恭とのダンス 2
宗主一族は大広間の二階席から階段を降りていき入場する。
中二階に宗主一族の席が見える。
完全に王様の席。
里の宗主ってのは他の眷属神と合わせた呼び名ってだけの気がする。
皆の視線が突き刺さる。目立つのは苦手だけれど頑張らないといけない。
王席には恭のお父様が座り、入場した私達を見てニコリとする。
恭に似ず、髭の生えたムキムキ系のご宗主様は私の事情を全て恭から聞いているのか、いつも見守ってくれている。
「花嫁殿、よく来た。楽しんでいかれよ」
「本日は素晴らしいパーティーにお招き頂き、ありがとうございます」
初日に軽い挨拶をしたきりだったので、今回はちゃんとしたい。付け焼き刃で習ったカーテシーだけど何とかなった。
「俺の母も君と同じだった。傷ついた心は我が息子が埋めるはず。時間はたっぷりあるからな」
ガハハと笑って楽しんでおいでと送り出してくれた。
お母様が同じだった?どういう事だろう。
「俺のお祖母様は、人間の花嫁だったんだよ」
ホールへと降りる階段で恭が楽しそうに言う。
「お祖母様は、現世に恋人がいたそうだ」
「不思議な縁ですね…………」
「犬ってのは、慰めるのが得意なんだ」
ニカっと笑って私の腰に手を回した所で音楽が始まった。
「わわっ……!」
「大丈夫、俺に任せろ」
余裕な恭がリードするダンスは本当に踊りやすく、次のステップがどうとかターンがどうとか考えなくとも勝手に体が動く。
「な?」
「す、すごいっ!」
「はは、可愛いな」
ふわりと恭に抱き上げられて目線が上がる。
「ん?ゆい、うっすらだが花の匂いがする。心がほどける……離れがたくなるな」
??香水なんて付けてないし今日は生のお花も使っていない。けれどダンスの最中にそこまで会話出来るほど余裕もなく、返事が出来なかった。
一曲しか覚えられなかったダンスが終わると会場中から拍手が送られて、自分達しか踊っていなかった事実に驚愕する。
「ひぇ…………」
「ゆい、次の曲も俺と踊ってくれないか」
「次??」
一曲踊ればいいと言われ、その一曲だけを練習したのに??
「連続で踊るのは、婚約者だけだ」
「…………でも…………」
どう返事をしたら良いのか分からない。
シンとした会場で、楽団員達が私の返事を待っている。
タタタタとホールに響く足音がして涼風が走って私の腕に飛び込んで来た。
ふんす!と居座り、もうダンスどころじゃない。
「ぷは!まだ駄目か。ゆいの騎士は厳しいな」
破顔した恭が私の手を取り、ホール全体に向けて優雅に答礼した。
皆の割れんばかりの拍手が答える。
「涼風、ありがとう」
小さく囁くとスリっとおでこを擦り付けて返事をくれた。
「挨拶は遠慮するよう通達してある。少し休もう」
「はい」
端の方に休憩ブースがあったのでそこに行くのだろうと恭のエスコートで歩き出すと、貴族達が割れていき道を作った。
恭も当然とばかりに歩く。
けれど場所を譲らずその場に留まる者達がいた。それも1人ではなく大勢。
10人はいるだろうか。女の子ばかりで、皆いつもより気合の入ったドレスアップをしているから圧巻だ。
先頭に、いつか薔薇の庭園で会ったアリアさんがカーテシーをしている。
「…………アリア嬢か、なんだ?」
ひどく苛立った声で恭が話しかけるとやっとこちらを向いた。
「恭様、花嫁様にご挨拶致したく…………結衣様、我ら狛犬の里への嫁渡り、嬉しき限りにございます」
恭がまたイラっとしたのが分かった。
許しもないのに私へ直接挨拶をしたからなのか、遠慮しろと通達したはずの挨拶をゴリ押ししてきたからかはわからないけれど。
「結衣様、儚い私達を哀れと思いお情けを頂けませんか」
何のことだろう。
アリアさんは真っ直ぐに私の目を見る。薄い金の髪が揺れ、今にも泣き出しそうな目の奥に追い詰められた色を宿した顔。
「最後の思い出に、恭様とのダンスの許可を頂きたいのです。私達はスペアですの。恭様が嫁取りを成されなかった時用の婚約者候補。儚い立場ですが、お慕いしている方と万が一でもと、儚い夢を見たものたち」
「そこを退け」
聞いた事もないような恭の怒った声。
それでも彼女はなおもつづける。
「妖狐の当主とは馬が合わなかった、八咫烏の当主には振られ、あなたには彼の方しかおられますまい。なのにあなたは恭様につれなくなさる。ここしかないから無理にいらっしゃったのでしょう?それならば最後の夢、お許しくださいませんか。今宵の一度きりでよいのです。
切に、切にお願い申し上げます」
アリアさんが頭を下げると同じ様に後ろの女の子達も頭を下げる。
「やめろ!!お前達何を言っているのかわかってるのか!!!」
怒鳴る恭の声にも彼女達は動じない。
こんな大きなパーティーは何年かぶりだと聞いた。皆浮き足立つほどに楽しみだったに違いない。私の歓迎パーティーだろうと、最後に恭と踊る夢を諦められないほどに。
「恭、ごめんなさい。あなたにまで迷惑をかけて」
「違う!!俺が頼んだんだろ!!!」
「私は戻って休むね。恭は残って」
「ゆいっ!!!」
「今の私は貴方に気持ちを返せていないもの。彼女達の言う通りだよ」
「ちがう!!!」
「一人になりたいの、恭、ありがとう」
「っ!!?」
私はまたここでもうまくいかなかった。
何となく気がついていた。
私はいつも人の期待通りに動けない。
だから桜子も悠君も、私の周りはなんだか私の思いとチグハグになって行く。
あの人だけだった。
自分の心に嘘をつかなくていいのは。
それはあの人が私を型にはめないからだ。
いつも私が自由である事を守ろうとしてくれたから。
無くしたものばかりを求めてしまう自分が嫌だ。




