当主の力
「結衣、落ち着け」
「だって!!月宗様と離れ離れになるかもしれないのに!」
光久さんがそのまま抱っこして涼風を連れて行ったので、私達二人だけ。
ひょいと抱かれて膝の上に座らされる。
「結衣は気楽にやればいい。お前の力を信じてないわけじゃない。俺は、結衣の力は種類が違うだけだと思っている」
「?」
「気負わなくていいって事だよ。」
「ちゃんとできないよ」
やり方すら、分からないのに。
「ああ」
「本当は、八咫烏には桜子の方がいいって分かってる」
「…………なぜ俺は惚れた女に他の女をすすめられてんの…………傷つくだろ。繊細なんだぞ」
「…………うそばっかり」
「俺は結衣に嘘をついたことなんてないよ」
「…………もううそじゃん」
「信頼ねぇ……なぜなのか……」
不安で仕方ないのにこの時間が心地いいと感じる自分に驚く。一言彼が話すだけで心のざわつきが取れていく様な。
一族のために、力と繁栄の為の嫁取りだというのに、彼の言葉に嘘はない。
「私は負けちゃうもの。そうしたら、悠君の所に行かなきゃいけない」
「させるかよ。あの兄貴の所に返すわけない」
欲しい答えをくれる心地よさに揺蕩ような気持ちになるのに、どうしようもなく怖い気持ちは変わらない。
「笹音さんは、強い?」
当主の力に差は無いと聞いたことがある。
けれどあちらの方が神格が上である事は間違いない。
「やった事ねぇけど、互角ってとこじゃね?」
「互角なのに四つ守さん達も夜臣さんも、なんであんなに余裕そうだったの?」
「心配してもしょうがないからだろ」
私はそんな風に思えない。不安で押しつぶされそうなのに。
「桜子は、私が悠君のところに行っても良いのかな…………」
「あの女の気持ちは分からんが……下位の天衛が涼風の前で嘘はつけない。勝つつもりで挑んできたのなら、自分と同じ地獄に落としたかったのかもな」
好きな人に愛されない地獄?
月宗様じゃなくて他の人なんてもう考えられないのに。
「わた、私は、月宗さまじゃなきゃ、嫌なのに……」
彼の目が細くなって、微かに笑う。
キスの合図があって、抱き寄せられた体が熱い。
「濡羽の花嫁か、上手い事言う」
「里の人達?桜子は、祓の花嫁だったね」
大きな手が私の髪を優しく梳く。
「結衣、これが終わったら、婚約しよう」
「婚約?結婚じゃなくて?」
「ああ。婚約なら、涼風はまだお前のそばにいられる」
「ん……嬉しい……」
「…………………………あーー……わかってねえかもだけどな、花嫁の婚約って俺に抱かれるって事だぞ?」
「そうなの?いいよ?いっつも抱きしめてもらってるし変わらなくない?」
「なるほど……………わかってないという事がよく分かった………………」
なんだろう。経験はないけど月宗様なら嫌ではない。怖くもないし平気なのに。
「すでに我慢できてねぇ俺が言うことでもないけど…………お前もうちょっと可愛い自覚もった方がいいと思う」
「ふふふ、そんなわけないのに」
甘い甘いキスが重なる。
月宗様は私から妖力が入り込んでくると言っていたけれど、私の方にトロトロとした愛情が流れ込んでくる様な。
「お前な!そーいう顔するから俺が我慢できねーんだろ!!俺のせいじゃねえな!!!くそっ!」
「???」
「精神統一だ俺」
「??短き時、婚約を許さずって神様に言われたしね?」
「天からもお預けくらってる俺…………」
なんかよくわかんないけど可哀想になってきたな?
「キスなら、いいんじゃない??」
「ギリギリまで攻めていいって事!?」
「???」




