↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お薬飲もうね─ 父の狂った愛と、優しい彼の本音─  作者: ことりおと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/96

15 ハグ


 私は薬を入手したことで、また薫くんに会うことができた。


 それは薫くんの車の中で渡した。


「これ……一度掃除機の中に入っちゃったんだけど、大丈夫ですか?埃は払ったんだけど……」

「うん。十分だよ。大丈夫」


 薫くんは優しく笑っていた。


 それからアクセルを踏み、車を走らせた。


「体調はどう?」


 その言葉を聞いて、心が沈んだ。


 私は周りの人に、心配をかけたくない。迷惑をかけたくない。


「ん?どうしたの?」


 こんなにウジウジとしている自分は嫌だった。


 薫くんから離れたい気持ちと、このまま一緒にいたい気持ちが半々だった。


 だから……


 私はその気持ちを正直に話してみることにした。


「……また……僕のことを避けようとしてたの?」


 車内に薫くんの冷たい声が響いた。


 私はその言葉に頷いた。


「はぁ……僕はさ、院長にはまだ程遠いけど、これでも医者の卵なんだよ?葵ちゃんのことを心配したとしても、それを疎ましいだなんて思わない」


 ……もう……そういうこと言わないでよ。勘違いしちゃう。


 すると薫くんは私の左手を握ってきた。

 

「ね?僕は葵ちゃんのことを助けたい」

「……ありがと……」


 今はそれを言うだけで精一杯だった。


 海岸通りを走っていた車は、砂浜近くの駐車場へと入っていった。今日は近くの海に行く予定だった。


 季節はもうすっかりと秋になり、過ごしやすくなっていた。


 手を繋ぎながら、ゆっくりと砂浜を散歩する。 


 穏やかな波の音が耳に届く。


 あ……綺麗な貝殻……


 私はそれを拾った。今日の思い出になるかも……。


 そう思ってると、隣の薫くんも屈んで何かを拾っていた。


「見て?シーグラス。はい、あげる」


 私はそれを受け取ると、太陽の光にかざして見た。


 キレイ……。


 私はお返しに、さっき拾った貝殻を薫くんに渡した。すると……薫くんは柔らかく笑い「ありがとう」と言いながら受け取ってくれた。


 ……。


 こんなもの……男の人がもらったって嬉しくないはずなのに……。


「葵ちゃん?」

「別にいいのに……」

「なにが?」

「こんな貝殻……もらっても別に嬉しくないでしょ?」


 私はその場でしゃがみ込み、膝を抱えた。


 あんなこと言いたくなかったのに……。


 どうして言っちゃったんだろう。


 すると薫くんは、私の肩を抱くようにした。


「なんでそう思うの?僕は本当に嬉しいよ?この貝殻を見るたびに、今日のことを思い出すんだから」

「……ごめんなさい。私……お金持ってないから、こんなものしかあげられない。いつも奢ってもらってるのに……」


 バイトをしたくてもこんな体じゃ働けない。


 秀でた才能もないから、それで稼ぐこともできない。


 私は結局……パパに養われながら生きていくしか方法はないんだ。


 恋もできない。結婚もできない。


 こんな私は……お荷物でしかないんだ……。


「そんなことないよ?僕は葵ちゃんとのこの時間がすごく楽しいよ?」


 気がつけばまた……涙が溢れていた。


 なんで……?


 泣きたくなんてないのに。


 なんで涙が出てくるの?


 私は薫くんから離れ、立ち上がった。


「……っ…… 私は……」


 生きたいように生きられないことが……辛い……。


 みんなと同じように生きられないのが辛い……。


 こんな守られるだけの人生が……


 辛い……。


 今までの“鬱憤”が溢れだしてきた。


 今までずっと……心の奥深くにしまい込んできた感情……。


「私はっ……もっと普通に薫くんと出会いたかった……」


 私がそう呟くと、薫くんは後ろから強く抱きしめてくれた。


「……僕は……そう思わない」

「……」

「僕はどんな葵ちゃんだって構わない。どんな葵ちゃんだって、出会えたことには変わりない。出会えたことに意味があるんだよ?」


 パパにハグをされるのとは違って、すごく心地がよかった。


 普通のこと……と、自分に言い聞かせてはいたものの、パパからのハグは、やっぱり違和感を覚えていた。


 だけど……


 薫くんからのハグ……


 これはすごく心地よく感じてしまった。


「葵ちゃんは……そうは思わない?」


 私は後ろを振り向き、薫くんのことを抱きしめた。


 秋の砂浜を散歩している家族の声が聞こえる。


 波が砂浜を打ちつける音が聞こえる。


 薫くんの……


 体温が伝わる。

 

 薫くんの……


 息遣いを感じる……。


 好き……。


 薫くんはさっきと変わらず、ぎゅっと力強く私のことを抱きしめてくれた。


「葵ちゃんは?そう思わない?」


 薫くんはもう一度そう言った。


「……思う……」

「……うん……僕もそう思う……」


 心臓はもう……


 爆発しそうだった……。

 


 

「最近、図書館に行くこと多くない?」


 家に帰り、パパと夜ごはんを食べている時に、そう聞かれた。


 ここ最近、薫くんに会うことが増えたから、その口実に“図書館”というワードをよく使っていた。


「えっとね……」


 パパは探るような目をしていた。


「……図書館で勉強してると……学校で勉強してるみたいな感覚になるの……」

「……」

「図書館だと周りに人がいるでしょ?だから……その……擬似体験ができるというか……」

「……やっぱり高校行きたかった?」


 あ……パパを困らせちゃう……。


「ううん。大丈夫。変なこと言ってごめん」


 いつから……こんなに嘘をつけるようになったんだろう……。


 パパの少し寂しそうな顔を見て、また罪悪感が積み重なった。


 ごはんを食べ終わると、私はいつものようにお風呂に入り、湯船に浸かりながら薫くんにメッセージを送った。


『今日は泣いちゃってごめんなさい。でも、あんなふうに言ってもらえて嬉しかった』


 なんて返ってくるかな……?


 返事は5分もかからないうちに返ってきた。


『謝らないで?これからも葵ちゃんが溜め込んでるものを、僕に吐き出して?ちゃんと受け止めるから』


 私はその文字を見て、また涙が込み上げてきてしまった。


 パパ以外に、こんなに深く関わったのは薫くんが初めてだ。雫ちゃんにも色々話してるけど……こんなに心の奥深くまで入り込んできたのは、薫くんが初めてだった。


 そんなことを考えていたら、今日のハグのことを思い出した。


 私……薫くんと……。


 また顔が熱くなるのを感じた。


 私は急に恥ずかしくなり、頭まで湯船に沈んだ。だけどすぐに息苦しくなり、湯船から顔を出すと、大きく空気を吸い込んだ。


 返事しないと……


『ありがとう。薫くんがいてくれてよかった』


 こんな感じでいいかな?


 するとすぐに返事がきた。


『葵ちゃんのことを大切に思ってるのは、院長だけじゃないからね?僕もだからね。だからもっと僕のことを頼って?』


 もう……


 大好き……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。