12 お薬
薫くんから連絡がきた。正確に言うと、私たちは毎日連絡を取り合っていた。今回そう表現したのは、内容が薬のことだったからだ。前に薫くんに渡した薬は、私にとって必要なものらしかった。
その後も私は、パパの目を盗んでは他の種類の薬も一つずつ回収していた。
だけど……
どれも私に必要なものだと薫くんは言っていた。
ただ……
透明のカプセルだけは、隙があれば飲まないでほしいと言われ、私はそれをできるだけ守り、回収するたびに、それを薫くんに渡した。
薫くんが懸念していた、透明のカプセルを飲まないでいると、体調のいい日が続いた。
もしかしたらあの薬で副作用が出ているのかもと、薫くんは言っていた。
副作用……
もし、透明のカプセルを飲まないままでも調子がいいなら、他の薬がちゃんと効いてる証拠だと薫くんは言っていた。だからカプセルは飲まなくてもいいと……。
だから私はその通りにした。
すると本当に体調はいいままだった。
薫くん、すごい……。
ますます惚れてしまいそう……。
パパにはなんて言おう。私のために考えて処方してくれてるのに……。
それに私が副作用に気づくだなんて、不自然すぎるよね?
……このまま飲んだフリを続けていればいっか。
なんだか最近、頭もスッキリしているような気がする。
今日は勉強が捗りそうだ。
私は部屋の机に向き合い、教科書とノートを開いた。
しばらくそうやって勉強をしていると、薫くんからメッセージがきた。『今電話できる?』と。時間を確認すると15時だ。この時間ならパパは診察中だから帰ってはこない。
私は通話ボタンをタッチした。
『よかった。この時間なら電話できると思って』
「嬉しい」
『……嬉しいの?』
また心の声が勝手に出てしまった。
「……」
『葵ちゃん?』
「……何か……用事ですか?」
『嬉しいの?』
聞き流してくれないのか……。
「……嬉しい……です」
『僕も嬉しいよ。別に用事なんてない。ただ葵ちゃんの声が聴きたくなっただけ』
あー……胸が苦しい。
顔が熱い……。
それは残暑のせいじゃない。エアコンもちゃんと稼働して、部屋は涼しい。それなのに……顔はこんなにも熱い。
思わずスマホを持っていない方の手で、頬を包み込んだ。
「私も……薫くんの声が聞きたかった」
『ふふっ。ありがとう。あ、来週の水曜日、僕休みなんだ。だからまた二人で会わない?』
その言葉で、心が躍る。
「会いたい」
『よかった。詳細はまた、あとで連絡するからね』
そうやって電話は終わった。
薫くんは毎日私の体調を心配し、様子を聞いてきた。
優しいな……。
あ……何を着よう。まだ暑いから半袖でもいいもんね。
クローゼットを開けると、色々とワンピースを取り出しては鏡を見ていた。
よし。
これにしよう。
また軽くメイクをして、髪型もちゃんとセットして……。
「ふふっ」
楽しみだな。
次の日、家庭教師の日だったから、ダイニングテーブルに教科書を広げて勉強を教わっていた。
休憩の時間になると、また雫ちゃんと他愛のない話をしていた。
はずなのに……。
話の流れが急に、色っぽいものになっていた。
「葵ちゃんはそういう動画とか見たことある?」
そういう……?
私は首を横に振った。
「……子どもがどうしたらできるかは知ってる?」
「なんとなく……?」
すると雫ちゃんは、スマホで動画を流し始めた。
それはキスから始まり、次第に……
え……こんなことするの……?
え……?なにこの体勢……
うそ……そんなことまで……?
部屋の中は、スマホから流れる女性の艶めかしい声が響いていた。
ドラマなんかで見るようなロマンチックな感じではなく、お互いに激しく求め合っているような、野生的なものを感じた。
初めて見るその行為に、私は目が離せなかった。
世のカップル、夫婦たちはこんなことをしているの?
その時、薫くんの顔が頭に浮かんだ。
もしも薫くんと付き合えたら、私たちもこういうことするの……?
そう思うと顔が熱くなるのを感じた。
「ははっ。葵ちゃん、顔が赤くなってる。ちょっと、刺激が強過ぎたか。ごめんごめん。ま、これも勉強ってことで」
違う……。
赤くなったのは薫くんのことを考えていたから……。
私は来るか来ないかわからない未来を想像して、勝手に恥ずかしくなっていた。
夜になり、パパが帰ってきた。
ご飯の時に、いつも通り色々と話していた。
「今日の勉強はどうだった?」
そう聞かれた瞬間、雫ちゃんから見せられた動画と、薫くんのことを思い出してしまった。
あー……また絶対、顔が赤くなってる……。
「葵?」
「……あのね?……今日雫ちゃんが──」
話しちゃっても、雫ちゃん、怒られたりしないよね?
「ははっ。そっかそっか。葵もまたひとつ大人になったね」
よかった。この様子なら、雫ちゃんは怒られたりしないよね?
親とこんな話をするのは恥ずかしかったから、私はすぐに話題を変えた。パパはご飯を食べ進めながら、楽しそうに私の話を聞いていた。
いつもの優しい笑顔。
だったのに……
急にその顔が変わった。
前にも見たことがある。
目が……
笑ってない。
パパは私の顔をじっと見て、こう言ってきた。
「──お薬、ちゃんと飲んでる?」




