↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お薬飲もうね─ 父の狂った愛と、優しい彼の本音─  作者: ことりおと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/94

29 幸せな時間


 薫くんが選んでくれた洋食屋さんは、どうやら老舗のようだった。雰囲気のある店内は、アンティークっぽい可愛いランプが吊るされていて、テーブルやイスも、ランプと同様、アンティーク調のものだった。


 なんか……すごくデートっぽい……。


 スタッフに案内され、席に着くと早速メニューを開いた。


「ここね、ハンバーグと、オムライスが人気なんだって」


 私はメニューに視線を落とし、薫くんが言っていたハンバーグとオムライスを見てみた。そこには思わずごくりとしてしまいそうなほどに、美味しそうな写真が載っていた。


「薫くんは何にするの?」

「んー…どうしようかな。葵ちゃんは?なにか気になるのはあった?」


 どうしよう……どれも美味しそう……。


 店内にはジャズが流れ、その他には、楽しそうに会話をする声が耳に届いてきた。でもそれは、騒がしいものではなく、みんな食事を楽しみながら、ゆっくりとこの時間を楽しんでいるような感じだった。


「ハンバーグも、オムライスも、蟹クリームコロッケも美味しそう……」

「そうだね。どれも美味しそう」


 薫くんも、メニューをじっと見ていた。


「決まった?」

「……薫くんが言ってた、ハンバーグにしようかな」

「じゃあ僕は、葵ちゃんが迷ってたオムライスにしようかな。あと蟹クリームコロッケ。僕のを少し分けたら、全部の味を楽しめるよ?」


 優しく微笑みながら、薫くんはそう言ってくれた。


 でも……そんなの……


「いい」

「え?」

「薫くんは、薫くんが食べたいものを食べて?」

「……」

「……次……」

「ん?」

「次にここに来た時に、オムライスを食べるから、薫くんは自分が食べたい物を選んで?」


 私がそう言うと、薫くんはさっきよりも優しく微笑んだ。


「うん。そうだね。そうしようか。また一緒に、ここに来ようね」


 私……もしかして今、すごいこと言っちゃった?


 どさくさに紛れて、大胆なこと言っちゃったんじゃない?


 当たり前のように、“次にここに来た時に”って……。


「葵ちゃん、エビフライ好き?」

「うん」

「じゃあ僕はエビフライにする。ひと口あげるね」

「じゃあ私も」


 二人とも食べる物が決まり、注文をした。


 料理が届くと、さっき薫くんが言っていた通りに、お互いの料理をひと口サイズに切り分けシェアした。


「んーっ、エビフライ美味しいっ」

「もっと食べる?」

「ううん。大丈夫だよ」

「いいよいいよ。もっと食べな?」

 

 薫くんはそう言って、またエビフライを切り分けて、私のお皿に乗せていた。私も同じようにハンバーグを切り分け、薫くんのお皿に乗せた。


 結局ひと口では済まず、気がつけば私たちは、お互いの料理をシェアし合っていた。


「……葵ちゃん……」

「はい」

「体調が良い日も、院長と同じベッドで寝てるの?」


 ……そう聞いてくるってことは、親と一緒に寝ることは、“普通”のことじゃないってことなのかな……。


 でも……私にはパパと一緒に寝る理由はちゃんとあるし……。


「うん。一度ひどく体調を崩してから、そうなってる」

「でもそれって最近のことなんだよね?」


 そう……だな……。


「変……?」

「ん?」

「親と一緒に寝ることって、変なことなの?」


 私がそう質問をすると、薫くんは黙ってしまった。


 私は、何か変なのかな……。


 親と一緒に寝るのって、そんなに変なのかな……?


 でも大家族なんかは、みんなで寝てたりするよね?だから別に変なことではないよね?


「……ううん。ごめんね。ただ聞いてみただけなんだ」


 なんだろう。この違和感は……。


 薫くんは何か考え込んでいるようだった。


 でも……雫ちゃんは普通だって言ってたし……。


 そのあとはまた、薫くんは普通になり、このあと何をするかの話なんかをしていた。


 食事も終わり、食後のドリンクを楽しんでいると、薫くんは小さい紙袋を手渡してきた。


「なに?」

「開けてみて」


 その袋を見てみると、私がさっき買おうか悩んでいたイヤリングが入っていた。


「これ……」

「うん。さっき似合ってたから。あと僕が可愛いと思ったのも買っちゃった」


 ひとつひとつ取り出してみると、袋の中には3つのイヤリングが入っていた。


「少し早いけど、僕からのクリスマスプレゼント」


 今回、私が入ったアクセサリーショップは300円ショップではない。ひとつ1500円以上はするお店だった。なのに3つも……。


「私……何も……」

「僕が葵ちゃんに似合うと思って、勝手にしたことだから」

「……でも……」

「迷惑……だったかな……」


 私はどうやってお返しをすれば……


「もしかしてまた、“お返し”のこと考えてる?」


 薫くんは、しっかりと私を見てそう言った。


「前に僕、言ったよね?そんなふうに考えないでって。僕は葵ちゃんが楽しそうにしていたり、笑っているだけでいいんだから」

「なんでそんなに……」

 

 私が呟くようにそう言うと、薫くんはただ優しく微笑むだけで、何も言わなかった。


 洋食屋さんを出ると、ゲームセンターへと向かい、薫くんはクレーンゲームで猫のぬいぐるみを獲ってくれた。ぎゅっと抱きしめられるくらいの大きなぬいぐるみ。柔らかい生地で、くたっとするような、抱き心地のいいぬいぐるみ……。


 家に帰ったら、これに少しだけ香水を吹きかけてみようかな……。


 そうしたら、薫くんとハグをしているように感じるかもしれない。


 私は密かに、そんなことを思っていた。


 ──その時の私は、まさかそのぬいぐるみが、私の一番大切な宝物になるなんて思ってもいなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。