兄弟と姉妹
個室でお話しするのは絶対まずいと夜臣さんが言い張るので、時雨さんの後をついて庭を歩く。
涼風が私の腕のなかではむっと指を咥え、ぶーーと音を出すと獅子丸が矢のようにとんできた。
二人の合図の指笛もどきが可愛くて、少しだけ緊張が解けた。
邪魔にならない程度の距離を空けて雲雀くんが護衛として付いてくる。
うん、非常に喋りづらい。
「私はご宗主や筆頭殿とは近しいのですが、立場上警戒される身なのです。お許しください」
「?えと、はい」
「姫様が幼き頃にお目通りした、耀という者を覚えておられますか?」
「はい……」
耀さんは月宗様が弑した前御宗主さまだ。私も一度会ったことがある。
卵で生まれた子達を無かったことにする為に殺してまわった人。
「私は、耀の伯父なのです」
「あ…………」
悲しそうに笑う時雨さんに、なんと声をかけて良いか分からない。
「耀は私の妹の子でした。何事もそつなくこなす、優等生でした」
うん、そんな感じはした。
優しくて、気配りもできて。
「だからといって左柱が現ご宗主を憎んでいる訳ではないのでご心配めされますな。我らとて、耀を止められなかったのですから」
「はい……」
歩みを止めた時雨さんが私を見る。キリリとしたお顔がふっとやわらぎ、優しい表情になる。
「あなたは、どこか耀に似ておられる」
「え?」
「お悩みは、花嫁のお力の事なのでしょう?」
私と桜子の力の差は周知の事実だ。
今更隠しても仕方がない。
「はい。ご存知の様に私には桜子の様な力はありません。皆さんが桜子を推すのも当然だと思っております」
「耀もそうだったのですよ、私しか知らないでしょうが」
「現ご宗主は…………月宗は皆に好かれる。荒削りだが才能もある。そんな弟がいつの頃からか目の色を変えて死に物狂いで修行をし出した。メキメキと頭角を現していく弟に、耀は焦っていた」
広い池に鯉が跳ね、チャポンと音が響いた。
時雨さんはそちらに視線を移す。
「耀は常に月宗を意識していた。自分にはない底知れぬ才能。鷹揚で誰からも好かれ、知らぬうちに皆が付き従う威光。何もかもが自分よりも秀でている弟に、どうしたら良いか分からずにいた。それでも自分が宗主だと、常に自分に言い聞かせているような」
月宗さまと耀さん、私と桜子。
耀さんみたいな凄い方と同じと言われてもピンとはこないけれど。
「そのうちに耀は不都合な事実を徹底的に隠す事に注力しだしました。自分が月宗を脅威に思っている事も、月宗が自分を超えた実力をつけ始めたことも」
何と答えたらいい?私は何を言うのが正解なのだろう。
後ろで聞いているはずの雲雀君も何も言わない。
「姫様は、耀と同じにならないで頂きたい。私から言わせれば、耀とて青幽の子、常人とは違う才があった。弟の背中ばかりを追わず、自身の道を見つめる覚悟を持って欲しかった」
「わたし、は、…………」
言葉が続かない。
「おいぼれが出過ぎた事を申しました。左柱として花嫁を我が一族に迎える事は望外の喜び。しかしお力の強い花嫁をとご宗主に進言する立場にございます。誰も姫様には言わないでしょうが……あなたはお力を示す必要がある」
「…………はい」
「耀を反面教師になさいませ。私からは、それだけでございます」
時雨さんはそう言って深く一礼し、シュンと消えた。
消えた空間に向かい涼風が手を振っている。
————「聞いたらあかんこと、聞いてしもたわ」
————「同感です」
あれ?奥の木の裏から光久さんが出て来た。
————「お兄さんも、ちょっと受け止めきれないなぁ~」
驚いたことに私のすぐそばでしゃがんで頭を掻いているのは涼さん。
————「びっくりですよね!!まぁ俺もご宗主の時しか四つ守に志願してないっスけど!!」
木の上に沢山のカラスと共にいるのは小四郎君で。
「み、みんないたの?」
「最初っからおったで?左柱のおっさんも気付いてはったし、ジャリ坊も気付いとった」
「涼風がいつこっち来るかヒヤヒヤしました!!!」
既に小四郎君のしゃがんだ枝に飛び込んでいった涼風が、木に止まるカラスの大群を興味深そうに見ている。
「雲雀君は要請があったんじゃない?耀様の四つ守」
しゃがんだままの涼さんが聞く。
「そういえばあったなぁ。仕えるお人は自分で決めます言うたら、親父にぶん殴られましたわ。学府に入る予定やったさかい、卒業してから考えます言うて時間稼いだ気ぃするわ」
「断るとかできるんスか!色々規格外!!!」
「そう言われれば、耀様は三柱出身の者を指名で四つ守にしておりましたね……」
光久さんが言う。
「うちのご宗主は選ぶのがめんどくさいって中々四つ守を編成しないもんだから夜臣殿が志願募ったら溢れる程来たんだよねえ」
「一瞥されただけであっさり選びはって、こっちは選別試合でもするつもりやったさかい拍子抜けしましたわ」
「ねーー?大広間にも入りきらず庭まで溢れてたのに、一瞥しただけで庭の端にいた光久君の所に来られて筆頭に決められたしねぇ」
「セリフもおかしかったですよね!?『光久、頼めるか。残りの四つ守をお前が決めてもいい』って!!アレ、俺痺れましたもん!!一度でいいから言われてみたい!!」
「誕生から生まれなおさんと無理やろ」
「ひどい!!けど俺もそう思います!!!」
「流石に選別はご遠慮させてもらいましたよ」
「俺何で受かったんスかね!?俺より強い奴ゴロゴロいたのに!」
「僕と涼殿選びはって、もう飽きたんやろ」
「ひどい!!!!!」




