四臣密議
「馬鹿犬が結衣に本気になったようだ」
「あないな怪我させてますのに?」
結衣の腫れあがった両腕を思い出す。
結衣が嫌がったため厳重抗議にとどまったが、本音は殺してやりたい。
「俺は結衣から甘い匂いを感じる。それは日々強くなる」
「甘い、匂いですか?感じた事はありませんが……」
「女の子はいつもいい匂いよ?」
光久と涼を一瞥し、雲雀と小四郎にも返答を促す。
「僕も感じた事ないわ」
「俺も無いっス!今度匂ってみていいっスか!!?」
「殺すぞ。当主にしか感じられないのかもしれん。それぞれの当主の好む匂いを出すようだ」
あの、甘く溶ける様な匂い。
「結衣を…………花嫁を大切に思うほど強くなる。馬鹿犬がうっすらとだが結衣から花の匂いをかぎ取ったらしい」
「犬が…………うっすらですか?」
「ああ、俺もそこに引っ掛かって気がついた。あいつが結衣に惹かれ始めた証だと思う。元々花嫁とは眷属への褒賞だ。宗主の番を贈られたと考えてもおかしくない。ただし、心から大切にしないと自覚できん様配慮されているのかもしれん」
「そうなれば益々姫様に会わせられません。姫様は天道寺殿を悪く思ってはおりません。あの様な怪我、ありえない事です。苛つき、怒りを姫様にぶつけたとしか思えません」
「天道寺本人に自覚がないんだろうよ。棚ぼたで手に入れた結衣に上手く取り入ったはずが、婚約者が騒ぐなど宗主としても大失態だ。怒りのぶつけ先が無かったんだろ」
嫁取りとは環境がものを言う。
八咫烏の事情も、天道寺の人気ですら。
まだもう一つ問題は残っている。
天道寺ばかりに構ってはいられない。
これが一番厄介なのだから。
「涼風、結衣が寝たなら来い」
空間に向かって呼びかけると、ポワッと青く光る陣の中から布面の下で目を擦る黄色い姿が現れる。
「ほんまに声かけるだけで分かるんやなぁ」
とことこと俺の前にやってきて膝にすとんと座る。
「天衛とは三大欲求のない器と聞いておりましたが…………」
「めっちゃ寝ますよね!涼風!」
光久と小四郎がまじまじと膝の上の涼風を見る。
「お兄さんの所においで~~~」
「りょー」
涼を呼ぶが動く気配はなく、俺の膝に座る姿は布面さえなければ人間の子どものようだ。
「涼風、おまえはこれからも結衣のそばにいたいか?」
キョトンとした涼風がこくんとうなずく。
「一応聞くが、婚姻がなされてもお前がここに残る方法はあるか?」
黄色い生き物は何か考える素振りをした後ふるふると首を振る。
「わかっとったけど、やっぱあかんか…………」
「もう一つ聞く。理に触れるのなら答えなくとも良い。婚姻ではなく婚約でも、お前は帰らなければならないか?」
婚約までなら涼風は帰らなくてすむかもしれない。
結衣を抱いて婚約者の立場に置いても天衛の守りは続くのであれば、今の俺たちに最善の道はそこしか無い。
否定を意味してふるふると首を振る涼風に安堵して頭を撫でてやると、猫の様に俺の着物の合わせの中に入り込み、くうくうと呑気な寝息をたて始めた。
一つの問いかけにこんなふうに緊張したのは初めてだ。
「はぁ~~……。首の皮一枚繋がったな……ふざけた格好の奴にこんな真面目な質問する俺って……」
一気に力が抜け、片手で顔を覆い天を仰ぐ。
「お姫さんがうちの事情とも戦ってくれるんやったら、すぐに婚約まで持っていったらええんちゃいますの?」
「おまえなぁ、相手は真っさらな女だぞ。
時間かけてやらなきゃ可哀想だろ!」
「え?前戯に?それは処女関係なくない?」
「涼お前はもう黙れ」
「やっちゃうしかないっス!」
「せやんなぁ」
「ヤッチマイナ!お兄さん応援しちゃう!」
「………………はぁ、貴方達、親指を立てるのはやめなさい。しかし月宗様、天道寺殿がご自分の気持ちに気がつくのも時間の問題。今宵姫様の寝室にご出陣を」
「「「 わはははははは!!! 」」」
「俺の四つ守は馬鹿しかいねぇのか……」
「ゆうたかて、気持ちは確かめ合わはったんやろ?そやのに、我慢できますの?」
「……………………いけるか?………いけるよな俺?……………」
「溺愛しておりますし、姫様の為ならば…………」
「いや無理だろ!!あいつ羽根にすりよってくんだぞ!!」
「そのくらい仲が良ければ普通でしょ~?スキンシップよ?」
「羽根の、中な!?」
「あ、俺鼻血出たっス…………」
「無自覚でそれをやられると…………くるものがありますね…………」
「だろ!?大事な女にやられてみろ!身動きできんだろ!!!」
「大切すぎても地獄っと!メモメモ!」
「小四郎にそんな華やいだこと起こりようもおへんやろし、気ぃ揉まんでよろしいわ」
「ひでぇ!」




