カラスの里のデート 2
大通りの石畳を月宗様と歩く。
作り込んだ大正ロマン風な街並みはとても美しい。
かんざしのお店を覗いたり、大通りの外席でお茶をしたり。
ここに来るのは桜子の嫁渡り以来だけれど、街の人たちの反応は実にさまざま。
(姫様だ!!可愛い!!!)
(あらあら、御宗主様のあのお顔、信じられないわ?濡羽の花嫁様が本命だって話、本当だったのね!)
(祓の花嫁はどうなったんだ!お戻りにならぬのか!?)
(いやいや、なかなかどうして濡羽の花嫁様もお美しくいらっしゃる。御宗主様のお気持ちはこちらにあるのだろうよ。みろ、あの仲睦まじいご様子)
(何を言うとる、お力のある花嫁を娶るのが御使命。何か取り返す策があられるのだろうよ)
色々な声が聞こえて来る。
この大通りで桜子の嫁渡りがあったのでなおさらなのだろう。
いい声も悪い声も月宗様が黙らせていく。
何か言うわけじゃない。
睨むわけでも妖力を使うわけでもなく、ただスッとそちらを見やる。
ともすれば微笑を浮かべている事すら。
それだけで水を打ったように静けさが訪れる。
威圧ともちがう、それは畏れに似ていながら拒絶を許さぬ静けさだった。
押さえつけられているのではなく、ただ軽々しく言葉を発することが場を汚すように感じてしまう様な。
自然と声は潜み、背筋は伸び、誰もが己の立つ位置を思い出す。
本能的に敬うべき何かがあると悟っていく。
「ウルセェな。見んじゃねぇよ結衣が減るだろ」
「減らないよ?あ、淡雪さんにお土産買っていきたい!ここのお菓子が好きって言ってたから!」
「淡雪を、許してくれるのか」
「許すも何もないよ。悪気があった訳じゃないし」
「俺の恋女房は寛大だな」
《《俺の花嫁》》とは言わない彼の思いに気がついて、顔に熱が集まっていく。
「……………………その顔はダメだろ!お前可愛い自覚あんのか!」
「?」
がばっと抱き上げられて急な移転の妖術にぎゅっと目をつぶる。
「…………月宗様……?」
そっと目を開けるとあたりは野の花の咲いた広い場所で、今は冬なはずなのに春の匂いが鼻をくすぐる。
「わぁ……綺麗……」
大小様々な土地が浮かび、私達の立つ広めの泉に水を落としている。
一つ一つに野の花が咲き、オレンジの花弁が風に揺れている。
「めっちゃ現世に近い位置だけど、うちにもこういう領土はある。広くはないから犬や狐んとこみたいに住んだりは出来んが」
「お城……?」
広い泉の奥に小さな古城が見える。
灰色の石造りで、蔦の絡む素朴な感じの。
「どこかの国の忘れられた古城を移した。結衣にやる」
「ええ…………?流石にちょっと……」
お茶室といい、古城といい、眷属神は不動産を贈るのが好きとか…………?
「あの……!ありがとう、いっぱい。ママの形見も、お茶室も、マリーや図書館の事も……こんなに沢山…………落ち着かないけど、嬉しい」
「物を贈るってのは、俺ら妖の愛情表現だからな。元々獣の血筋なんだ。人とは違う」
「ふぅん?」
「本当はもっと天に近い土地をやりたかったが、うちはここが一番高い。それも100年前と比べてどんどん現世に近くなってる。眷属としてギリギリだからな」
天に近いという事がすごいステータスなのだろうという事は分かってきた。
人間の私にはピンとこないけれど。
手を引かれ古城に入ると中はリゾート風にしつらえてあり、柔らかな風が心地よく部屋に通る。
こちらの使用人は着物ではなく落ち着いたメイド服や執事服で、カラスの里とはまたイメージが違う。
再会した頃、洋風を好む花嫁の為に皆自領に城を建てたと言っていたもんね。
恭の所はそれがそのまま狛犬の文化になっていったのだろう。
「気に入らなければ一から作り直してもいい」
素敵な古城の中はリノベーションされていてすごく新しい。
「そんな訳ない、とっても素敵」
大きなシンデレラ城をもらっても困るし。
古城の周りにも大小さまざまな領土が浮いていて、その中にはガゼボが建てられていたり、彫像や噴水があったりとファンタジー絵画の様。
アンティークのピアノが置かれた部屋で広いソファーに私を抱いたまま座る。
「こっちにも結衣の部屋を作らせてある」
「月宗様と、同じお部屋がいい」
「…………………………………………まずは糖分だな」
テーブルの上にはアフターヌーンティーセットが置かれて、キラキラしたスイーツがおしゃれにタワーとなっている。
一口サイズのケーキをフォークに刺して月宗様のお口に持って行くと嬉しそうにパクつく。
「真っ暗にされたら、ケーキとれないよ?」
「……………………」
黒い羽根が私を覆っていく。
キスの合図の腕が私を抱き寄せて、脳が痺れて溶けてしまう。
いつもより長いキスから解放されたと思ったら、熱い吐息が首元に移動して行く。
シュルシュルと絹の道行襟のコートを脱がされて、体を優しく撫でて行く。
立て矢結びの帯がしっかり締められているのでこれ以上は脱がされることはないと思ったら、合わせの襟元から大きな手が入ってきて困惑する。
「……っあ…………ふ……」
「……………あっッッッッッっっっっぶねーーー!!!!」
「??」
「涼風!すぐ来いっっ!!!!」
「???」
レレさんに抱かれたびしょびしょ裸ん坊の涼風が部屋に現れ、その下方には獅子丸タクシーに乗った類君も頭に?がたくさんついた表情のまま移転させられて来た。
「おわ!?!?こちらにいらっしゃってたんですね!涼風がきな粉まみれになったので丸洗い中でした!!」
「危なかった。涼風、よくやった着替えてこい」
「承知でーす!!」
レレさんに連れられた涼風が私に手を振る。
「ここに涼風の着替えがあるの?」
「お前のもあるよ」
「すごい!お泊まりもできるね!」
「今日していくか」
「ん、涼風と、3人で寝よう?」
「地獄かっ!!!!!!」




