17 強張る体
薫くんと解散したあと、私は下着屋さんに行き、色々と手に取り見ていた。
“そんな日”はきっとこないと思いながらも、私は大人っぽい下着を選んでいた。
さっき見た女の人……薫くんの同期の……。あの人なら、こんなのを選ぶのかな…?
でも私はどちらかというと子どもっぽいし、これはセクシーすぎるな。
たくさんある下着の中から、大人っぽいけど私らしいものを3着ほど選ぶと、それをレジに持って行った。
帰ったらすぐにお弁当箱を洗って、いつものところに戻さないと……。
それに……せっかく薫くんに手当してもらったけど、絆創膏や膝に当ててもらったガーゼなんかも捨てないとだな。家にあるもので手当てし直さないと、パパに怪しまれる。
家に着くと、さっき考えていたことを全て実行し、夜ごはんを作ってパパの帰りを待っていた。
パパは帰ってくると、すぐに私のケガに気がついた。
「どうしたの?そのケガ」
「足がもつれて転んじゃった」
「パパによく見せてごらん?」
ソファに促され、そこに座ると、目の前で膝立ちをしているパパに両手を見せた。パパはさっき貼ったばかりの絆創膏を剥がすと、消毒をしてから新しい絆創膏を貼ってくれた。
「他は?手だけ?ケガしたのは」
「膝も擦りむいちゃった」
「パパに見せて?」
私は部屋着のズボンをめくり上げようとした。
「ズボン脱いで?」
「え……」
「いいから早くズボンを脱いで?ちゃんと見たいから」
パパがそう言うから、私は従った。
膝の絆創膏も剥がされ、パパは状態をじっくりと見ていた。
「これは痛かったね。しばらくは跡が残っちゃうかもしれないけど、葵はまだ若いから、ちゃんとキレイに戻ると思うよ?」
「よかったぁ」
パパはさっきと同じように処置をしてくれた。
「他には?」
「他は大丈夫」
「打撲の跡がないか確認するから、全部服を脱いで?」
……え……?
「服、全部脱いで?」
「大丈夫だよ?他はどこもケガしてないよ?」
「いいから脱ぎなさい」
パパは……“あの目”をしていた。
その目で見られると、私の体は強張る。
言うこと……聞かなきゃ……。
胸がザワザワとして気持ちが悪い。
私は言う通りにトップスも脱いだ。
「さっきパパ、“全部”って言ったよね?下着もだよ、葵」
「……」
「葵」
「……はい……」
立ち上がると、震える手で下着も脱いだ。
私は恥ずかしくて、ずっと俯いていた。
「前は大丈夫そうだね。アザもできてない。今度は後ろを向いて?」
「……はい……」
「……こっちも大丈夫。ちゃんとキレイなままだよ」
すると後ろで気配を感じたと思ったら、ハグをされた。
背中がゾワゾワとした。
気持ち悪い……。
……怖い。
体はさっきよりも強張っていた。
「よかった。酷いケガをしてなくて。跡が残るようなケガじゃなくて」
「うん……手当……ありがとう」
「当たり前でしょ?葵はパパの大事な娘なんだから。もう服を着てもいいよ。風邪ひいちゃったら大変だもんね」
パパはそう言いながら、私から離れた。
ダイニングテーブルに食事を用意し、二人で食べ始めるも、料理はなかなか喉を通らなかった。
さっきの……恐怖感……のようなものが、まだ残っていた。
大丈夫。
裸を見られたのは別にさっきが初めてではないし、ハグも普通のこと。家族なんだから、別におかしいわけじゃない。
なのになんで私は……あんなふうに感じちゃうんだろう。
パパのことは大好きなのに……。
「葵?具合悪いの?」
「……そうみたい。ちょっと疲れちゃったのかも。今日はもう、これ以上は食べられない。もう寝てもいい?」
「いいよ」
「……今日は……2階でひとりで寝てもいい?」
「具合が悪いなら尚更だめだよ。パパのベッドで寝なさい」
「……はい……」
私は言う通りにした。
本当は薫くんに連絡をしたかった。薫くんとメッセージのやり取りをして、自分の気持ちを落ち着かせたかった。
薫くん……。
この日はなかなか眠れなかった。胸のざわつきがいつまで経っても残り続けた。
パパが寝る時間になり、ベッドに入り込んでくると、胸のざわつきはさらに大きくなり、体に力が入るのを感じた。
パパなのに……なんで……?
なんでこんなに……。
次の日、いつも通りパパを見送ると、私はすぐにスマホを手に取り、薫くんにメッセージを送った。なんてことのない、いつもの文章。
お昼になるとその返事がきた。何回かやり取りをしていると、無性に薫くんの声が聞きたくなった。
だけど……もしかしたらあのキレイな女の人とお昼を食べているかもしれないし……。
『今日の具合はどう?』
『大丈夫だよ』
『よかった。安心した』
声……聞きたい……。
私も安心したい……。
そう思ってると、勝手に涙が出てきた。
なんか最近、泣いてばかりな気がする。
今電話なんてしたら、また薫くんに心配かけちゃうな。
『いつも気にかけてくれて、ありがとね』
『僕が勝手に心配してるだけだから、気にしないで?』
薫くんのやさしさに触れ、さらに涙があふれ出してしまった。
私が返事に困っていると……
『葵ちゃんの声、聞きたいな』
時間を確認する。
もしかしたらパパが帰ってきちゃうかもしれない。昨日、具合が悪いと言ってしまったから。
『ごめんなさい。もしかしたらパパが帰ってくるかもしれないから』
『少しだけ。それもだめかな?葵ちゃんに“午後も頑張ってね”って言ってもらいたい。それを聞いたらすぐに切るから』
そんなことを言われてしまったら……
私は急いで自分の部屋に向かうと、ベッドに向かい、布団を頭から被った。それからすぐに薫くんに電話をかけた。
でも……私は自分が泣いていることを忘れてしまっていた。
『ありがとう。電話くれて』
薫くんはすぐに電話に出てくれた。
だけど声を出せない。きっと泣いていることがバレてしまう。
「…っ…」
『……泣いてるの?』
どうしよう……
やっぱり話せない。
その時──
階段を上ってくる足音が聞こえてきた。
パパだ。
「午後も…っ…がんばってね」
『えっ、ちょっ、葵ちゃ──』
私はそれだけを言うと、薫くんが話している最中に電話を切り、折り返しがこないように機内モードにした。
ドアがノックされる。
「葵?勉強中?」
「ううん。横になってた」
「入るぞ?」
泣いてる理由……なんて言おう……。
部屋に入ってきたパパは、私の顔を覗き込んだ。
「どうした?泣くほど具合が悪いのか?」
とても心配そうな顔をしていた。
「……怖い夢……見ちゃったから……」
パパはベッドの淵に座り、私の頭を撫でていた。
「具合が悪い時は、そういう夢を見がちだよな。大丈夫だよ。葵にはパパがいるから」
「うん……」
「パパが葵のことをちゃんと守ってあげるから」
「うん……」
「お昼は?もう食べた?」
「……食欲ない……」
「確か桃の缶詰があったから、それなら食べられる?」
「うん……」
「じゃあ、今用意してくるからね」
もう……
気持ちがぐちゃぐちゃだ。




