↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お薬飲もうね─ 父の狂った愛と、優しい彼の本音─  作者: ことりおと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/92

27 香り


 朝から私は慌てていた。


 パパを送り出したあと、時間を確認しながらメイクをしたり、髪を巻いたりしていた。服はもう決めていたから、それで悩む必要はない。


 でも……今日はなんだか気合いを入れたかった。


 いつもとは違うデートだから……。


 いつもよりも長い時間、薫くんと一緒にいられるから……。


 それでも夕方には解散しないとなんだけど。


 だから私にとって、勝手に今日は“特別”だと思っていた。


 メイクやヘアセットを済ませると、ワンピースに身を包み、この前とは違うイヤリングを着けた。

 

 鏡の前に立ち、全身を確認する。


 前を見て、横を見て、体を捻り後ろ姿も確認した。


 あ……そうだ。


 私は手鏡を用意すると、合わせ鏡をして、後ろ姿や、髪型を確認した。


 大丈夫かな……変じゃないかな……?


 また時計を確認すると、あと10分で家を出ないといけない時間に迫っていた。

 バッグの中身も、昨日のうちにすでに準備していた。もう一度確認する。


 コンパクトミラー、メイク直し用のリップやパウダー、ポケットティッシュ、パパから貰った少しの現金と、いつものクレカが入ったお財布、スマホ。


 それから、薫くんからもらったタオルハンカチ……。


 よし。大丈夫。


 私はコートを羽織ると、早速家を出て、駅へと向かった。


 ああ……楽しみだな……。


 早く会いたいな。


 頭の中は、薫くんでいっぱいだった。


 今日は電車移動だから、私たちは私の最寄駅で待ち合わせをしていた。


 駅に着くと、すでに薫くんがいた。


 私の姿に気がつくと、薫くんは優しく微笑み、駆け寄ってくれた。


「お待たせ」

「僕もさっき着いたところだから」


 あれ……?


 薫くんから、いい匂いがする……。


「……いい匂い……」

「本当?そう思う?」


 思う……。


 私たちは駅に向かいながら話していた。


「この匂い好き?」

「香水?」

「うん。あまり強くないやつ。近づいた時にふわっと香る程度の」


 確かに、嫌な感じは全然しない。


「それでどう?この匂い好き?」

「うん。すごくいい匂い。好きな香り」


 私がそう言うと、薫くんは嬉しそうにしていた。


 改札を抜け、ホームで電車を待つ。


「あのね……今から僕、もしかしたらすごく気持ち悪いことを言うかもしれない」


 気持ち悪いこと?


「なに?」


 薫くんは小さいバッグから何かを取り出すと、私に差し出した。


「これ……」


 小さい瓶……。


 薫くんはその瓶の蓋を開けると、私の手を取り、手首にシュッと吹きかけた。


 その瞬間、薫くんと同じ匂いがした。


 それは試供品の香水だった。


「あっ、ごめん。勝手に吹きかけちゃって」


 私は両手首を擦り合わせ、香水を馴染ませると、鼻に近づけ匂いを嗅いだ。


 薫くんと……同じ匂いだ……。


 胸の奥がトクンとした。


 なに……


 この気持ち……。


「本当にごめん。嫌だったよね?今からトイレに行こう?洗えばちゃんと匂いは落ちるから」


 少し焦ったような薫くんが、私の顔を覗き込みながらそう言った。


「ううん……嬉しい……」

「……本当?」

「うん……」

「これあげる。今度は本品を買ってくるから、もらってくれる?」

「なんで……?」


 すると、薫くんは少し照れながら話してくれた。


「匂いってさ、すごく記憶との結びつきが強いんだ。僕たち、あまり会えないでしょ?だからこうやって会ってる時は、同じ匂いを共有するのはどうかなって思ったんだ。そうすれば、会えなくても、この匂いを嗅げば、すぐに今日のこととか、僕のことを……って……やっぱり僕、気持ち悪いこと言ってるよね……」


 なにそれステキ……。


 それを聞いた瞬間、今日嗅いだばかりのこの匂いは、すぐに“薫くんの匂い”になった。


「嬉しい」

「本当に?無理してない?」

「してない」

「僕が勝手に選んじゃったけど、本当にいい匂いって思う?」

「思うよ」


 そこで薫くんは、やっと安心したような顔をした。


「ごめんね。また僕、ひとりで色々と先走っちゃった」


 そんなことを話していると、電車がきた。


 平日だったから、そこまで電車内は混んでなく、二人で座ることができた。


 お互いからふわっと同じ匂いが香ってくる。


 なにこれ……すごく幸せな気分になる……。


「仕事中はもちろん、香水なんてつけることはできないから、アトマイザーに移して、持ち歩こうと思ってるんだ」

「アトマイザー?」


 すると薫くんはスマホを取り出し、画像を見せながら説明してくれた。どうやら小瓶なんかに香水を移し替えて、持ち運べる物のようだった。


「私もそうしたい」

「わかった。それじゃあ可愛い物がないか、ネットで探しておくね」


 なんだろう……頭がクラクラする……。


 それはめまいからくるものではない。気持ちからくるもの……。


 好きが……


 加速する……。


 まだ街にも着いていないのに、今が今日の最高潮なんじゃないかと思った。


 それほど、私は舞い上がっていた。


 今までこんなふうな幸せを感じたことはなかった。私が今まで感じていた幸せは、とても穏やかなものだった。


 こんなに胸が締めつけられるような幸せは……


 初めてだった……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。