俺の花嫁 月宗SIDE
————「ママの踊りが見られなくなっちゃったから悲しいお顔なの?」
————「じゃあゆいがいっぱい練習してお兄ちゃんに踊り見せてあげるね!次遊ぶ時のお約束!」
あの時の、あのガキの時の約束。
結衣の演舞に神々の観覧席から花弁と紙吹雪が舞い、観客席がどよめいている。
妖狐の里の貴賓席で立ち上がり唇を噛む桜子と、主賓席で唖然とする悠貴を認めて苦笑する。
「月宗、けしかけた俺たちが言うのも何だが、結衣ちゃんは一気に桜子ちゃんを超えたぞ。妖狐と狛犬の当主の顔を見ろ。あれは見惚れて時が止まってるぞ」
夜臣が他族の観覧席を見やりながら言う。
笹音の呆気に取られた顔と、天道寺の惚けた様な表情に腹が立つ。
「ご宗主殿、ゆめゆめ花嫁様を手放す事のございませんよう」
「時雨殿、掌返しが過ぎますやろ。しかし可愛らしい子ぉやなぁ。雲雀に欲しいぐらいやわ。ご宗主が負けはったら是非ともうちに嫁いでほしいわ。無理やろか?」
時雨のセリフに文影が軽口を叩く。
この一瞬でうるさい三柱共を全て掌握した結衣は、獅子丸の背に乗りこちらに向かってくる。俺の元に。
会場中が俺の至宝に見惚れている事に苛つきながら、自分も結衣から目が離せない事実に苦笑する。
「月宗さま!」
天女かと見紛うほどの俺の宝が観覧席上空に現れる。手すりに足をかけて羽根を出すと、するりと俺の腕の中におさまった。
「見ていてくれた?」
「ああ、天女かと思った。あの時の約束を覚えていたのか」
「月宗様のお母様の舞衣装をお借りしたの。勝手にごめんね」
「いい。全て宗主の花嫁である結衣のものだ。」
「ふふ、桜子には負けちゃうかもだけど、見ていてくれたなら、よかった。」
何も気が付いていない結衣に神楽殿の方を見せるが、まだキョトンとした表情で俺を見る。
「 禍ツ魂はお前が還した」
「還す?」
「もういないだろ。俺たちは何もしていない。結衣が舞い始めてすぐに浄化され天に還された」
パチパチと瞬いて神楽殿を見る最愛にキスを落としていく。
「みんな見てるよ……?」
「見せてんだよ!!!!!!お前これ被ってろ!!!!」
羽織を脱いで頭から被せると、羽織の中で涼風とクスクスと笑い合う。
その時会場がどっと沸いたかと思ったら、ザワザワとした喧騒が広がった。
「月宗!陣営華!!」
神による勝敗の審査結果を表す華が八咫烏側と妖狐側に咲き、引き分けの結果に会場中が不信の声を上げる。
結衣の舞は俺たち眷属神には癒しになる。神々ならなおさら。桜子のような祓いなど、俺達は皆できるのだから。
誰もが……結衣以外は皆、結衣の勝利を疑わなかったにもかかわらず、神々は引き分けを下した。
「どう見ても、お姫さんの方がお見事やった思いますけどねぇ。それでも引き分けにしはるんやなんて……まぁ、よう出来たお裁きどすなぁ。神さんも二幕三幕期待してはったんやろなぁ。ここで終わってしもたら、面白うおへんのやろ」
「父上、不敬やろ。……けどまぁ、勝負ついてても終わらせへんのやから、よっぽど退屈してはるんやろ。人生暇なんやろ、あの人ら」
「雲雀さん!!オブラート!!」
当の結衣は俺の腕の中で首に腕を回し抱きついてくる。
「あれ…………?負けたんじゃないの??」
「ああ。誰もが結衣の勝ちだと思ったぐらいだぞ?引き分けた」
「わぁ!!涼風やったねぇ!!」
俺の肩に移動した涼風と俺越しに手を握り合う結衣は無邪気に喜んでいる。
「月宗、お前結衣ちゃんのおかげで首の皮一枚つながったな」
「ご宗主殿、負けはゆるされません」
「負けはったら、雲雀のお嫁にきてくれんかなぁ。無理やろか」
ごちゃごちゃとうるさい三柱共を目線で黙らせていると、光久がそばで跪く。
「月宗様、二幕のご用意を。姫様は四つ守にお任せ下さい」
「ああ。結衣、ここで待ってろ」
なぜか首に回る腕がさらに深くなる。
「結衣?どうした……?」
引き分けと聞きほっとしたのか、微かに震える結衣を抱え直す。
「結衣はこのまま陣幕に連れて行く。四つ守は全員結衣の守りに付け。八咫烏の宝に、誰も近づけるな」
「「「「 承知 」」」」




