↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お薬飲もうね─ 父の狂った愛と、優しい彼の本音─  作者: ことりおと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/93

30 思い出


 夕方になると、クリスマスイルミネーションが点灯し始めた。


 まだ日は落ち切ってないのに、そのイルミネーションがとても綺麗に……煌びやかに見えた。


 これが夜だったら、もっと綺麗なんだろうな……。


 そう思いながらも、今の私にとっては十分だった。


「薫くん……」

「ん?」

「……今日はありがとう……」

「……楽しかった?」

「うん……すごく……」


 私は泣きそうになってしまった。


 だって……


 こんなにもキラキラとした世界……初めて見たんだもん……。


 今までにも、パパに連れられて、こういうイルミネーションは見てきた。


 だけど……


 全然違う……。


 パパと一緒にいる時に見た景色とは、全然違った。


「葵ちゃん?具合悪くなっちゃった?」


 違う……。


 これがなんなのかわからない。


 この気持ちを言葉にできない……。


 私たちは手を繋ぎながら、ゆっくりと外を歩き、イルミネーションを眺めていた。


「ちゃんと教えて?どうしたの?少し座って休む?」


 薫くんは立ち止まると、道の端へと私を誘導した。


 私はそんな薫くんに抱きついた。


 そうしたかった。


 だから……そうしてしまった……。


「何か不安になっちゃった?」

 

 薫くんはそう言いながら、私のことをそっと抱きしめてくれた。


 伝えたい。


 でも伝えられない。


 気持ちを伝えたことによって、この関係が終わってしまうことが怖かった。


「葵ちゃん……?」


 好き。


「いきなりどうしたの?」


 大好き……。


「イルミネーションが綺麗で……」

「うん」

「帰りたくなくなっちゃった……」

「……」


 薫くんからの返事はなかった。


 その代わりに、さっきよりも強く抱きしめてくれた。


 静かな時間が流れる……。


 薫くんの息遣いを感じる……。


 薫くんの……匂いがする……。

 

「……僕も……帰したくない」


 その言葉で一気に心が満たされた。


「次……いつ会える……?」

「……今月は厳しいかも」


 それじゃあ、次に会えるのは来年なの?もう今年は会えないの……?


 そう思うと涙が出てきた。


 ずっと……薫くんと一緒にいたい……。

 

 私は鼻を啜ってしまった。


「泣かないで?」

「……ごめんなさい」

「……ごめん。やっぱり……泣きたいなら泣いてもいいよ。僕が受け止めるから」

「……うん……」


 私は薫くんのその言葉に甘え、しばらく静かに泣いていた。


「……来年の4月には、もっと会えるようになるから」

「……うん」

「きっとあっという間だから」

「はい」

「大丈夫だから」

「……」

「僕は葵ちゃんのそばにいるから」

「……うん……」


 私たちは、しばらくそうやって抱きしめ合っていた。


 その時間はとても静かで……不安で……でもとても温かくて……穏やかで……


 色々な感情が混ざり合ったものだった。


 薫くんは私から離れると顔をじっと見て、目尻に溜まった涙を指で拭ってくれた。


「大丈夫だから。メッセージも送るし、電話もする」

「……はい」

「……不安にならないで?」

「……うん」

「もう……」

 

 薫くんはそう言いながら、私のことを抱きしめ直した。


「本当に……帰したくなくなる……」


 そう……呟くように言っていた。


 私は薫くんの匂いを吸い込んだ。


 この匂いと体温を、しっかりと覚えてから帰りたかった。この力強い腕の感覚も……。


 でも……もう帰らないと……。


 本当は帰りたくない。もっと薫くんと一緒にいたい。


 だけど……帰らないと……。


 私たちはまた、しばらく抱きしめ合ってから、駅へと向かった。


 家に着くと、メイクと巻き髪、それに香水の匂いを落とすために、すぐにシャワーを浴びた。それから急いで髪を乾かし、夜ごはんの支度をした。


 度々、薫くんのことを思い出してはニヤケそうになり、そのたびに私は、気を引き締め直していた。


 パパには絶対にバレたくない。


 ある程度の支度が済むと、走って自分の部屋へと向かった。それからバッグを手に取り、中から香水の試供品を取り出すと、キャップを外し、鼻を近づけた。


 その瞬間、香水の匂いだけではなく、薫くんの匂いまで感じたような気がした。それと同時に、今日のことが走馬灯のように思い出された。


 薫くん……


 さっきまで会ってたのに、もう寂しいよ。

 

 そう思ってると、1階からパパの声が聞こえてきた。


 急いで部屋を出て、階段を下りると、にこやかなパパがそっとハグをしてきた。


 冷気に纏われたパパからは、冬の匂いがした。


「よかった。顔色はいいね。良い買い物はできた?」

「うん。パパのプレゼントもちゃんと買えたよ」

「ふふっ。そっか。楽しみだな。自分の買い物は?」

「洋服とか、アクセサリー買った」


 あ……薫くんにクレーンゲームで獲ってもらったぬいぐるみ……見つかったらきっと、パパに“これどうしたの?”って聞かれる……。

 そうなる前に自分から言っておかないと。


 パパは私から離れると、手を洗いに行った。


 私はその間に、テーブルに夜ごはんを並べ、パパは戻ってくると、すぐに席に着いた。


「先に食べてて?今お味噌汁を温めてるから」

「ありがとう。先に頂くね」


 味噌汁が温まると、お椀に注ぎ、それをテーブルへと運んだ。


「あのね?」

「うん」

「今日ね、パパから少しもらった現金で、クレーンゲームをやってみたの」

「おっ、そうだったんだ。あの辺、何店舗かゲームセンターあるもんな」

 

 よかった。ひとりでゲームセンターに行ったこと、怪しまれなかった。


 そういえば……小学生くらいの頃、街に行けば、パパがクレーンゲームでぬいぐるみをよく獲ってくれていたな。当時の私は、ぬいぐるみが穴に落ちるのを見るたびに、すぐにしゃがんで取り出し口に手を入れ、落ちたものを引っ張りだしては喜んでいた。


 懐かしいな……。


「それで?獲れたの?」

「うん。出口の近くにあったから、運良く獲れたの」

「そっか。よかったね」


 パパは、どこか懐かしむような表情になった。


「葵が小さい頃、よくパパが獲ってやったの覚えてるか?」

「私も今ちょうど、その頃のことを思い出してたんだ」

「ははっ。そうだったんだ」


 それからパパと、思い出話に花を咲かせた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。