14 罪悪感
また……体調を崩してしまった。
前と同じだ。めまい……それに体も怠かった。
副作用じゃなかったんだ……。
パパが出していてくれたあのカプセル……あれが原因だったわけじゃないんだ……。
私はベッドで寝込んでいた。しかも風邪もひいてしまったようで、熱も出ている。
今日は病院が休みだから、パパは一日中家にいた。
「葵。缶詰のみかん食べる?」
パパが出してくれる薬が原因で、私は副作用を起こしているかもと疑っていたのに……パパはいつもと変わらず優しかった。
「パパ……」
「ん?」
「ごめんなさい……」
私は罪悪感に押し潰されそうになり、また泣いてしまった。
パパはベッドの淵に座り、私の話をちゃんと聞こうとしてくれた。
「なんで?風邪をひいちゃったのは、葵のせいじゃないよ?」
「違う……めまい……」
「葵……」
「薬……飲まなかったから……」
「うん……そうだね。それで症状が悪化しちゃったのかもね」
やっぱり……。
「ごめんなさい……私……死んじゃう?」
「そんなこと、パパが絶対にさせないから大丈夫だよ」
ごめんなさい……。
きっと……バチが当たったんだ。
パパは私の涙を指で拭った。
「死んじゃうかもって、怖くて泣いてるの?」
「……ううん。飲んだフリをしてたから……」
「もうそれはいいんだよ?今は具合が悪いから、そんなことばかり考えちゃうんだね。もう余計なことは考えずに、ちゃっとゆっくりと休んで?ね?」
「……うん」
こんなんじゃ……やっぱり薫くんには釣り合わないな……。
いつか薫くんにも迷惑をかけてしまう。付き合うとかそんなんじゃなくて、ただ会ってるだけでも、私は迷惑をかけてしまうかもしれない。突然めまいを起こすかもしれない。
でも……
諦めたくない。
デートはたったの数回。
でもやり取りはほぼ毎日している。
これまでそうやって積み上げてきた“好き”の気持ちが、最初よりもかなり大きくなっていた。
……だめだ……。
パパの言う通り、今は何も考えず、とにかくゆっくりと休もう。
そうやって治すことに専念していたのに、私の体調は5日経っても良くはならなかった。
薫くんから毎日連絡はきていたけど、スマホの画面を見るだけで目が回るから、返事をすることはできなかった。
でも、ある日の15時頃にスマホが震えた。
薫くんだ。
しゃべることはできていたから、通話ボタンをスライドした。
『葵ちゃん?また具合が悪くなっちゃったの?』
「ごめん……メッセージ返せなくて……」
『いいよいいよ。目が回って文字が読めないんでしょ?』
「うん……」
私はまだ気持ちが落ち込んでいたことと、ずっと聞きたかった薫くんの声が聞けたことで、泣いてしまった。
『なになに?どうしたの?泣いてるの?』
「……っ……ごめんなさいっ……」
『どうしたの?何かあった?』
薫くんの優しい声が心に沁みた。
会いたい……
でも今は会えない。
だけど……
「……会いたい……」
『……』
……返事がない。
たったそれだけで、私は不安になってしまった。
『……ごめん……』
「……」
ごめん……?
あー……言わなきゃよかった。
『……今葵ちゃん……辛い思いをしてるのに、“会いたい”って言われて、嬉しくなっちゃった』
具合が悪いのに、私の胸は簡単に躍ってしまった。
『僕も葵ちゃんに会いたい』
それを聞いて余計に泣いてしまった。
電話の向こうでは、慌てた薫くんの声が聞こえてきた。それを少しおかしく感じ、私は泣きながら笑ってしまった。
「ふふっ」
『え?なになに?なんで笑ってんの?』
「薫くんが……慌ててたから……」
『もう……僕だって慌てることくらいあるよ。9つも年上だって葵ちゃんは思うかもしれないけど、中身はそんなに大人じゃないんだからね?もちろん大人な人もいっぱいいるけどさ』
「ふふっ」
それを聞いて、私はまた笑ってしまった。
少し落ち着いた頃、私はゆっくりと話し始めた。薫くんは、そんな私の話に耳を傾け、相槌を打ってくれた。
しばらくそうやって会話をしたあと、電話を切った。
具合が悪いのは変わらない。
だけど……
さっきとは違って、心は軽くなった。
その夜、パパが作ってくれたお粥を食べ、薬を飲む時に一錠落としてしまった。
「パパごめん。ひとつ落としちゃった」
その薬は、家具の下に潜り込んでいった。
「本当だ。今用意するからちょっと待っててね」
「ごめんね?」
「気にしないで?」
パパは新しい薬を持ってきて、私はその薬を飲み込んだ。
そのあとパパは掃除機で家具の下に入り込んだ薬を吸い取っていた。
私は……そんなパパの姿をぼんやりと眺めていた。
……。
……さっき私が落とした薬は、新しい薬だ。
もし……パパが掃除機の中身を捨てていなかったら、あの薬を回収して、薫くんに渡せるかもしれない。薫くんは私が何を飲んでいるのか知りたがっていた。もしかしたら、他にも道があるかもと言ってくれていた。
そんなことを考えていると、また頭がクラクラとしてきて、そのまま眠りについた。
結局私が回復したのは具合が悪くなってから10日後のことだった。
その間、ちょこちょこと掃除機の音は聞こえていたけど、私に気を遣ってか、あまり普段通りの掃除はされていないようだった。
元気になった私は、ある日掃除機の中のゴミを漁ってみた。
──あった……。
あの時落とした一錠の薬……。
私はそれを手に取ると、埃を払い、ジップ袋に入れた。




