13 教えて?
どうしよう……
心臓がバクバクとしてるし、頭の中は真っ白になってしまい、何も考えられない。
でも薫くんのことは話せないし、話したくない。
「葵?顔が真っ青だよ?怒らないから本当のことを教えて?」
本当のこと……
私は視線を落とした。
手が……少し震えている……。
どうしよう……。
どうしよう、どうしよう……。
「葵」
「葵」
ずっと同じトーンのパパの声が、部屋に響いた。
「ごめんなさい……」
「どうして飲まなかったの?」
「……」
「葵。ちゃんと話しなさい」
気がついたら私は涙を流していた。
「別にパパ怒ってないから。でも大事なことだから教えて?なんで飲まなかったの?」
「……テレビで……薬の副作用のことを知って……」
「うん。それで?」
「それで……その症状が私と似てて……」
私はいつか見たテレビの話を持ち出した。
手はまだ震えている。
「それで自分もそうかと思ったの?」
「うん」
「だったらなんでパパに相談しなかったの?」
「それは……パパが私のことを思って、お薬を処方してくれてるから……」
「だから?」
「そんなことを言ったら、パパを困らせるかと思って……」
私の心はどんどん重くなっていた。
罪悪感だらけで、涙が止まる様子はなかった。
「葵は優しい子だね。でもね?必要だから飲んでもらってるんだよ?確かに調子はいいかもしれない。でも、検査をしたらどんな結果がでるかはわからないからね?明日診察においで?」
「はい」
そうだよね……。
調子は良くても、体の中では何が起こっているか、わからないもんね。
「……どの薬を飲むと、副作用が出るって気がついたの?」
「カプセルのやつ」
「……なんでそれが副作用の原因だって思ったの?」
薫くんが教えてくれたから……なんて言えない。
「ひとつずつ……試してみようと思って」
まだ……空気が重い。
パパの顔が見られない。
「全部試したの?」
「……ううん。最初に試してみようと思ったのがカプセルで、それで……それを飲まなかったら、体調がよくなってる……気がして……」
「そうだったんだね。てっきり誰かの入れ知恵かと思ったよ。素人の考えは危ないからね。そうしたら、そのカプセルの薬はもうやめよう。他にもあるから、今度はそっちを試してみようか」
私はゆっくりと顔を上げてみた。
それはパパの声が優しかったから。
パパは……いつものやさしい顔をしていた。
その顔を見て、また罪悪感を覚えた。
「ごめんなさい……」
「パパは別に怒ってないよ。ただこれからは、心配ごとがあるなら、必ずパパに相談して?」
「はい」
パパの優しい声で、さらに罪悪感は強くなり、さっきよりも涙があふれて止まらなかった。
次の日、私はパパに診察をしてもらった。
その夜、パパとごはんを食べ終わると、ソファに座りながら話してくれた。
“数値が悪くなっていたよ”……と……。
やっぱり……あれは飲まないといけない薬だったんだ。
それからパパは薬を変えてくれ、3日経ってもめまいなんかは起こさなかった。
どうやら副作用は出ていないようだ。
だとしたら、やっぱりあの薬の副作用だったんじゃ……。
そう思いながらも、私の心の中にはまだ罪悪感はしっかりとあった。
それなのに……
薫くんに会うために、今日も私はパパに嘘をついた。図書館で勉強をしてくると……嘘をついた。
待ち合わせ場所に着くと、すでに薫くんは待っていた。
私は走って駆け寄った。
「ごめんなさい。お待たせしちゃって」
「大丈夫だよ。そんなことより、今日もかわいいね。メイクも服も髪型も、全部かわいいよ」
……そんなストレートに……。
「あ……あの……」
「ん?」
「……薫くんも、かっこいいよ」
「ははっ。本当に?嬉しいな」
薫くんは当たり前のように私の手を取ると、車に向かって歩き出した。
車の中では薫くんの話をを聞いたり、私の話をしたりしていた。
カフェに着き、席に座ると、また他愛もない話をしていた。
このカフェは少しファンシーで、お客さんは女性が多かった。
みんなスマホを手にして、運ばれてきたスイーツやドリンクの写真を撮っていた。
なんでここを選んだのか聞いてみると、薫くんは、私が好きそうだからと言っていた。
そんなことを言われたら……もう……また好きになってしまう。“好き”がどんどんと積み重なっていくのを感じる。
私は届いたドリンクをひと口飲むと、伝え忘れていたことを話した。
「あのね?あのカプセル、薫くんが言う通り、あれで副作用が出てたみたい。だから父がお薬を変えてくれたんだ」
「……え?言ったの?院長に」
薫くんは眉間に皺を寄せていた。
「あ、薫くんの話はしてないですよ?」
「……次の薬はどんなの?」
「白い錠剤」
「錠剤?」
なにか考え込んでいるようで、目の前のコーヒーカップを、薫くんはじっと見ていた。
それから視線を上げ、今度は私のことを見た。
「その錠剤さ、また僕に持ってきてくれないかな?」
「あー……たぶんそれは無理です。飲んでないのがバレちゃって、今はひとつひとつ、ちゃんと飲んでいるのかを確認されてて……」
薫くんは小さく「そっか……」とだけ呟いた。
それから話題は変わった。
「そういえばさ、夜にメッセージのやり取りをすることが多いじゃん?あの時間帯は自分の部屋にいるの?」
私は運ばれたケーキの写真を撮ってから、答えた。
「いえ。お風呂の時です。湯船に浸かっている時」
「……え?」
ケーキから目線を外し、薫くんを見てみると、少しだけ頬を赤くしていた。
どうしたんだろ。
「あっ、違う。いや、ごめん」
薫くんはそんなことを言いながら、少し慌てていた。
「いや違くなくて。ごめん……少しだけ想像しちゃって……」
想像……?
「いやっ、違う違うっ……ごめん……」
私がお風呂だなんて言ったからだ。
「ごめんなさいっ。私が無神経でしたっ。大丈夫ですっ。嘘ですっ。お風呂じゃなくて、自分の部屋ですっ」
「ははっ。今さらそんなバレバレな嘘、つかなくてもいいよ。ごめんね?気を遣わせちゃって」
薫くんは少し照れたような顔をしながら、そう言っていた。
あー……恥ずかしい。
今度は私の顔が赤くなっているんだろうな。




