第二話
迂闊だった。
ほんの軽い軽い気持ちで森に入った。
訓練から逃げ出し、擁壁を抜け、以前見つけたあの場所に様子を見に行くつもりで抜け出した。
太い枝を見つけ、木の実を取りおやつ代わりにしてのんびり休憩してたら、何時の間にか下にジャイアントベアーが居た。
どうやら、餌の鹿がこちらへ逃げて来たついでに見つけられたらしい。
下から私を落とすつもりだろう休んでいた木を殴り揺さぶり私を落とそうと必死だ。
多分、人の味を知っているのだろう、そういえば何日か前に商人一家が森近くで襲われて血痕だけが残された事件があったのを思い出した。
完全に迂闊だった、このままだと私は必ず下の奴の餌になる。
バキッ
やられた、向こうの空腹が乗っている枝を超えた。
商人一家を食った以来食べてないのだろうか、それとも只、目の前に美味しそうな餌が居たからだろうか、どちらにしろ私はここのまま落ちて餌にされる。
よいよ、枝が持ちそうにない、しがみつきたいが枝ごと落ちても餌になる、かといって激しくゆすられる木の上で粘れるとも思わないし下手をしたら木の根元から折る勢いでゆすられる。
迷っているうちに足元の感覚がなくなる。
「やばっ」
とうとう枝が折れ私は自分の軽率な行動の後悔と家族の顔を思い浮かべる。
落ちる瞬間、木を蹴って落下位置を何とかずらそうとしたがそこへ下からの一撃を腹部に貰い木にぶつかり意識が朦朧になり、腹部の熱を感じそこからの記憶が無い。
「気が付いたみたいだね」
生きている。ジャイアントベアーに襲われ落下前後の記憶が蘇り慌てて腹部を確認する。
「きてる・・・、生きてる・・・、どうして・・・」
慌てて起きようとすると黒い猫?の手が体に触れたとたん力が抜ける。
「あ、まだ起きちゃだめだよ、血が多く流れたから無理に起きると死んじゃうよ」
白い法衣を着た同じ位の年の少年に諭される。
首を少し起こすとそこは森の中ではなく、街道が見える草原で周りには少年と足元から白いドレイクホースが居る。
「僕はロイ・ザッハ、エルベムに行く途中だったんだけど、君に気が付いて回復とここまで運んで来たんだけど、出来たら名前を教えてくれるかな?」
「ファリン」
「ファリンか、とりあえず回復は掻けてはあるのだけど、瀕死だったからそのまま動かないでね」
「わかりました」
黒い猫がロイのバックから出てきて私の体の上に乗る。
その瞬間、あったはずの不快感が和らぐ。
「そのまま、寝ていてちょっとずつ不快感が和らいで、無くなるはずだから」
一言言うと方丈を両手で立てオドを通すと方丈が青く光り空に向かって光を放つ。
やがて空に向かった光は大きく拡散すると共に爆発音が鳴る。
「信号魔法です、ちょっとしたら警備隊が来ると思います」
ニコリと笑うロイ、ファリンはその顔を見たせいか段々と眠気が襲ってくる・・・。
次にファリンが目を覚ました時は見慣れた天蓋だった。
上半身を起こし、あたりを見回すと何時の間にか着替えさせられている寝間着。
何時も世話をしてくれている侍女が起きた事に気が付き、人を呼びに行く。
「大丈夫ですね、体に傷も以上もありません、ただかなり血を流しているそうなので、2~3日は安静にしてください」
定期的に診察してくれている女医から説明と指示を受け、ベッドに再び体を預ける。
「本当にお前と言うやつは・・・、ロイ殿が通り掛かったから良かったものの、本来なら姿もわからぬ状態で死んでおっても不思議では無かったぞ」
この街を治める叔父様に小言を言われる、言われて反論は出来ない、自分が招いた結果なのは分かっているから。
「申し訳ありません、叔父様、私の考えが足りませんでした」
「これからはしばらく謹慎じゃ、屋敷から出ることは許さんからな」
「わかりました」
そこへ白い法衣を着た少年がノックをして入口で立っている」
「入ってもよろしいですか?」
「入りたまえ」
「ありがとうございます」
法衣を着た少年ロイは私の顔をみて草原で見せた柔らかくニコリとした。
「まだ顔色が良くないですが大丈夫そうですね、助けられて良かったです」
そこへロイのバックから黒猫が私の体に上に乗っかり体を丸め休み始める。
「その人はメア、あなたに興味があるみたいです」
メアと教えられた猫が体の上に乗っているはずなのにあまり重量を感じない。
「どうもあなたの持っているオドが心地よいみたいなのでしばらく休ませてあげても良いですか?」
「わかりました」
そこから2日寝込んだ。
そして気が付くとファリンの上に居たメアは何時の間にか居なくなっていた。
外から剣戟の音が聞こえてくる。
窓からのぞくと少年とエルベム騎士団団長と訓練しているのが見える。
「リンダ、リンダは居るかしら?」
「はい、お嬢様」
奥からファリン付きの侍女リンダが出て来る。
「訓練服を持ってきてもらえる?」
「お嬢様!まだ訓練をするのは無理では・・・」
「大丈夫、見学するだけだから、流石に私も自分の体の事はわかるわ」
「なら、よろしいかと・・・」
剣戟の激しい音がする。
こっそり静かに騎士団の見学者達の裏から忍び寄り、一緒になって見学する。
「やはり、あのライ様のお孫様だけありますね、私もそこそこ出来ると自負していたのですが」
「いやいや、ここの所訓練出来なかったので一杯一杯ですよ」
しゃべりながら少年と騎士団長の訓練というには激しい打ち合いが続く。
団長が盾と片手剣で少年との距離を詰めようとするが少年が使うツヴァイヘンダーがその領域への侵入へ入ることを許さない。
じりじりとにじり寄る、盾を前面にだしそれまでの最速で詰める団長。
少年はツヴァイヘンダーの柄の根元で盾を薙ぎ払い、リカッソに持ち替え低く回転させて団長に襲い掛かるが間髪でそれを団長が防ぐ。
「そこまで!」
エルベム卿が声をあげ止める。
両者が模造刀を治め、健闘を称える握手をする。
ロイが団長に回復魔術を施行する。
「しかし、ロイ殿は騎士でもやっていけるだけの実力を持ってまな」
「いやいや、あくまで身を守る為の剣術です、私は聖職者ですよ、殺生は出来ません」
「実に惜しいですな、聖職者で無く、騎士を目指していたならこの街に、いや、この国の第二近衛兵団長が出来てたでしょうな」
「褒めていただいてありがとうございます」
ファリンがそこへ顔を出す。
「あなたすごいのね」
「体は動けるようになりましたか?」
「あなたのおかげで、散歩は出来るようになったわ」
「それは良かったですね、まだ1週間は激しい運動は避けてくださいね」
ファリンがロイに話しかける顔を見て何かを感じるエルベム卿。
「ファリン、お主、ちょっと手合わせしたかっただろ」
ドキッとするファリン。
「だって、叔父様、あんなの見たら私だってしたくなるわよ」
「わからんではないが、回復してもファリンでは相手にならないぞ」
「どうして?」
「わしと決着がつかなかったロイ殿とお主がやってもお主が負けるだけだろ」
ありえないとい顔をするファリン。
「叔父様と決着がつかないって、最低でも近衛兵団長クラスじゃない、どうなってるの?」
「私は祖父の言いつけでそうなってしまったんですよね・・・」
「にしても聖職者が剣で近衛兵クラスって・・・、ありえない・・・」
突然笑いだすエルベム卿。
「はははっ、無理も無いわあのライの孫だっていうじゃないか、それ位出来て当然じゃな」
「いえ、ただの聖職者ですよ聖職者」
「いや、ただの聖職者がツヴァイヘンダーもっておじ様と対等に戦える時点でもう聖職者超えてるから」




