二幕 2
陣幕から少し先に広い競技場が作られていて、その周囲上空にさっきまで私がいた八咫烏の観客席が見えた。
競技場の周りもぐるりと観客席になっていて、熱狂した観客の声が聞こえる。
陣幕から競技場までは、体格の良い天衛がずらっと並んで立ち入り禁止にしているため見通しが良い。
恐る恐る奥に目を向けると、肩で息をした笹音さんと月宗様が見えた。
「——————っつ!!!」
笹音さんは腕から血を流しているし、月宗さまは額からの流血で片目が効かないようだった。
思わず駆け寄ると、後ろにいたはずの光久さんがストンと空から降りてきて立ちはだかる。
「姫様、ここは危のうございます。ご覧になるのなら八咫烏の主賓観覧席に参りましょう」
「っ…………!お願い、ここにいさせて下さい!これ以上、近づきませんから!」
「……………………雲雀、涼風がまた眠りそうです。当てにせずに防御陣を組みつつ全方位の警戒を」
「承知」
私の後ろの雲雀君が刀を抜いて腰を落とした。
光久さんごしに月宗様を祈る思いで見つめる。
凄く苦しそう。
それは笹音さんもなんだけれど、組み合った力が拮抗して弾け、お互いが疲弊して行く。
笹音さんが大きな妖力波を出し、月宗様が刀で受け止める。
力が大き過ぎて月宗様の体にどんどん傷がついていく。
妖力波を力でねじ伏せ、こちらに飛んだ力を雲雀君が刀で叩き落とした。
「~~~~っ!~~~~~っ!」
溢れた涙で前がぼやけていく。
見えない事が不安で一生懸命ぬぐうけれど後から後から邪魔な涙が止まらない。
月宗様が羽根を出して斬り込んでいき、笹音さんが妖力の壁で応戦する。
刀の周りに氷の刃を出し壁を無理やりこじ開けた月宗様が笹音さんに一撃を叩き込む。
笹音さんの狩衣に血が滲んでいき、ずるりと片膝をついた。
月宗様がその首へ刀を叩き込もうとしたその時、割れんばかりの銅鑼の音が響き刀が止まる。
月宗様は冷めた目で舌打ちをして刀を納めた。
観客の野次の声が飛ぶ。
皆、決着が付くと思ったのだろう。
その場から動かない笹音さんが片手を床に付き苦しそうに喘ぐ。
「妖力は私の方が上。お前はもう既に妖力は尽きているはず。天は妖狐の里に味方されている!」
肩で息をした笹音さんが月宗様に言う。
「妖力なんか関係ねぇよ、実力だろ。お前が弱いだけだ」
「は!私の妖力波を喰らってフラフラのくせによく言う。」
その時、妖狐の里の観客席から悲鳴が上がった。
「キャーー!?やだっ!!何なの!!!」
見ると桜子が身体を隠して座り込んでいて、彼女のドレスがぼんやりと霧散していき下着がチラチラと見え隠れしている。
382天衛が自分の羽織をぬいで桜子にかけ、彼女を連れて下がっていった。
「惚れた女にまやかし与えて喜んでんじゃねぇよ」
月宗様が静かに言う。
「惚れ…………?馬鹿か。我ら眷属、花嫁にそのような感情はもたぬ」
月宗様はそれを無視して私に視線を向けた。
そのままこちらに静かに歩いてくる。
お互いの陣営華が咲き、会場からまた大きな野次が飛んだ。
そんな声も全く気にならないのか、真っ直ぐ私を見る彼から目を離せない。
光久さんの後ろから飛び出して彼の元に転がるように走るとすぐに抱き上げてくれた。
血の匂い。
閉じたままの片目。
全身の傷。
「月宗さま!月宗さま!!」
「わり、引き分けた」
「ゔぇ、ゔわぁああん」
私を運びながらポンポンと背中を優しく叩いてくれる彼は傷だらけで。
何も言えない。
私との未来のために命をかけてくれている。
私を抱き上げる力がいつもより弱く安定しない。
きっと月宗様は限界を超えてる。
宗主として膝をつく所を見せまいと虚勢を張っているだけで。
陣幕の入り口布を持ち上げて待つ光久さんに「構うな」と一声かけて中に入った。




