私の神事 2
神楽殿に到着すると、奥の角に2体の禍ツ魂が光る鎖に繋がれているのが見えた。
人の形をした何か。
黒くて表情もなく、片方は半身だけの姿で、もう片方は手や足のパーツが多いので何人もの魂なのだと分かる。
それを無視して舞台中央に立つとシャランと美しい鈴の音が響き、禍ツ魂を拘束していた鎖が粉々に砕けた。
「涼風、静止陣でいいよ」
獅子丸に乗った涼風がはーいと手を挙げる。途端に2体の 禍ツ魂がガクンととまった。
「ありがとう」
空に浮いた神々の観覧席へ一礼し、静かに息を整える。
扇を掲げ、足を運ぶ。
神楽殿の空気は澄みきっていて、布の擦れる音さえよく響いた。
ひと呼吸の静寂。
次の瞬間、笛の澄んだ一音が空気を細く裂いた。
それに応えるように太鼓が低く拍を刻み、鈴の音がさらりと重なる。
神楽の楽が、ゆるやかに流れ始めた。
腕を開きくるりと身を巡らせる。
床につくほど長く仕立てられた袖がふわりと広がり、空をなぞるように弧を描く。
扇に結ばれた珊瑚とリボンが遅れて舞い上がり、私の周りをやわらかく漂う。
その瞬間きらりと金の光が散った。
最初は灯りの反射かと思った。
けれどもう一度回ると、袖の軌跡に沿うように細かな光がほどけていく。
涼風が楽しそうに手を叩くのを目の端にとらえながら、指の先まで意識する。
金の粒はふわりと宙に浮かび、私の周りで静かに瞬く。
「綺麗……」
思わず胸が弾む。あの人も見てくれているだろうか。
足を運ぶたび、袖を翻すたびに、金の光は細かな星のようにほどけていく。
それが楽しくて、もう一度もう一度と身を巡らせた。
鈴の音が軽やかに響く。
金のきらめきが舞に引かれるように広がり、会場全体の空気まで輝いて見えた。
楽師たちがこちらを見ているその目には驚きが浮かんでいた。
それでも演奏は止まらない。
太鼓は拍を刻み、笛は澄んだ音を伸ばし続ける。
気づけば周りは静まり返っていた。
観覧席は誰一人として声を上げない。
ただ息を呑む気配だけが、静かな波のように広がっていく。
その視線を感じながら涼風が楽しそうに空中に出す青く光る魔法陣を踏み、空を階段の様に上がって行く。
円を描くように巡らされた青い魔法陣を舞いながら踏み上がって行く。金の光が花びらのようにふわりと散り、下に落ちていく。
なぜか自動車ほどに大きな姿に変化した獅子丸が、その頭にちょこんと涼風をのせて空の上まで私を迎えに上がってくる。
その背にふわりと舞い降りて、なおも扇を振る。獅子丸の背の上で、珊瑚と絹のリボンがふわりと円を描くたびに金の光が会場中に落ちて行く。
白い毛並みは月の光のように淡く、黄金の粒がその背にまで降り積もっては消えていくのを涼風が楽しそうに見ている。
私はその広い背の上に立ち、扇を胸の前でそっと閉じた。
鈴がひとつ、澄んだ音を残す。
太鼓が低く響き、笛の音が空へ溶けていった。
神楽殿は、しんと静まり返る。
私の腕の中にスポンとおさまった涼風を抱きしめて、空に浮かぶ神々の観覧席へ向かい静かに一礼した。
「ありがとう、涼風。大好き」
スリっとおでこ同士をくっつけて二人で笑い合う。
次の瞬間、わっと歓声が上がった。
拍手が重なり、神楽殿の空気が一気に熱を帯びる。
楽師たちでさえ、演奏を終えた手を止めたまま驚いた顔でこちらを見ている。
「月宗様の所に、かえろう」
「ちゅきむね」
獅子丸が心得たように動き出す。
広い背中に涼風を抱いたまま座ると、ふわふわの毛が暖かかった。




