相談
花嫁を一人に決める対決は5日後だとかで、あれから月宗様はとても忙しくなってしまった。
特に気負う必要はないと言われたけれど、何とか役に立てないかと考えてしまう。
「ねぇ涼風、私に 禍ツ魂を祓う方法を教えてくれない?」
類君と遊んでいた涼風がキョトンと首を傾げて六尺棒を取り出し、棒先に青く光る魔法陣を出した。うん、無理そう。
「本来花嫁は…………眷属の里に繁栄をもたらすんだよね………………」
そう呟いてふと思い立つ。
彼なら花嫁としてどうしたら良いかを教えてくれるかもしれない。
「類君、夜臣さんの所に、連れて行ってほしい」
◇◆◇
「ん?いらっしゃい、あいにく月宗なら今は一華祭の準備でいないよ?」
決闘でもなく対決でもなく一華祭と名付けられたそれは、花嫁を華に例えて文字通り一つの華を決めるお祭りだ。
神前の決闘や力比べは全て儀式となり、祭となるらしい。
「あの、夜臣さんに、相談があって……」
「俺?一番聞いちゃいけない人じゃないかな?一応三柱筆頭なんだけど……」
月宗様の執務室は大正ロマン風の洋室。
類君に連れてこられた私を迎えたのは夜臣さん一人だった。
「兄様は姫様に酷いことを言わないと類は信じております!」
「ぐっ、曇りなき眼!」
類くんが目を光らせてくれているけれど、すでに涼風が夜臣さんの肩に移動し不思議そうにピアスをつついているのできっと大丈夫だろう。
天衛という花嫁の守りは、涼風が強いので物理的に守るという事だと思い込んでいたけれどきっとそうではない。
私への愛情や思いやりがあればある程涼風は警戒を解き懐く。
愛情の真偽が分からない花嫁の近くに天衛を配置するのはある種の花嫁への配慮なのだろう。
「どの様な形で桜子と競うのでしょうか? 禍ツ魂を二人で倒すとか?」
「いや?何も言及されてないからね、自由だよ。桜子ちゃんは祓いの力を見せるらしいからそうかもね?結衣ちゃんはどうしたい?」
どうしたい?まさか希望を聞かれると思っていなかった。
禍ツ魂を祓う方法ばかり考えてきたから。
「月宗が2回勝てばいいだけだから、結衣ちゃんは気にしなくても大丈夫だよ?」
「それじゃ!それじゃ…………だめなんです……私だって月宗様の隣に立てるようになりたいっ……!!」
じわじわと涙が溢れてきてしまう。
泣くまいと我慢すればするほど鼻の奥がツンとする。
「………………兄様、これ以上姫様を泣かせたら、類と姉様は兄様にお会いしません!!」
「いやまって!?何の拷問!?」
「姫様の為にならない三柱なら無くともよろしゅうございます!!」
「えぇ…………うーん、あいつに会わすか……?月宗には怒られるかも……俺も気が進まない…………」
考え込んだ夜臣さんがしゃがんだところでノックの音が聞こえた。
「ああ入ってくれ。結衣ちゃん、ちょうどいい、紹介する」
静かに入って来たのはグレージュの髪をキッチリと後ろに流したキリッとした男性で、50代ぐらいだろうか、珍しい黒い狩衣を着ている。
「夜臣殿、左柱の剣士配置ですが…………おや、来客中でしたか」
「いや、いい。紹介しようと思っていたところだった。結衣ちゃん、左柱筆頭の左柱時雨殿だ」
「姫様におかれましてはお健やかにお過ごしのご様子、何よりでございます。歓迎の宴席には列しておりましたが姫様に直接お目通りするのはこれが初めてにございますな」
「あ、はい、花柳院結衣と申します。この子は天衛の涼風です」
涼風が私の腕の中から時雨さんをじっと見る。
「結衣ちゃん、時雨殿は左柱筆頭だからね、八咫烏の為にどうあるべきかだけを考える頭でっかちだよ。月宗と俺の師でもあるから安心はしていい」
「言う事を聞かない可愛くない弟子でしたが。私で何かお役に立てるのであればなんなりと」
時雨さんに相談してみろという事?
夜臣さんに相談しようと思っていたのに、左柱筆頭なんて偉い人を紹介されてしまった。
「ちびっ子、俺はまだ仕事があるから雲雀を呼んでくれ」
はーいと手を上げて返事をする涼風の頭を一つ撫でてから、夜臣さんは時雨さんに向き合う。
「月宗の最愛です。師匠、何卒お泣かせする様な事はないようお願い申し上げる」
「今や立場はお前の方が上。命令したらよろしい。わざわざ右柱の小僧などつけおって…………はぁ、それだけご宗主の寵愛が深いという事か…………」
「はい。祓いの花嫁に固執されるのはもうおやめ下さい」
「左柱としてはそうもいかん……が、何かお悩みのご様子、左柱筆頭としてお答えする」
「それでいいです。彼女も、それを望んでいる」
◇◆◇




