28 恋人同士に見えるかな?
街に着き、電車を降りると、薫くんはすぐに手を握ってくれた。
平日なのに人で溢れかえっている。
街中は……クリスマス一色だった。木には電飾がつけられ、どこからともなくクリスマスソングが流れている。
心が躍る……。
なにこれ……。
すっごく楽しい。
イルミネーションが見られないのは残念だけど、それでも私はしっかりと“クリスマス”を実感し、それと同時に、薫くんと恋人同士になれたような気がして浮かれていた。
「ふふっ。どうしたの?さっきからニコニコしてるよ?」
こんなの、顔に出ちゃうよ。
「ふふっ、楽しいっ」
「まだ何もしてないのに?」
薫くんは微笑みながらそう返した。
「私だけ……?」
「ん?」
「こんなに楽しいって思ってるの、私だけ?」
子どもっぽいって思われたかな……?
ただ街に来ただけで、こんなに浮かれてることに。
「そんなに楽しいの?」
薫くんは私の質問に答えてくれなかった。その代わり、少しからかうようにそう言ってきた。
「……楽しい……」
やっぱり……子どもだって思ったのかな。
すると薫くんは私の顔を覗き込み、優しく微笑んだ。
「僕もすっごく楽しいよっ」
今日も晴れていて、空は青かった。
それも相まって、薫くんの笑顔が、とても眩しく見えた。
今日は薫くんと会ってから、ずっとドキドキしたり、キュンとしたり、胸が締めつけられたりしっぱなしだ。
心臓がずっと忙しい……。
「先に院長のプレゼント買いに行く?」
「うん。付き合ってくれてありがとね」
薫くんとの時間を確保するために、先にパパのプレゼントを買うことにした。買う物はおおかた決めていた。
私はネットで調べていた、百貨店のテナントに入っているお店へと向かった。そこはちょっといい文具が揃えられている文具店だ。
パパには少し、良いボールペンをプレゼントしようと思っていた。
パパは毎日仕事でボールペンを使う。メモを取ったり、患者さんに説明をするときなどに使用している。だからボールペンがいいかな、と思った。
お店に着くと、私は思わず声を漏らした。
「すごい……」
文具店は好きだけど、私が好きなのはカラフルだったり、ポップなものが置いてある文具店だ。
でもここは全てがシックで、本革の手帳、万年筆やインク、ノート、ボールペン、ペンケース。全てが“大人”な感じがして、どれも高級感があった。
あ……あった。ネットで見たボールペン。
早速試し書きをしてみると、とても滑らかで書きやすかった。色を選び、替えの芯も手に取ると、早速レジへ向かい、プレゼント用に包装してもらった。
「決めるの早かったね」
「うん。薫くんとの時間を少しでも長くしたくて、ネットで予め探して決めてたの」
薫くんは立ち止まると、私の顔をじっと見つめた。
周りには人がたくさんいるのに、ここの空気だけが変わったような気がした。静かになった。
薫くんは私の腕を引っ張り、人が少ないところに連れてきた。
「薫くん?」
私は引っ張られていたから、薫くんの一歩後ろにいて、顔を見ることはできなかった。
薫くんはそのまま立ち止まったけど、何も言わなかった。
私はもう一度、薫くんの名前を呼んだ。
すると……
薫くんは急に振り向き、抱きしめてきた。
「……もう……可愛すぎる……」
……。
「ありがとね。僕のために時間を作ってくれて」
薫くんからは、私がさっきつけてもらった香水と同じ匂いがした……。
でも……私の匂いとは、少し違うように感じた。
体温や時間なんかで、香り方が変わると何かで見たことがあるけど、それなのかな。自分の匂いよりも、薫くんが身に纏っている香水の方が、いい匂いに感じた。
「葵ちゃん?」
「……ごめん……薫くんから、いい匂いがしたから……」
「ふふっ。同じ香水だよ?」
「でも私となんか違う……」
「……僕も……葵ちゃんの匂いの方が好き」
それを聞いて、またドキッとしてしまった。
「ありがとう。今日は楽しもうね」
「うん……ずっと楽しみにしてた……」
少しだけそうやってハグをすると、また手を繋ぎ、私たちはショッピングビルへと向かった。
洋服を見たり、アクセサリーなんかも見て回った。パパからは、私の買い物をしてもいいと言われていたから、薫くんに何着か選んでもらい、それを買った。
ただ買い物をしているだけなのに、こんなに楽しいだなんて……。
パパと買い物をしている時とは、全然違った。
雑貨屋では、“これかわいいね”、“これ面白いね”なんて言い合い、お互いに笑っていた。
「葵ちゃん、飲み物を買ってくるから、ちょっとここで待ってて?あそこにベンチがあるから、座って待ってて?」
薫くんはそう言うと、私から離れた。
ベンチに座り、周りを見てみると、カップルらしき人が目に入った。
あれ……
前まではあんなに羨ましいと思っていたカップルたち……。
今はそれを見ても、そんな気持ちにはならなかった。
なんならそんなカップルの姿を微笑ましくも思った。
私たちも……周りからはそんなふうに見えてるのかな?
だといいな……。
しばらくすると、薫くんが戻ってきた。
私はてっきり、自販機で飲み物を買いに行ったんだと思っていたけど、薫くんはフルーツジュース屋さんで買ってきたようだった。
「はい。ミックスフルーツジュース。葵ちゃん、果物好きだったよね?」
「うん。ありがとう」
私たちは、そのままベンチでジュースを飲みながら休憩をすると、またおしゃべりを楽しんだ。薫くんが買ってきてくれたジュースは小さいサイズだったから、それを飲み終わると、また色々とお店を回った。
気がつけば13時になっていた。私たちは少し遅めの昼食を取るために、今いるビルから出て行った。




