てもいい?」


 私がそう言うと、パパはスッと表情を変えた。


「前にも言ったでしょ?それはダメだって。それよりほら、前にパパがあげたママの香水をつけてきて?」


 なんで……


 私はそれを断ろうとした。


 だけど、パパの目は、それを許さないとでも言っているかのようだった。


 私が動けずにじっとしていると……


「ほら。早く」


 そう言われ、私の体は勝手に動いていた。


 頭の中は、もはや何も考えられなくなっていた。


 私は……パパの言うことに従っていた。


 ママの香水をつけると、パパに手を引かれ、ベッドまで連れてこられた。

 

 布団の中に入ると、パパは私のことを抱きしめた。


「本当に大きくなったね。体もママにそっくりだよ」


 ママに……


「んー……ママの匂い。顔も体も声も……全部ママにそっくりだよ」


 パパは……私にママを重ねてるの……?


「……私はママじゃない」

「そんなことはわかってるよ。パパはママも愛してるし、葵のことも愛してる」


 そう言いながら、パパは私の背中を撫でてきた。


 かと思えば、間接照明に照らされたパパの顔が私の顔に近づいてきたから、咄嗟に逸らした。


「葵?」

「いや……」

「もう……こんなにウブに育っちゃって。葵は本当に純粋な子だね」


 違う……そういうことじゃない……。


 本当に嫌なんだ。


「いいよ。さっきも言った通り、ゆっくり慣らしていこうね。大丈夫だよ。そのうちに良くなるから」


 良くなる?なんの話?


「はぁ……本当にかわいい……」

「……」

「教会ももう、目星を付けてるんだ。二人だけの結婚式をしようね。ウェディングドレスも、何着か見繕ってるから、葵はその中から好きなものを選んでね?」

「……」

「やっとこの日がきた……。パパは何年も、この日を楽しみにしてたんだよ?」


 ……何年も……?


 その時、私の下着姿をうっとりと見つめるパパの姿を思い出した。


 パパはずっと……そんなふうに私のことを見てたの?


 今までパパに感じていた違和感はこれだったの?


 もう頭の中はぐちゃぐちゃだ。


 さっきまでは幸せだった。


 料理も美味しくて、ケーキも嬉しくて……


 お医者さんとしてのパパを尊敬していたし、誇らしくも思っていた。


 男手ひとつで、私を育ててくれたパパに感謝もしていた。


 私はずっと、“パパ”のことは“パパ”としてしか見ていなかったのに、パパは違うの?


 この時、さっきつけた香水が鼻の奥まで届き、私はまた吐きそうになった。


「トイレ……」


 私はひと言そう言うと、トイレまで走り、また吐いていた。


 だけどもう……吐くものは無くなったらしく、胃液だけが延々と吐き出されていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。