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お薬飲もうね─ 父の狂った愛と、優しい彼の本音─  作者: ことりおと


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23 上書きしたくない


 パパに怪しまれないように、早めに解散すると、スーパーに寄ってから家へと帰った。


 今日はいいことがたくさんあったな……。


 薫くんには会えたし、照れた顔も見れた。


 それに……抱きしめてもらえた……。


 薫くんの体温を思い出して、またドキドキとしてきたのを感じた。


 それから……


 このハンカチ……。


 薫くんから初めてもらったプレゼント……。


 嬉しい……。


 私のために選んでくれたハンカチ。


 しばらくは会えなくても我慢ができそうだな。


 キッチンに立ち、夜ごはんの支度をする。


 あ……今日……全然勉強してない……。パパになんて言おう……。


 しばらくするとパパは帰ってきて、すぐに私に近づいてきた。


 ハグをされる……。


 私はそれを、咄嗟に避けてしまった。


「……葵……?」


 ……どうしよう……なんで私今……パパのことを避けるようなことを……


「……ごめん……料理に夢中で……パパに気が付かなくて、びっくりしちゃった……」

「ははっ。ごめんごめん。驚かせちゃったね。ほら、ただいまのハグ」


 パパはそう言って、私のことをハグした。


 嫌だ……。


 私はそう感じてしまった。


 なんで……?なんでそう感じちゃうの?


「……今日もお疲れさま」

「うん。すぐに手を洗ってくるね」


 ……。


 薫くんの温もりが、消えてしまいそうで嫌なんだ……。


 薫くんの温もりが、パパで上書きされてしまいそうで嫌なんだ……。


 私は必死に薫くんの温もり、それから笑顔を思い出した。すると徐々に気持ちが落ち着いてきた。かと思えば、また顔がにやけてそうになった。


「今日は何かいいことでもあった?」

「うん。今日はね、まだ先の話なんだけど、クリスマスケーキのいいレシピを見つけたんだ。だから勉強ができなかったの……ごめんなさい……」


 ……こんなにペラペラと嘘を……。


「葵が楽しい1日になったなら、別にいいよ」

「ありがと。あとね、今日鶏肉が安かったの。あと卵も」

「そっか。いい買い物ができてよかったね」

「うんっ」


 私は……いつからこんな子になっちゃったんだろう……。


 罪悪感は……


 前ほどなかった。

 

 罪悪感よりも、薫くんとのこの関係を守ることの方がとても大事で、嘘をつくことを、前ほど気にならなくなっていた。


「ごはんを食べ終わったら、2階で勉強するね」


 薫くんと、メッセージのやり取りがしたくてそう言った。


「今日はもういいよ。葵は別に、大学に行くわけじゃないんだから、一般的な勉強だけ身につけていればいいんだよ?それより今日は一緒にお風呂に入ろうか」


 ……え……?


「今夜は冷えるから、二人でゆっくりと話しながら湯船に浸かろう?」

「……」


 嫌……。


 空気が……重い……。


 嫌なのに……断れない……。


「ね?」

「……」

「葵」

「……はい……」




 


 あれから数日が経った。


 しばらくは薫くんに会えなくても大丈夫だなんて思っていたけど、それは逆だった。


 “会いたい”気持ちに拍車がかかってしまった。


 自分がどんどんと欲張りになっていることに気がついた。

 

 なんで……?この前あんなに幸せだったでしょ?幸せの貯金はたくさん貯まったでしょ?


 なのになんで?


 会いたい……。


 もっと一緒にいたい……。


 お昼になり、メッセージアプリを開くと何を送ろうか考えていた。


 “今日も頑張ってね”?

 “寒いから体調に気をつけてね”?

 

 “会いたいな“……?


 どうしよう……なんて送ろう……


 そう考えていると、薫くんからメッセージがきた。また前のように、すぐに既読がつけてしまった。


『今日は朝、寝坊しちゃって連絡ができなかった。具合はどう?』


 するとすかさず、追加でメッセージが届いた。


『葵ちゃんも、今何か送ろうとしてくれてたの?』


 確か前にもこんなことがあったな……。


 私はすぐに返信をした。


『なんて送ろうか考えてた』

『そっか。嬉しいな。それで?体調はどう?』

『大丈夫』

『ならよかった。この前会ったばかりなのに、もう葵ちゃんに会いたくなってる』


 薫くんも……?


 私は胸元の服を握り込んだ。薫くんからそう言われて、胸がきゅっとしたからだ。


『私だけかと思ってた』

『ん?葵ちゃんも、僕に会いたいって思ってくれてたの?』

『うん。会いたい』


 よかった……素直に言えた。


 でも……薫くんからの返事がなかなかこなかった。


 ……休憩中に呼び出しでもあったのかな?


 少し残念に思いながら、私は机に広げていた教科書とノートに目を落とし、勉強の続きを始めた。


 お昼はすでに済ませていた。


 あ……そっか。薫くんは今、お昼を食べているのかもしれない。


 そう思っていると、スマホが震えた。


『そんな可愛いこと言わないでよ』


 え……?可愛い……?


『嬉しくなっちゃって、ニヤニヤが止まらない』


 続いてそうメッセージがきた。


 嬉しい……?


『僕も葵ちゃんに会いたい』


 私はスマホを胸に当てた。


 ……幸せ……。


『嬉しい』

『うん。僕も嬉しい。来年の4月から、また違う病院で研修が始まるんだ。そこの病院だと、今よりも時間が取れると思う』

『本当?』


 来年の4月……。


 そうしたらもっと薫くんと一緒に過ごせる……?


『もっと会えるようになるの?』

『なるよ』


 こんな感じで、私たちは少しだけ甘いやり取りをしていた。


 もう……胸がいっぱいだ……。





 パパの病院が休みの日。


 朝から洗濯物を干していたパパから話しかけられた。


「葵。これどうしたの?」


 ソファに座っていた私は振り向き、パパの方を見た。


 パパの手には……


 薫くんから貰ったタオルハンカチが握られていた──


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