46 お祝い
喫茶店に着くと、それぞれに飲み物と、デザート、あとはサンドイッチを二人でシェアしながら、おしゃべりを楽しんだ。
店内はお洒落なランプが天井から吊るされていて、イスのデザインは統一されていなく、こだわりを持って集められたように感じた。ソファ席もあり、テーブルには可愛いランプが置かれている。
さっきまで、穏やかな顔をしていた薫くんの表情が、スッと変わり、真面目な感じになった。
「さっきのこと……気にしてる?」
「……え?」
「待ち合わせの時のこと」
……気にしてるというよりは、考えないようにしていた。
薫くんはあんなに綺麗な人と、大人な関係に……。
「ううん。大丈夫だよ?」
「……どこまで聞いてた?」
言いたくない。
「そんなに聞いてない」
「どこまで?」
「あまり聞こえなかった。それより、綺麗な人だったから、二人がお似合いに見えて……」
最後に言った言葉は、本当の気持ちだった。
店内には、ゆったりとした曲が流れていた。周りからは落ち着いた会話が聞こえていた。
「やめて。お似合いだなんて。僕あの人のこと嫌いなんだ」
薫くんは少し眉間に皺を寄せた。
でも……付き合ってたんじゃ……
そう思ったけど、それを言っちゃうと、どこまで会話を聞いていたか、わかってしまう……。
「ごめんなさい。もう言わないから」
「……僕の方こそごめん。嫌な気持ちにさせちゃったね」
それからその話はもう終わり、話題は変わっていた。
私たちは、結局デザートもシェアしていた。
「来月、葵ちゃんの誕生日でしょ?」
「よく知ってるね」
「院長がそう言ってたから。でも多分、またしばらくは会えないと思うんだ。だからね、今日どうしても会いたかった」
それで今日、誘ってくれたんだ。薫くん、忙しいのに……。
「ありがとう」
「それでね……」
薫くんはそう言いながら、小さい紙袋をテーブルに置いた。
今はサンドイッチもデザートも食べ終わり、その食器はすでに片付けられていたから、テーブルの上にはマグカップが2つだけ置かれている状況だった。
「誕生日プレゼント」
その紙袋は、ジュエリーショップのものだった。
「開けてみて?」
私はその紙袋を手に取ると、リボンが綺麗に飾られている箱を取り出した。それからそのリボンを解き、箱を開けると……
「こんな高価なもの、受け取れない」
「成人のお祝いでもあるから、それも含めて受け取ってくれない?」
「でも……私にはまだ早い気がするし……」
「そんなことないよ」
薫くんは立ち上がり、私の元へ来ると箱を手に取った。それからそれを、私に身につけてくれた。
席に戻った薫くんは私を見ると、優しく微笑んだ。
「すごく似合ってるよ」
私は首元にそっと手を触れた。
「お手洗いに行って、鏡を見てきてごらん?」
薫くんの言う通り、私は立ち上がると、お手洗いに向かった。
胸がトクンとする。
ドアを開け、洗面台の鏡を見てみると、私の首元には一粒ダイヤのネックレスが、キラリと小さく光っていた。
こんなの……本当に貰っちゃっていいの……?
そのネックレスをしただけで、大人に一歩、近づけたような気がした。
どうしよう……すごく嬉しい……。
私はしばらくの間、首元をずっと見ていた。
あ……薫くん……。
薫くんの元に戻らないと。
お手洗いから出ると、私は自分の席に戻った。
薫くんはニコニコとしていた。
「ふふっ。気に入ってくれた?」
「うん。すごく綺麗」
「葵ちゃんもすごく綺麗だよ。それに似合ってる。長く使えるようにって、シンプルなデザインにしたんだ」
そこまで考えてくれたんだ……。
それに……私のことも綺麗だなんて、あんなにさらりと言っちゃうだなんて……。
ここの喫茶店は、ほんの少しだけ暗く、温かみのあるオレンジ色の照明だった。蛍光灯なんかではなく、電球みたいな温かい色。
そのおかげで、私の顔が赤くなっていることは、きっとわからないと思う……。
「照れた顔してる」
表情でバレちゃったか……。
「うん。薫くんがあまりにもさらりと……」
「僕は思ったままのことを言ってるだけ」
「……ありがとう」
薫くんがそう言ってくれたから、私は素直にお礼を言った。
それからも、またおしゃべりを楽しみ、気がつけば2時間があっという間に過ぎていた。地元からここまで、車で30分はかかった。もうそろそろ帰らないと……。
「薫くん」
「うん。わかってる。そろそろ出ようか」
「うん……」
名残惜しいまま、喫茶店をあとにすると、そのまま車に向かった。
地元に着くと、車から降りた。薫くんも車から降りると、そっと抱きしめてくれた。
「安心する?」
「うん」
「僕も」
「ネックレスありがとう。大事にするね」
「うん。気に入ってもらえてよかったよ」
本当に名残惜しい。
「また連絡するからね」
「うん。私もする」
寂しい……。
そんな気持ちを残したまま、私たちは解散した。
急いで帰ると、すぐにシャワーを浴びて、髪を乾かした。
それから部屋へと行き、箱に入っていた付属の小さい巾着袋を手にすると、ネックレスをその中に入れた。
その巾着袋をそっと胸に当て、今日のことを思い出す。
薫くん……次はすぐに会えないって言ってたな……。
だったら私が会いに行きたい……。
巾着袋をバッグの内ポケットにしまい、ファスナーを閉めた。
箱や紙袋なんかは、香水瓶を隠しているバッグの中にしまっておいた。
そこまですると1階に下り、夜ごはんの準備をして、パパの帰りを待っていた。
パパが帰ってくると、いつも通りに、二人でダイニングテーブルを囲う。
「今日は何してたの?」
いつもの会話だ。
「今日は河川敷を散歩したよ」
本当は家にいたと言っても大丈夫だと思う。だけど万が一、パパが夕方に帰ってきていたことも考慮して、そう答えた。
「いいね、河川敷。今日は暖かかったもんね。楽しかった?」
「うん。魚が跳ねたり、鴨が泳いでるのを見て、楽しかったよ」
「そっかそっか」
パパは穏やかな顔をしていた。
……薫くんの言っていた通り、本当のことだから、スラスラと話すことができた。
ごはんを食べ終わり、パパはお風呂に入り行った。
よかった……。
一緒に入ろうって誘われなくて……。
すぐに浴室からは、シャワーの音が聞こえてきた。




