甘い匂い
「落ち着いたか?涼風との関係を築き始めていたお前には、言えなかった。何とか方法を見つけて、お前が知らないうちに涼風を残してやりたかった」
「ゔぁっ、っあ、……」
「…………時間は作れる。花嫁にならなければいけない期限はない。お前がここにいるなら、俺はこのままでも良い」
「っ………………う、ん…………」
「ほら、もう泣きやめ」
目元にキスを送られて、涙を吸われていく。
「あっま……お前涙まで甘いのな?」
「普通に、しょっぱい……」
あまりにも泣きすぎて、唇の端に塩の味が残っているもの。
さんざん泣いて、ようやく泣き止んだ今も、私の背を撫でる手は変わらない。
「あーー……甘い匂いやべぇ」
「…………?香水は、つけてないよ?なんでだろ」
「さぁ?お前は出会った時から甘い匂いだぞ?」
「恭は、私が花の匂いって言ってたよ?」
「比喩や例えじゃなく甘い匂いだが……花ではないな…………?結衣お前、それいつ言われた?」
急にまた真剣な表情で月宗様が聞く。
何なのだろう。
「えと、ダンスを踊った時だから最後の日かな」
「その時の奴の様子は?」
「?不思議そうにしてた。うっすらだけど、心がほぐれるって」
「犬が……うっすら…………?」
それきり月宗様は考え込んでしまう。
暇になった私は彼の羽根に擦り寄って待とう。
あったかくて、冬の森みたいな匂い。凛とした、朝の匂い。
「お前っ!!考え事ぐらいさせろっ!!!」
ガバッと腕も羽根も上がってしまう。
「えぇ?邪魔してないのに」
「~~~~~~っ!?」
一気に外の冷たい風が押し寄せてくしゃみをした私に、慌てて羽根を戻してくれた。
羽根の内側に頬擦りして甘えると、今度はガチンっと固まって見下ろしてくる。
「~~~~~~っ!?お前それ他の男にやるなよ!?」
「??羽根の中に入るの、月宗様だけじゃない?」
「~~~~~~っ!?」
何なのか。普通に考えて月宗様以外の羽根の中に入ることはなさそうだけれど。
黙り込んだ月宗様の手が私の襟足から添えられる。
彼のするキスの合図。
きっと無意識にしてるこの合図が私を溶かしていく。
髪を分けて添えられた長い指が、キスのたびに私を優しく引き寄せる。
「お前、こんだけ俺に妖力送って何ともないのか?」
「送ってる自覚すらないよ?」
少しでも月宗様の力になれるのなら嬉しいな。花嫁としては、弱いのかもしれないけれど。




