六臣密議
「悠貴殿は現世へ帰られたのですか?」
光久が聞く。
話が尽きないとかで、紫波の邸に入ってもなお喋り続ける結衣達を目の端にとらえながら、シガレットルームで各々葉巻やキセルを吸っている。
「ああ。結衣は臣下の妖の邸で療養していると伝えたらすぐにここに来たがったが……妖の里に一歩でも人間が入れば殺されても文句は言えぬと脅したら大人しく帰った」
「連れてきちゃえば良かったのに!おいちゃんがあらゆる毒を入れてあげたよ!?」
「頭のいい男です。なぜすぐに引き下がったのでしょう……」
紫波親子が言う。
こいつら2人も結衣側の者として信頼が置ける。結衣は自分の味方を自分で引き入れて来る。
「なんか企んでるやろなぁ」
シガレットルームのガラス壁越しにかすみの恋慕の視線が突き刺さっている雲雀は、慣れているのか全く気にするそぶりはない。
「毎回この手でいったらどうスか?」
小四郎が慣れない葉巻に悪戦苦闘しながら言う。
「頻度が多くなれば、今度は姫さんの方をごまかしきれないね~~~」
涼がキセルを咥えたまま喋る。
毎回結衣を避難させるのが得策とも思えない。
「は——…………、なぜあいつがあれほど結衣に執着を見せるのか分からんな。」
「超絶可愛いからね!!うちの娘にしたい!!」
「いいですね」
紫波とハクのふざけたセリフにため息が出る。
「蛇親子、意外と怖いもの知らずっすね!!!」
「連絡もあるのですか?」
「ああ」
光久の質問に眉間に皺が寄るのが分かる。
結衣の携帯には日々悠貴からの着信やメッセージが届くようになった。
「結衣のスマホは新しくした。連絡の取りようがなくなって情報をとりに来た感じではあったな。明日からまた禊を再開されたらたまらん。」
「こちらが姫様と会わせまいとしているのはバレているはず。馬鹿の一つ覚えの様に禊を繰り返すような男とは思えませんが」
「ああ。やけにあっさり帰ったし、本当に結衣がうちにいるかを確かめに来ただけだろ。出てはいないが着信を拾ってしまってるからな。うちには来てないと騙すことも叶わん」
たかが人間の男1人。
それなのに脳が警報を鳴らす。
「眷属の中じゃうちにしか電波は入らないもんねぇ~」
「涼、お前は引き続き悠貴を見張れ。小四郎を使っていい」
「承知~!」
「俺!?」
◇◆◇
「かすみちゃん、ガン見だね~!あのお方、穴あくんじゃない?」
マリーがケラケラと笑って言う。
かすみさんの視線の先、ガラス張りのシガレットルームには飄々とした雲雀君が煙草を吸ってる。
「月宗様も、煙管吸ってる……」
前に一度見たことはあったけれど、普段は吸っていない様に思う。
「あれは殿方の社交ですのよ。紫波も葉巻を吸っておりますが実は得意ではないのです」
冬乃さんが説明をしてくれる。
「へぇ」
キセルを持つ長い指に見惚れてしまう。
かすみさんの気持ちがわかる。常に彼を探して視線が泳いでしまうもの。
「結衣、良かったね」
「うん。マリーのおかげ。好きな人のために身を引くより、彼の為に頑張れるほうがいいなって気付けたから」
クッションを詰めたバスケットに、涼風と類君が眠っている。
2人の頭を撫でて掛け物をかけてやる。
「私は何もしてないよ?なのに平民の私に侍女の話も司書の話もシンデレラストーリーすぎて未だに心臓バクバクいってる!!」
「マリー様、同じ眷属神の領土とは言え、狛犬の方が格上。大きな心配はありませんが最初のうちはお身体を厭いなさいまし」
「はーい!承知しました!」
「体に何か影響があるの!?!?」
「大きな心配はございません。八咫烏とて立派な眷属神。ですが、空気の清浄さではあちらに敵わないのです。なれるまではくしゃみや咳が出る事があるかも、という程度でございますよ。紫波から、良く効く薬も既に手配済みでございます」
「大丈夫大丈夫、現に妖の里にいても大丈夫だし、継続してママの診察とリハビリもしてもらえるなんて私まだ夢を見てるみたい!!!!結衣すごい!!!!」
私がすごいんじゃない。
だるそうに煙管をふかす彼を見やる。
私に安心と優しさをくれる彼と目が合う。
目だけを細めて笑う彼に心臓がギュウと悲鳴を上げていく。
あとで沢山甘い物を一緒に食べよう。
早くあの腕の中に入りたい。
涼風と一緒に。




