38 クリスマスプレゼント
薫くんと、少しのやり取りをしたあと、私はケーキを作り始めた。スポンジ生地を作り、型に流してオーブンで焼く。その間に、チキンを合わせ調味料に漬け込み、冷蔵庫にしまう。
そこまで終わると、私は部屋へと向かい、あのぬいぐるみを抱きしめた。
会いたい。
昨日会ったばかりなのに、もう会いたい。
確かこの前もこんな感じになった。
なんで……?
心は潤っているはずなのに、どんどんと欲張りになっていってる。もっともっと……って……思ってしまう……。
その時……
“僕は会えなくても大丈夫じゃないんだけど?”
“あのまま、僕の家に連れ去りたかった”
そのメッセージを思い出し、顔が熱くなるのを感じた。
薫くん……そんなふうに思って……。
私はベッドに寝転ぶと、ぬいぐるみを抱きしめたまま、足をバタバタとさせた。
……悶絶……。
薫くんも昨日、こんな気持ちになってたのかな……。
気持ちがひとまず落ち着くと、私はキッチンに向かうために、階段を下りた。スポンジケーキが焼ける匂いが、部屋中に漂っている。
本当は薫くんにもケーキを作りたかった。
いつか作れるといいな。
お昼になると、すぐに薫くんからメッセージがきた。
『今日は体調いいんだよね?』
いつも気にかけてくれるな……。
『うん。大丈夫だよ』
『声が聞きたい。電話してもいい?』
私はすぐに電話をかけた。
『ありがとう。電話くれて』
「ううん。私も薫くんの声が聞きたかった」
『あのさ……』
「うん……?」
『僕……また気持ち悪いこと言っちゃったよね?昨日』
「え?」
そんなこと言ってたっけ……?
『……連れて帰りたいとか……』
あ……
別に……気持ち悪くてなんてないけどな。
『別に、変な意味はないからねっ?ただ……もっと一緒にいたいっていうのを伝えたくて』
薫くんは少し焦ったように、そう言っていた。
「ふふっ」
『もう……笑わないでよ』
「だって……なんだか可愛かったから」
『可愛いのは葵ちゃんの方だよ。昨日、“わざわざ”香水をつけてこなかったんだから』
それを聞いて、また顔が熱くなった。
「もう言わないで」
『ふふっ。何回でも言うよ。照れた葵ちゃん、可愛いから』
私はスマホを持っていない方の手で、自分の頬に触れた。
やっぱり熱い……。
それからいつも通り、しばらくは他愛もない会話を重ねてから、電話を切った。
今日も声が聞けた……。
パパと一緒に寝ていなければ、夜もこうやって電話をすることができるのかな?
私の体が弱くなければ……。
悔しいな。
夜になると、パパが帰ってくるちょっと前に、クリスマスソングをかけ始めた。
料理もケーキもバッチリ。パパ、喜んでくれるかな。
しばらくすると、パパは帰ってきた。それと同時に、オーブンから焼き上がりを教える音が鳴った。
「んー、いい匂い。たくさん料理を作ってくれて、ありがとうね」
「ううん。私にはこれくらいのことしかできないから」
私たちは二人きりのクリスマスパーティーを始めた。
色々と思い出話なんかをしながら、食べ進め、ケーキも食べ終わると、私はプレゼントを取りに2階へ行き、すぐに戻った。
「はい、パパ」
プレゼントを手渡すと、パパは嬉しそうにしていた。
「開けてもいい?」
「うん」
パパは丁寧に包装を解いていた。
それから中身を確認すると、優しく微笑んだ。
「パパのために、ありがとうね。仕事でよく使うから、これを選んでくれたんでしょ?」
「うん。書き味もすごく滑らかでよかったよ」
「替えの芯までちゃんとある。明日からこのボールペンを使うよ。本当にありがとう。すごく嬉しい」
よかった。パパ、喜んでくれた。
すると今度はパパが紙袋を私に手渡した。
「はい、葵へのプレゼント」
「ありがとう」
「見てみて?」
私はわくわくとしながら中身を取り出した。
紙袋の中には、可愛くラッピングされた袋が入っていて、とても軽かった。
なんだろう。
リボンを解き、中を見ると、今度は薄い布で何かが包まれていた。
……。
……嫌な予感がする……。
その薄い布も広げてみると、包まれていたのは……
下着だった。
「……」
「どう?葵に似合うと思ったんだけど」
いらないよ……下着なんて……。
私はあの日のことが甦り、変な汗が出てきた。
パパの前で、下着に着替えた日のことを……思い出していた。
「葵?」
「……ありがとう……」
「着て見せて?」
パパは優しく微笑むように、私を見ていた。
「……」
「葵」
「……部屋で……着替えてくるね」
「ここで」
そう言ったパパの目は、さっきと違い、あの目になった。
体が動かない。
「恥ずかしいから部屋で……」
声を振り絞るように、そう言った。
だけどパパは何も言わず、じっと私のことを見ていた。
私は2階に行こうと、一歩足を踏み出すと……
「葵」
ひと言そう言われ、私の体はまた、硬直した。
だめだ……。
動けない。
パパの言うことを聞かないと……。
私は仕方なくパパに背中を向けると、着替え始めた。
手が震えて、なかなかホックが留められない。
すると、後ろに気配を感じた。
「パパが手伝ってあげる」
返事をする間もなく、パパはホックを留めていた。
「はい、できたよ」
私は少し整えると、体を半転させ、パパの方を向いた。
パパはもう、さっき座っていたところに、また座っていた。
「すごく似合ってるよ、葵」
頭が……上手く働かない……。
なんで……
パパはそんなに……
うっとりとした目で私を見るの……?
「嬉しい?その下着、気に入った?」
私は静かに頷いた。
耳には、私がかけたクリスマスソングが届いていた。
胸が躍るはずのクリスマスソングなのに、今は虚しく部屋の中に響いている。
「……もう、服着てもいい?」
「今日はクリスマスだし、今からパパと一緒にお風呂に入ろうか」
「……」
「ね?葵」
「……はい……」
私はパジャマと下着を取りに、下着姿のまま部屋へと向かった。それから落ち着くために、すぐにぬいぐるみを抱きしめた。
薫くん……
大丈夫。
これは普通のこと。
親と一緒にお風呂に入るのは、普通のこと。
大丈夫……。




