↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
眷属神の花嫁  作者: 雨香
第二章 お見合い編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

92/106

私の神事 1 月宗SIDE


 時雨(しぐれ)と話をしたと報告を受けた日から結衣は茶室に籠るようになった。


涼風(すずかぜ)とレレしか中に入れず一日中籠る。


 一華祭(いっかさい)の概要が見えてきて、結衣を守る為に動かざるを得ず、なかなか二人の時間が取れずに歯痒かったが結衣は特段気にした風はなく、毎日茶室に入る。


祭りは夜から始まる。

祭当日の今日すら朝から茶室に籠り、俺達を寄せ付けない。


「結衣、時間だ、出るぞ」


「あ!若!もう少しかかるんで先に行ってください!後から涼風(すずかぜ)に送ってもらいますから!」


中からレレの声がして、まだ支度に時間がかかるという。

不安で泣いてやしないかと、甘やかしてやりたいのに当の本人が出てこない。


「月宗様、共同開催者として妖狐(ようこ)との最終打ち合わせがあります。ここは先に出ましょう」


「ああ……」


涼風(すずかぜ)が付いております。負けなどどうという事もございません。第一天衛(てんえい)涼風(すずかぜ)がいれば怪我などあり得ません」


「……そうだな」


 祭で花嫁が怪我をしたらたまらないと、天衛(てんえい)の共闘を天に掛け合った。

天衛(てんえい)の働きは花嫁の審査に影響しないという事で妖狐(ようこ)側からも天からも諾の返事を得ることができた。


涼風(すずかぜ)さえいれば何の問題もない。

怪我なく俺の元に帰ってくるならばそれだけで。

あとは俺が結果を出せばいい。




◇◆◇




 神々が神域を用意し、何百という天衛(てんえい)が警護に立っている。上空に布天幕が張られた観客席があり、沢山の神々の気配が感じられる。


驚いたのは悠貴が貴賓席にいた事で、花嫁のために作らせた2つの神楽殿(かぐらでん)をにこにこと興味深そうに眺める姿がここから見える。

これも桜子が天に奏上したのだろう。

人間というのは臆面もなく神に頼み事をする唯一の種族だと思う。


俺達からすれば恐れ多いという些細なことまで神域に願いに来る。

頭が良くなりますように、学府に合格しますように、恋人ができますように。

神の魂を頂いて生を受けておきながら、小さな事で神を頼りにやって来る。


神も、俺たち眷属(けんぞく)も結局は人間が可愛いのだ。

無垢な魂は悪にも善にもなる。

分け与えた魂を何輪廻も繰り返し繰り返して磨き上げていく。


 ざわざわとした観客席の声が止み、神楽殿(かぐらでん)に巫女装束の桜子が上がったのがわかった。


放たれた 禍ツ魂(まがつたま)を次々と祓っていく。


よほど自信があるのか、予定していた下級の 禍ツ魂(まがつたま)ではなく中級を難なく祓い、八咫烏(やたがらす)の剣士ですら数人がかりで祓う上級の 禍ツ魂(まがつたま)をやや苦戦しながらも見事に祓った。


会場中が割れんばかりの歓声につつまれる。


 本当に力のある花嫁だと思う。

今回は部外者になった狛犬の次期宗主も複雑な表情で見学している。


「姫様の神楽殿(かぐらでん)に用意された 禍ツ魂(まがつたま)は予定通り下級の物でした。ご安心を。————しかし、姫様がまだ……」


「怖がった結衣が来れなくとも問題はない。不戦敗なら無駄に怖い思いをさせずに済む」


 その時眷属(けんぞく)神の観客席がザワザワとわき、本殿の外廊下を執事のじじいの先導で結衣が歩いてくるのが見えた。


並んだ全ての天衛(てんえい)が結衣の抱く涼風(すずかぜ)に頭を下げて行く。

レレが後ろに付き、結衣の長い袖とショールを持って歩く。


「——————っ………」


 舞巫女の衣装を身にまとう結衣は神々しいほどで、静かに前を向く美しい(かんばせ)から目が離せない。


神楽殿(かぐらでん)に繋がる太鼓橋前に慌てて移転し結衣の手を取るとふんわりと笑いかけてくる。


「月宗様、あのときの約束を、覚えてる?見ていてね」


「約束?結衣?」


それだけ言うと美しい俺の花嫁は帯から胡桃(くるみ)の紅を取り出した。


真剣な顔で紅を開け、華奢な小指で蕾のような唇に色をつける。

ガキの頃の、精一杯の花嫁へのプレゼント。


「っ……結衣」


ここ最近姿を見せなかった類が飛んできて結衣の前に人化(じんか)して(ひざまず)く。


「姫様。神楽(かぐら)の者ども、すでに揃っております」


「ありがとう類君、大変だったでしょう。楽師(がくし)の方達にも、予行もなく本番で申し訳なく思いますと伝えてくれる?」


「承知」

深く頭を下げてから神楽殿(かぐらでん)のわきにかけて行く。


ひな壇として一段用意された場所に、見知った様な顔が並ぶ。


八咫烏(やたがらす)の……神事楽師…………?」

光久が呆気にとられた顔をして彼らを見る。


「母上の……専属だった者達だ。結衣、何を……」


「月宗さま、行ってくるね」


既に神楽殿(かぐらでん)の方をむいた結衣の覚悟を決めた顔に言葉が出ない。


謎の合図で獅子丸を呼んだ涼風(すずかぜ)が結衣の腕から離れその背に乗った。


「お嬢様、こちらを」


「ありがとう、じいや」


 執事から母御の形見を受け取り歩き出す。

既に舞台から視線が戻らない結衣の背を見送る。


神楽殿(かぐらでん) 禍ツ魂(まがつたま)は合図と共に放たれる。

涼風(すずかぜ)がいればどうという事もないが、当の涼風(すずかぜ)は神事前のワクワク感を隠せていない。


闘いに行くというのに何の警戒もしていない涼風(すずかぜ)に不安がよぎるが、今の二人に声を掛けるのははばかられ、結局言葉を呑み込んだ。


「月宗様、観覧席へ。下がりましょう」


光久の言葉に我に帰り俺は静かに頷いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。