33 工夫?
パパが仕事に行ったあと、薫くんからのメッセージに返事をした。
『ごめんね。少し体調を崩してた。でも今は大丈夫だから、気にしないでね』
そのメッセージに返事がきたのは、お昼だった。
『体調崩したって?めまい?吐き気?』
また私は薫くんに心配を……
『とにかくもう大丈夫だから』
……。
あ……。
なんか……変な感じになっちゃったかも……。
私はすぐにメッセージアプリを閉じると、それをベッドに放り投げ、2階に向い、自分のベッドに寝転んだ。それから、薫くんに獲ってもらったぬいぐるみを抱きしめた。
私は……薫くんに釣り合わない……。
この日はこのまま、自分のベッドで眠っていた。
次に目を覚ますと、15時になっていた。
また薫くんのことを考えた。
前の自分に戻ってる……。
その時……
今まで薫くんが私に言ってくれた言葉を思い出した。
“前に葵ちゃん、自分は周りに迷惑をかける存在だって言ってたよね?僕はそう思わない”
“僕にはね、その辛さを想像することしかできない。だからね?葵ちゃんのそういう気持ち、苛立ちでもなんでもいい、僕に話してくれないかな?”
私は1階にゆっくりと戻り、パパのベッドに放り投げたスマホを手に取った。
薫くんからのメッセージがたくさん届いていた。
『何その言い方。前に僕が言ったこと、忘れちゃったの?』
最初のメッセージはそんな感じだった。それから3通、立て続けにメッセージがきていた。
『ごめん。別に葵ちゃんを責めたいわけじゃない』
『教えて?今葵ちゃんが抱えてるもの』
『何かあったんでしょ?』
薫くんの優しさが……苦しかった……。
私は自分がどうしたいのかがわからない。
ううん……
どうなりたいかはわかってる。
薫くんと……一緒にいたい……。
……でもそれは叶わないこと……。
だったらそんなこと……初めから望まない方がいい……。
なんて言おう……。
……。
『もう会えないかも』
そう送った。
『なんで?』
すぐに返事がきた。今日は薫くん、休みなのかもしれない。
『今までも色々と、パパに嘘をついてきた』
『電話できる?』
声……聞きたい……。
『薫くんの忙しさが落ち着いても、今と変わらない。会える日が増えるわけじゃない』
嫌な自分になってる……。
『全く会えないわけじゃないでしょ?』
『でもこんなの意味ない』
『電話できる?できない?』
『もうこの前みたいに時間を作れない』
もう……嫌い……。
こんな自分……大嫌い。
その時──……着信があった。
私はそれに出なかった。
『電話無理?』
すぐにそういうメッセージがきた。
『また僕を避けるの?』
また……
『葵ちゃん、また不安になってるんだよね?電話しよ?僕に教えて?僕に不安や不満を全部吐き出して?』
そのメッセージがきたあと、すぐに着信があった。
薫くん……
声……聞きたい……。
リビングのソファに移動すると、薫くんからの電話に出た。
「……ごめんなさい」
『……それは……何に対して謝ってるの?』
「また……嫌な自分になってる」
『はぁ……よかった……』
……よかった?
スマホを握る手に力が入らなくて、微かに震えていた。
「……」
『さっき“もう会えないかも”とか言ってたから、それについて謝ってるのかと思った。でもそうじゃないんだね?』
「うん……」
『よかった……それで?嫌な自分って?』
私は今の状況を、全部薫くんに伝えた。
昨日の体調のこと、薫くんに会うための、パパへの言い訳が思いつかないこと。パパから“いい子”だと言われて、罪悪感でいっぱいになったこと。そんなことをゆっくりと話した。
『大丈夫だよ、葵ちゃん。体調を崩すと、悪い方に色々と考えちゃうもんね』
「……」
『それに、僕と会うために、色々と工夫してくれてたんだね。この前のお出かけもそうだったもんね』
工夫……?
そうやって言われると、少し罪悪感が薄れた。
パパを“欺くための嘘”ではなく、薫くんと“会うための工夫”……。
『僕も色々と考えてみるからね?ひとりで考えるよりも、二人で考えた方が、色々といいアイディアが出るでしょ?』
私はいつも後ろ向きなことばかり考えてしまうのに、薫くんはいつだって前を向いている。いつも私の重くなった心を軽くしてくれる……。
「……ありがとう」
『うん。僕の方こそありがとうだよ。そのおかげで、今まで会えてたんだから』
手の震えは、いつの間にか止まっていた。
薫くんの優しい声を聞き逃さないように、しっかりとスマホに耳を当てた。
『少しは落ち着いた?』
「うん。落ち着いた。楽になった」
『ね?気持ちを吐き出して良かったでしょ?』
それからも、時間が許す限り、薫くんとの会話を楽しんだ。今日は休みだったらしく、薫くんは朝から勉強をしていたようだった。
電話が終わると、すぐに自分の部屋へ行き、ベッドに寝転ぶと、ぬいぐるみを抱きしめた。
薫くん……いつもありがとう……。
しばらくそうしていると、階段を登ってくる音が聞こえてきた。
しまった。パパが帰ってきた。ごはんの準備してないや……。
「葵?入るぞ?」
私はぬいぐるみを離し、ベッドの端に座った。
すぐにパパは部屋に入り、私の目の前にしゃがんだ。
「ごめんパパ。ごはん作ってない」
「いいよ。具合悪かったの?」
「ううん。お昼寝いっぱいしちゃったの」
「ははっ。そっかそっか。今日は久しぶりにデリバリーにでもする?」
「うん」
パパが立ち上がったから、私も立ち上がった。するとすぐにパパは私にハグをした。
「……葵……香水つけてる……?」




