里の違い
久しぶりの蜜蜂涼風にニマニマしてしまう。
ここに帰ってこられて1番嬉しいのは、涼風がとても楽しそうな事だ。
毎日張り切ってレレさんと共にクローゼット部屋に行き、好きな着ぐるみを選んでくる。
レレさんに抱かれた涼風の後を、しっかり獅子丸が付いていくのが面白い。
私の側を離れなかった狛犬の里と違い、好きな時に好きな人のところへ類君と遊びに出かけていく。
律儀な類君が、毎回私に
「小四郎殿の所へ行って参ります!」とか報告するのも楽しいし、月宗様の登場回数が多いのも微笑ましい。
涼風、謎に月宗様の事大好きだと思う。
私の用意が終わる頃に顔を出すと、大体一緒になって遊んでいるか、くっ付いて寝ているかのどちらかだ。
早く涼風に神饌を供えてあげたいけれど、腕が痛んで物が持てず断念した。
一度マキノさんに淹れてもらったけど、涼風は見向きもしなかった。
はやく腕をなおしたい。
丁寧に淹れたお茶やお点前を涼風に供えてあげたいと思う。
◇◆◇
食事のたびに月宗様のお部屋に行く。
本当に彼が全てやるようで、毎回口に運ばれる。
「お仕事は、いいの?」
「夜臣が上手くやる。元々お前が里に来たら夜臣に任せられるように準備していた。俺が現世で働く動機も夜臣と違って不純だしな」
「何のために働いてるの?こっちで宗主のお仕事があるのに」
「お前への贈り物を買う金が欲しかった。ガキの頃、うちの里は本当にギリギリで、耀が用意した物だって精一杯だったんだ。俺も、あれ一つしか用意してやれなかった事が嫌だった」
そんなの、全然いいのに。
その胡桃の紅は私の宝物なのに。
「夜臣は完全に里のためだな。俺達眷属神は神籍の末席を頂いている。紫波達妖とは違う。神と同じ、人間からの信仰の大きさで力や財が決まる。俺達はそれが眷属一少ないからな。現世での仕事は必然だった」
なるほど、信仰は月宗様達の力になっていくのか。
「夜臣や雲雀達三柱家は、俺達八咫烏が祀られる主要神社を任された家系でもある。雲雀の右柱家が守る神社はどこにあると思う?」
「京都!?だから雲雀君だけ京都弁なのか!」
月宗様が目だけを細めて笑う。
この人のこの笑い方が好きだ。
眩しいものを見る様に私を見る。
「任された神社周辺の穢れを祓うのが本来の俺達の仕事。神域であればすぐに行けるが、結衣の学校が都合よく神域にあるわけじゃないからな。だから八咫烏の里は都合が良かった」
近いからって事だろうか。
神様界隈の常識がよくわからない。
頭の上に疑問符が浮かんでいる私を見て、月宗様は苦笑して続ける。
「神格が高い一族ほど天に近い領土を持つ。そこに住みなれた者が、現世の様な穢れの多い土地に長時間は居られない。普段は神域にしか用事は無いからいいが、結衣の学校の様なイレギュラーな場所は馬鹿犬達には無理だろうな」
「八咫烏は、全然平気なの?」
「数日程度なら何ともないな。妖力が高ければもっといける。一度ここに帰れば特に何の問題もない。言ったろ、雲雀は現世の学府を卒業してんだぞ」
ここに居られれば大学も卒業できるかもしれない。
ちょっとだけ将来の見通しが立って嬉しい。
「また、学校に迎えに来てくれる?」
「おう。甘いもん食って帰ろうぜ」
「ん」
ひょいと抱かれて歩き出す。
お散歩に連れて行ってくれるんだと分かる。
怪我をしたのは腕なのに、なぜか抱いて運ぼうとする。
ゆっくり、振動が伝わらない様に優しく運ばれる。痛む腕を気遣ってか、腕がふんわり置かれる様に両手で横抱きにしてくれる。
愛情の真偽が分からない花嫁とは残酷だ。
けれど月宗様だけはそれを感じない。
心から私を思ってくれているのがわかる。
同じ眷属神の当主なのに、彼だけ。
「腕が治ったら、またどこでも連れて行ってやるよ」
「うん。現世もいいし、八雲おじ様の里も見てみたい。それに八咫烏の里は他にもあるんでしょう?そっちも」
「早く治せ。全部連れて行ってやるから」
前を歩く獅子丸タクシーの涼風と類君が楽しそう。
時折屋敷の使用人らしき人や、三柱家の方なのか、わりと豪華な着物の方に会うけれど、皆が端に寄ってしゃがんで頭を下げていく。
お屋敷の中ではひれ伏されるのがまだ慣れない。
「ここは、狛犬の里と全然違うね……」
「そうか?最近まで貧乏一族だったからな。女もキビキビ働くし、あっちみたいに余裕ねぇだけだろ」
狛犬一族の女の子達はふわふわキャアキャアしていた。
毎日お茶会やら社交会やらをこなし、習い事に精を出す。
貴族社会なので女の子は真剣に結婚相手を探している印象を受けた。
八咫烏の里は全然違う。
キリリとした方が多い印象。
あのかすみさんも、央柱家の女として役目があるそうだ。
宗主を見る目も全然違う様に思う。
恭は物語の中の王子様といった感じだった。
常に黄色い声援が飛び、憧れと恋慕の視線が刺さっていた。
月宗様は畏怖と崇敬の目だと思う。
タイプは異なるけれど、同じイケメンでもここまで差があるのかと不思議に思う。
それぞれの宗主が築く、まったく別の里の雰囲気。
妖狐の里も、きっとまた違った色をしているのだろう。
違うのは、私の気持ちも。
恭が他の子とダンスを踊る事は何とも思わなかった。けれど。
「月宗様…………他の子と、ダンス、しないで」
「?うちにダンスの習慣はねぇよ」
「他の子と、デートも、やだ。私の為でも、嫌」
「~~~~~~っ!?」
歩みを止めた月宗様とキスをする。
私を抱いているのでいつものキスの合図が無いのが寂しいなと、贅沢な事を思ってしまう。
その分私が彼の首に手を回す。
腕が痛まないように、そうっと。
彼の黒髪に触れて心が躍る。ドキドキが大きくなって、焦がれて苦しい。
「大好き」
「ああ。抱き上げたまますんのはちょうどいいな。俺暴走できねぇもん」
「暴走って?」
「………………おまえなぁ、俺が男なのちゃんとわかってんのか」
「?分かってるよそんな事。どう見ても女の子には見えないよ?」
「おいふざけんな。片手でも抱き上げられんだぞ」
「?片手があくと、何かあるの?」
「………………俺は何を言わされてるんだ……普通にさわるだろ!!惚れてんだぞお前に!!」
「?いいよ??」
「!?!?!?あーー……っと、それは具体的にどの部位を何時間……?」
「?」




