24 きっと私の勘違い
こんなハンカチ1枚で、パパが違和感を覚えるだなんて思っていなかった。
迂闊だった……。
私には友達なんていない。雫ちゃんから貰ったと言ったら、きっとパパは雫ちゃんにお礼を言うからバレてしまう。
「ねぇ葵、このハンカチどうしたの?」
「……この前……お化粧品を買った時に……ノベルティで貰ったの……」
お願い……
それで納得して……。
化粧品は本当に買っていた。
だからクレカの明細を見ればわかるはず。
以前、3千円以上の買い物をした時に、試供品のパックを貰ったことがあったから、咄嗟にそう言ってしまった。
「へー。今はこんなにいいものが貰えるんだね」
「……なんか、今回はランダムだったみたいで、ハンカチの他にも試供品とか、ポケットティッシュなんかもあったみたい」
私はあることないことを、ペラペラと話していた。
「じゃあこれを引き当てた葵は、運が良かったんだね。このハンカチ、すごく葵っぽいよ」
……よかった……。
どうやら信じてもらえたようだった。
今までにもパパと洋服を買いに行った時、ノベルティを貰ったことがあったから、すんなりと信じてくれたようだった。
「クリスマスプレゼント、何が欲しい?」
パパは洗濯物を干しながらそう聞いてきた。
「なにもないよ?この前洋服と、アクセサリーも買ってもらったし」
私は初めてイヤリングを数点買った。この前電車で見た女の子のピアスが可愛かったから、それを真似したんだ。別にジュエリーショップで買ったものではない。300円ショップに売っていたものをいくつか買ってもらった。
次に薫くんと会う時に、着けてみようかな……。
そんなことを考えていると、思わず顔がニヤけてしまった。
「どうしたの?そんなにニヤけちゃって」
あー……
私のばかばか……。
「クリスマスに作るケーキ、上手くいけばいいなって……」
「ははっ。葵が作るケーキはいつも美味しいから大丈夫だよ」
それを聞いて嬉しくなった。
いつか……
薫くんのために作りたいな……。
「チキンも焼くからね」
「うん。楽しみにしてる。それにしても葵は、どんどんと料理の腕を上げているね」
「本当?」
「いつも美味しいよ」
パパは優しく笑ってそう言った。
あ……
私が好きな、パパの顔だ……。
こんな顔をされると、今まで感じてきた怖さが、全部私の勘違いだったような気がしてしまう。
そうだよね?いつだってパパは私のことを思って優しいもん。
私が勝手に、色々と悪い方向に考えちゃってるんだ。
薫くんとのことだってそう。あんなに向き合ってくれようとしてたのに、私は勝手に迷惑だと思い込んで、逃げようとした。
きっと、色々と不安に思うことが多くて、何でも悪い方へ考える癖がついちゃったんだ。
『次に会えるのは来月かな』
来月……
今はお昼で、薫くんとメッセージのやり取りをしていた。
来月のいつだろう……初めの方なのか、中旬なのか、それとも月末なのか……それで随分と変わってくる。
今はまだ、11月の中旬だから、少なくとも2週間以上は会えないのか……。
そんなことを考え、返信をしないでいると、追加でメッセージがきた。
『今電話できる?』
私はそれを見て、すぐに通話ボタンにタッチした。今はリビングにいる。パパが帰ってきても、すぐに気づくことができる。
「もしもし」
『……やっぱり癒される。葵ちゃんの声』
私も……
癒される……というよりは……
「私は安心する……」
『ははっ、本当に?嬉しいな。来月の5日、休みなんだ。少しでも会えたらいいんだけど、どうかな?』
5日か。よかった。思ったよりも早く会えそう。
「会いたい」
『うん。僕も』
こんな感じで、今日は薫くんの声を聞くことができた。
しばらく会話を重ねたあとで、私は自分のクローゼットを開けると、まだ2週間以上も先の話なのに、ワンピースを選び、それからこの前買ったイヤリングも選んだ。
「うん。この組み合わせにしよう」
当日の服装が決まると、私はエアコンを稼働させ、机に向かい、教科書とノートを広げた。
ワクワクしていたものの、今日は勉強が捗りそうだった。
よくわからないところは動画投稿サイトで、参考になりそうな動画を探して見て、それでも理解しきれないものは、今度雫ちゃんに教えてもらおうと、教科書に印をつけた。
集中力が切れるたびに休憩を挟み、その時は薫くんのことばかり考えていた。
ある日、図書館で勉強をしたくなり、朝食の時にパパに伝えた。
「うん。わかった。気をつけて行ってくるんだよ?」
「うん。帰りにスーパー寄ってから帰るね」
パパを見送ると、私もすぐに支度をし……
あ……
この前買ったイヤリング、着けてみようかな。
シンプルなものも買ったから、今日みたいなラフな格好でも似合うよね?
私は早速、そのイヤリングを手に取ると、耳に着けてみた。
「うん。なかなかいいじゃん」
教科書やノートをリュックにまとめると、家を出て図書館へと向かった。
そうだ。シャー芯がもう残り少ないんだった。先に買っておこう。
文房具屋に寄ると、さっそくシャー芯を買い、図書館へ向かった。机に教科書やノートを広げ、勉強をしているとスマホが震えた。
薫くんからだ。
『ちょっと色々と予定が変わって、さっき仕事が終わったんだけど、今日少し外に出られる?』
その文字を見て、思わず口元が緩んでしまった。返事を入力していると、追加でまたメッセージが届いた。
『ごめん。先走った。体調はどう?』
もう……本当に優しいな……。
『今図書館で勉強中だよ。いつもの待ち合わせ場所でいい?』
『本当に?タイミングよかったね。今日は電車だから駅で。20分後には着くから、そんな感じでもいい?』
『うん。大丈夫』
嬉しいな。まさか今日、会えるだなんて思ってもみなかった。
天気もいいし、お散歩するのもいいな。
机の上を片付けると、すぐに図書館を出て、待ち合わせ場所へと向かった。
空を見上げると、雲ひとつない青空で、乾燥した空気がより空の青さを際立たせているように感じた。
こうやって空を見るたびに思い出す。
“僕たち今、同じ空を見てるよ”
薫くんも今、こっちに向かいながら、こうやって空を眺めていたらいいな。




