蛇の里
《月宗 SIDE》
「結衣様の兄上が神域で禊をはじめたようです。情報をとりに一度こちらに来るつもりでしょうか」
光久の報告に眉間に皺が寄る。
「馬鹿犬が情報をもらしたんだろ。結衣がこちらに帰ったことを知っているとしか思えん」
馬鹿犬が結衣ほしさに無い知恵を絞っているのだろう。
「家族の訪問は断られへんし、一日のことやさかい、我慢するしかあらへんなぁ」
「あの兄貴頭おかしいんで姫様に近付けたくないっス!」
「我が里に外遊の体をとっては?母も姫様に会いたがっておりますし」
結衣の治療に来ていたハクの台詞に頷いて見せる。
「結衣には何も言うな。あの兄貴の話をしただけで体が強張る」
「「「「「 承知 」」」」」
◇◆◇
「結衣、紫波の妻から結衣あてに茶会の招待がきたぞ」
カラスの里に帰って一週間ほどが過ぎた。
達筆な筆文字で宛名が書かれた薄い藤色が綺麗な封筒を渡され、涼風が興味深そうに覗き込む。
「八雲おじさまの?って事は蛇の里!?わぁ!すごい!」
「お前が行きたいと言っていたと伝えたらすぐに送ってきたぞ。かすみを連れて行け。あいつが全部うまくやる」
「かすみさん?」
「ああ、茶会なんだ。人数多い方がいいだろ」
知り合いがいる方が安心だし嬉しいな。
膝の上の涼風も嬉しいのかぴょこぴょこと揺れている。
「3日後だって涼風!何を着て行こうか?まだ寒いから、あったかくしていこうね?」
涼風がくまさんつなぎのお腹を引っ張りコレだと主張する。
一張羅は、くまさんなのか。
「あー……、レレが承知してるだろうが、薄着でいい」
「?そうなの?」
狛犬の里みたいに四季がないとかだろうか。
妖であるおじさま達はカラスの里と同じく現世に里があるはずなのに。
「蛇の里は、地下だ。」
◇◆◇
蛇の里へは移転で入った。
地下と聞いていたので洞窟の様な物を想像していたけれどまるでちがう。
天井が見えないほどの高さで、ローマ神殿の様な白い柱が何本も等間隔に並び、壁も床も全てが白い大理石でできている。
「こちらです!姫様!」
蛇族で唯一移転が使えるヨダカ君が案内についてくれて、月宗様と雲雀君はいないけれど、みんなで遠足みたいで楽しい。
「凄い……綺麗だね」
「ありがとうございます!姫様には慣れない建築様式かもしれませんが母が張り切って準備致しました!楽しんでいってください!」
大理石でできた水場が至る所にある。
宗家の御屋敷に通じるアプローチの両脇にも清浄な水が流れている。
宗家のお屋敷は白と銀で統一されたローマ風と日本家屋風、その両者の良い所を掛け合わせた様な豪邸。
——「ようこそいらっしゃいました姫様」
大勢の蛇族の方々が平伏し、その先にハクさんと、ハクさんそっくりの糸垂れ目の美人が立っていた。
「お誘いありがとうございます!こんな素敵な所に来れて嬉しいです!」
ヨダカ君の腕の中からハクさんの腕にジャンプして移る涼風を微笑ましく見送り、ご挨拶をする。
「紫波の妻でございます。冬乃と申します」
ハクさんとヨダカくんそっくり!!
長いまつ毛まで真っ白の美人さん。
垂れ目の下の涙ボクロがめちゃくちゃ色気を出してる。
これはおじさまメロメロだろうなぁと思う。
「結衣と申します、お会いできて嬉しいです」
「まぁ!お可愛らしい。今日は沢山食べておしゃべり致しましょう!カラスの御当主様からのサプライズプレゼントもございますのよ?ふふ、溺愛ですわねぇ」
「母上、それを言ってしまっては……はぁ、すみません、母は箱入りなもので」
ハクさんが手を額に当ててため息をつき、涼風がその彼の腕をよじよじと登っていく。
知らん間に懐いたな?
恭には全然懐かなかったのに。
こちらですと案内されたのは大きな地底湖だった。
湖の中からも何本かローマ風の柱が天に向かって伸びていて、遠くに見える天井にはクリスタルのような鉱石が剥き出しでこちらを向いている。
柱を伝って時折天井から柔らかく水が流れ落ちてくる音が心地よく、地上の楽園ならぬ地下の楽園って感じ。
「涼風、凄いねぇ!!」
中型の船で湖の真ん中に建てられた豪華な円形のガゼボに降ろされ、中に待つ人の影に驚いた。
「マリー!?!?」
「まり」
涼風までびっくりしてハクさんの腕から声を出した。
「はーい!一週間ぶり~!八咫烏のご宗主からお手紙もらったの!びっくりして倒れるかと思った!!!!」
「お、お母様は!?」
「父が診察中でございます。母御は我らが責任を持ってお預かり致します故、その間マリー殿はゆっくりされていかれよ」
「蛇のご宗主の診察なんて、どんなにお金をつんでも無理なのに!!!結衣、ありがとう!!!!!」
感激したマリーに抱きつかれ、私はもっと強い力で抱きしめ返す。痛む腕なんて関係ない。会えてすごく嬉しい。
マリーが呆れた様に背中をポンポンとしてくれる。
月宗様には、初めてお友達ができたんだよと一度だけ話しただけだ。それだけで。
「月宗でしょう!?まったく結衣様の為ならなんでもやるわねアイツ!!ってゆーかなんで雲雀様が居ないのよ!!!」
「姉様がお仕事をする為でございます!!」
「キィィィィっっ!!!」
カオスになってきた頃、男性陣は光久さんと類君だけおいて岸に戻っていった。
涼さんと小四郎君は岸辺からの警護なんだって。
「さあさ、こちらへ。楽しくおしゃべり致しましょう!夫と息子達の命の恩人ですもの、最高のおもてなしをいたしますわ!?」
「いえ、あれは成り行きというか……」
「ふふ、良いのです、蛇一族は姫様のお人柄に牙を折りました。全面降伏でございますわよ?」
意味のわかっていないだろうマリーがうんうんとうなずく。
湖の中のガゼボ。足首まで水に浸かりちゃぷちゃぷとした感覚が心地いい。
水面を渡る風が柔らかく、暖かい。




