25 ドキドキとバクバク
少し早く図書館を出たから、約束の時間の、10分前には待ち合わせ場所に着いてしまった。
スマホで時間をチラチラと確認するも、なかなか時間は進まなかった。
早く来ないかな……。
また時間を確認する。
よし。あと5分。
もしかしたら薫くんも少し早く来るかもしれないと思って、周りを見渡しながら待っていた。
今日はいつもとは違い、駅で待ち合わせだ。
駅前だから人通りが多く、そんな中、必死で薫くんの姿を探していた。今日は仕事帰りで電車だと言っていたから、あの改札から出てくるはずなんだけど……
あ……
見つけた。
私は薫くんに駆け寄った。
「ごめんね?待たせちゃった?」
「ううんっ。そんなことないよっ」
「ならよかった」
薫くんは優しく笑いかけてくれた。
「……」
「どうしたの?」
「……今日はイヤリングをしてるんだね。すごく似合ってる。可愛いよ」
顔が……熱くなる……。
でも……
イヤリング、買ってよかった。
薫くんは私の手を取ると、ゆっくりと歩き始めた。
「あっちに河川敷があるから、今日はそこをゆっくりと散歩しようか」
「うんっ」
私たちは河川敷に向かった。
歩きながら色々と話した。
薫くんが好きな食べ物を聞いたり、好きなお菓子を聞いてみたり……。
そうやってお互いに質問をし合った。
楽しい……。
河川敷に着くと、二人で川を眺めた。
たまに魚が跳ねて、それを指差しながら話していた。
「最近、体調良さそうだね」
「うん。薬がちゃんと効いてるのかも」
「……そっか。よかったね」
「そのおかげで、今日はこうやって薫くんに会えた」
「うん。そうだね。会えると思ってなかったから、急にご褒美を貰えたような感覚だよ」
穏やかに笑いながら薫くんはそう言った。
「ご褒美?」
「そ。葵ちゃんに会えたことが、僕にとってはご褒美」
それを聞いて、私は咄嗟に俯いた。
きっと今……顔が赤くなってる。
そんな私の顔を、薫くんは覗き込んできた。
「……可愛い……照れてるの?」
一瞬だけ薫くんと目を合わせると、また足元を見ながら静かに頷いた。
「……じゃあ……こうしたら、僕はもう葵ちゃんの顔は見えないから」
そう言ったかと思うと、薫くんは後ろからそっと、抱きしめてくれた。
ドキドキする……。
だけど……
すごく安心する……。
「何か不安なことはない?大丈夫?」
「……大丈夫」
「よかった。落ち込んだりもしてない?」
「うん。それも大丈夫」
落ち込むどころか、舞い上がってるよ……。
周りにはチラホラと、私たちのように散歩をしている人がいるはずなのに、今のこの時間、ここにはたった二人きりしか存在していないかのように思った。
「今日も空……キレイだよ?」
私がそう言うと、薫くんはさっきよりも私のことを抱きしめた。
「……それ……僕のことからかってる?」
「ふふっ。違うよ。本当に青くてキレイなんだよ」
後ろで、薫くんが空を見上げているような気配を感じた。
「うん。本当だね。キレイな青空だ」
そうやって、しばらく二人で空を眺めていた。
すると……薫くんは私を抱きしめたまま、後ろから顔を覗き込むようにしてきた。私も薫くんの方を見た。
……近い……。
薫くんの顔を、こんな近い距離で見るのは初めてだった。
「……また照れてる」
私は恥ずかしくて、やっぱり俯いてしまった。
そのあとはまた手を繋ぎ、ゆっくりと河川敷を歩いた。
気がつけば、薫くんと合流してから2時間が経とうとしていた。
「そろそろ帰ろうか」
「うん……」
「寂しくなっちゃうね」
「……うん。寂しい」
「でも来月の5日は会えるから、またドライブしようね?」
「うんっ」
駅で解散し、また図書館に向かおうと思ったけど、もう勉強する気にはなれなかった。だからそのままスーパーへ向かうと、食材を購入して家へと帰った。
自分の部屋の机に、教科書やノートを広げるも、やっぱり何も手につかなかった。
思い出しただけでも、またドキドキとしてしまう。
こんなに胸の奥が温かくなるだなんて……
私はずっとイスに座りながら、ボーッと薫くんのことを考えていた。
気がつけば、日は傾いていた。
一体私は、何時間こうしていたんだろう。
急いで1階に下りると、夜ごはんの支度をした。
夜になり、パパが帰ってくると、すぐに私の両肩を掴み、少し屈んで目線を合わせてきた。
パパは……あの目をしていた……。
なに……?
「今日はどこに行ってたの?」
もしかして……薫くんとのこと……バレた?
「葵?どこに行ってたの?」
「図書館……」
「本当に?さっき雫ちゃんに会ったんだけど、雫ちゃんも今日のお昼過ぎに図書館に行ったんだって。だからパパね、“葵もいたでしょ?”って聞いたら、“いなかった”って雫ちゃん言ってたよ?」
うそ……。
「……勉強してたら……シャー芯がなくなっちゃって、買いに行ったんだけど……」
「それで?」
「……あまりにも天気が良かったから……そのまま散歩しちゃった。それで……」
「……」
「……そのあとは、スーパーに寄ってから帰ってきた……」
私がそう言うと、パパはすぐにいつもの優しい顔に戻った。
「そっか。今日は風もなくて、過ごしやすかったもんね。たまには葵も運動が必要だしね」
「うん……」
「でも、もし少しでもめまいがしたら、無理して帰ってこようとせず、その場でしゃがんで、落ち着くのを待つんだよ?」
「はい」
「それでも落ち着かなかったら、パパに電話して?」
「わかった……」
どうやら……信じてもらえたようだった。
心臓が、バクバクとして苦しかった。




