恭とのダンス 1
薬の作用でまた眠ってしまった私が起きたのは次の日の昼過ぎだった。
狛犬の里の自室。
枕元に、木箱を抱いて丸くなって眠る涼風がいる。レモン色のモコモコつなぎはもう着ていなくて、肌着姿で寝ている。
「熱……下がってる」
八雲おじ様の薬が効いたんだろう。
ダルさももうほとんどない。
「お礼…………言えなかったな……」
涼風の抱く木箱を見ながら呟く。
桜子と共に八咫烏の里に帰ったんだろうか。
彼に会ったら追い縋ってしまいそうで怖いのに、一目でいいから会いたいと思ってしまう。
桜子と婚姻を結んだら、もう境目屋敷でだって会えなくなるかもしれないのに。
「姫様……お加減はいかがでしょうか」
続き部屋から類君が獅子丸と共に心配そうにこちらを覗く。
「ん、もうすっかり良いみたい。類君ごめんね、あなたを八咫烏のお里に帰してあげようと思っていたのに……」
「そのような事!!私は自分の意思でここにおります!ご宗主様から必ず護れと念を押されました、兄様からもです!!」
「夜臣さん…………」
夜臣さんは一族の為に桜子を推しているはず。
「兄は…………母や私の様な者を二度と出したくないだけなのです…………」
「うん。分かってるよ」
だから私は身を引くしかないのだから。
「紫波殿からお薬を預かっております。まずは何かお腹に入れましょう!!」
————「俺がやっても?パン粥を用意させた」
銀のトレイを持った恭が扉に立ってる。
珍しく軍服ではなくラフなシャツ姿だ。
「頑張ったな」
そう言って私の頭を撫でる。
起きた涼風が類君によって衣装部屋に連れて行かれた隙に、恭が私の背中側に座り抱き込まれる形になった。
「この方がやりやすい」
「自分で、食べられます……」
「ゆいに任せると食べる量が少なすぎるそうだからな。俺がやる」
「………………」
「ちゃんと食べて、5日後のパーティーは楽しもう」
そうだった。
大規模なパーティーを開くと言ってた。
移転が使えない様な遠くの貴族も集めた大きなパーティーは久しぶりなんだそうだ。
「城中が浮き足立っている。俺も、ゆいと踊るのは楽しみだ」
「下手くそですよ?」
一曲のみに絞って練習しているというのになかなか上達しない。
「大丈夫、俺と踊ればわかるよ」
そういうものだろうか。
「ちゃんと食べさせろと蛇の宗主に釘を刺された。急かすつもりはないが、身体は労え」
スプーンを私の口に運びながら恭が言う。
「はい、すみません」
「いや、いい。今回は良く頑張った。何なら毎月この手で行くか」
ニカっと笑い、私に果実水を飲ませてくれる。
「ふふ、仮病じゃ八雲おじ様にすぐばれますよ」
「それもそうか」
私にしっかり一皿完食させ、夕ご飯も食べさせに来ると言い置いて恭は去って行った。
ベッドにぽつんと置かれた木の箱を見てじわじわと目頭が熱くなる。
着替えを終えた涼風に空間にしまってもらって、ようやく胸の奥のざわめきがゆっくりとおさまっていった。
◇◆◇
「手伝いにきたよ~~~!お、天衛君、軍服似合うね~~~!」
パーティー当日、ドレスの着付けを手伝いに来てくれたマリーが涼風の頭を撫でながら褒める。
恭から贈られた藍色のドレス。恭の瞳の色。
「コルセット風のチューブトップなの。後が紐で…………!」
「は~~~い!まかせて~~~!ヘアメイクもやったげる~~~!」
「マリー様様!!!」
元メイドのマリーは器用なのか凄いスピードで仕上げていく。
適当に縛って、口紅だけさして出席しようとしていた自分が恥ずかしい仕上がり。
「ほわ~~~!かんわいぃ!!シンデレラ!!」
あ、シンデレラは知ってるのか。
緩く巻かれた髪に銀の花を散らしてくれる。左右に花飾りを付けて完成。
「城内の浮かれ具合がすごいよ~!私は図書室に帰るけど、お披露目頑張って~~~!」
「うん、ありがとう。頑張ってくるね」
ドアがノックされてマリーと入れ替えに恭が迎えに来てくれた。
「美しいな。女神をエスコート出来て鼻が高い」
「言い過ぎです……でも、ありがとう」
恭のエスコートで大ホールまでの廊下を歩く。
式典用なのか、シルバーの軍服がとても似合っている。
いつもより人の多い城内は、恭への黄色い声が至る所で聞こえ、中には倒れる子まで出る始末。
その全てを丸っと無視して恭は進む。
本当に不自然な程の無視。
恭にとっては慣れすぎて、蝉の声くらいにしか思っていないのかも。
獅子丸タクシーに乗った涼風と類君が興味深そうに声のする方を見るけれど、あまりにも多いのでこの2人も途中から慣れたのか反応しなくなった。
私だけが気にしてしまい目が泳ぐ。
軍服姿の涼風を見守る事に意識を集中させて、余計な音を遮断しようと試みるけれど、やっぱりうまくいかなかった。




